世の中にあふれるたくさんのデータに注目し、その背景にある「調査方法」「分析方法」をジャーナリストの長野智子さんとともに検証していくコンテンツ『データの裏側』。
第1回に続き「顧客満足度No.1」……つい買ってしまう「商品ランキング」に隠されたデータの裏側とは?
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文=シンクロナス編集部
「作られたNO.1」が多い「商品」「業界」とは?
長野智子さん(以下、敬称略) どんな業種にNo.1表示が多いのかということで、これは公正取引委員会の調査なんですが、商品としては食品(健康食品含む)、そして家電製品、私もよく使ってしまう化粧品で半分以上を占めているということですね。
やはり食品・健康食品が一番多くなってきますか? 2008年でだいぶ古いデータではあるんですけど、現在も変わらないということでしょうか?
小林恵一さん(以下、敬称略) 現在も傾向的には変わらないです。
長野 上位を占めるサービスに共通点はあるんですか?
小林 よく考えると、一般的よりも限定的と捉えられた方がいいかなと思うんですね。健康食品は特にそうなんですが、あれはいろんなお店で売っているわけではないんですよね。
例えば、皆さんがよく行かれるスーパーやコンビニ、ドラッグストアなどで売られていれば一般的な商品としてわかるんですけれども、健康食品などは比較的販売ルートが限定されるケースが多いと思います。そういった限定的なところで売られている商品は、No.1を言えるケースが多いです。
長野 住宅リフォームも限定のエリアでNo.1を謳いやすいですよね。
小林 住宅リフォームするとか住宅を建てるタイミングは、毎年起きるわけではないですよね。何年に1回かのタイミングかと思います。学習塾もそうですよね、自分のお子さんが進学云々する時のタイミングなんです。そのタイミングは人によって確かに違うんですけれども、一般的ではないですよね。
長野 限定されたタイミングですよね。
小林 限定されたタイミングで限定された人たちの中だけで完結しようとするので、そういうところにNo.1は有効かなと思われがちなんですよね。
長野 1回そのNo.1を試すとタイミングも人も変わってくるから、検証する消費者もなかなか出てこないですよね。
小林 その時見てNo.1だったら、と行ってしまいます。ですからチラシを見ていると、学習塾なんかは毎年No.1が出てきますよ。
竹内 このエリアがNo.1というのも、不動産会社が頼んでいるケースが多いこともあるんですか?
小林 不動産会社が頼むっていうよりも、調査もどきの会社が不動産会社に営業をかけて、「このエリアでNo.1と言えるように調査しませんか?」と仕向けるんですね。その手法をもう一度ご説明します。
「顧客度満足度No.1」の舞台裏とは?
小林 実際にあった事例です。ある県の工務店が、顧客満足度No.1と○○No.1で三冠を取りましたと、地元のコミュニティ誌に掲載し、ホームページ上にも公開しました。
競合する会社から「それはおかしいのでは?」というクレームが入り調査機関で調べてもらったところ、ある県のNo.1を謳っているのに、調査をかけていたのが北海道から沖縄まで日本全国で1000人強の方々に調査をかけていたんです。
アンケートに答えた該当する県の人は1000人強のうち、わずか8人でした。これっておかしいと思いませんか?
長野 他の全国の人はどうやってそのアンケートに答えるんですか?
小林 そこなんです。ここの県のこの工務店を知っているか知らないかは、一切関係ないんです。
顧客度満足度というのは本来的にはサービスを使ってみて「あそこはよかったね」というのが満足度なんですけど、調査の項目の中に「以下の企業の中で、あなたが顧客満足度1番だと思われる会社はどこですか?」という聞き方をするんです。
そして、その選択肢の一番上が必ず広告主の企業になるようにしておくんですね。一般的によく知られている工務店名は、スマホで1回か2回スクロールしないと出てこないような下にセットするんですね。なおかつ、その地方の直接の競合となる会社も、広告主から距離を置いたところにセットするんですよ。
長野 答える側の習性からしたら「なんだかよくわかんないアンケートは、面倒だから上の方にチェックをして次に行っちゃう」となりますよね。
小林 だから日本全国にアンケートをかけるんです。その工務店を知っていようが知ってまいが関係なく、調査を受けた人たちは「よくわかんないけど一番目を選択しておとけばいいか」となるんですね。選択をすれば一応調査完了します。調査完了すれば、謝礼がもらえるんです。
長野 (アンケートに)答える方がね……。
小林 よくわからない人は、必ず一番上をチェックするというのは心理学的に証明されています。それを、もどきの会社は悪用しているんですね。
とある県で100人も200人も調査したら、広告主ではないところにつく可能性があります。それを薄めるために全国にして、分からない人たちも全部含めて調査をかけているのが実態だとわかったんです。
長野 それが結果的に、そのエリアの顧客満足No.1となってしまうわけですよね。
いい加減な調査に慣れると私たちが損をする
小林 そこが怖いところなんです。そしてもう一つの側面ですが、調査に回答してくださる皆さんは我々にとっても貴重な協力者なのですが、とにかくチェックだけすればいいようないい加減な調査に慣れてきてしまうと、本来頭を使う調査を面倒に感じてしまう。せっかくの調査が有効にならなくなってしまうんです。
長野 きちんとした調査会社が行う調査は、顧客のために反映される調査なのに、結局それを断わることよって、翻って消費者自体が損をしてしまうわけですね。
小林 本来的にNo.1調査という調査はないんです。私たちがしているマーケティングの試作など、試作の評価をするために市場調査はあるんです。悪く指摘をされるようなところは改善をし褒めてもらえたところはそれをもっと良くするようにしてくる。場合によっては、新商品の開発やサービスの開発などにつなげていくのが本来的な市場調査なんです。
その中のある項目で、競合に比べて明らかに優位だと評価されたものがあれば、そこをもってNo.1と言いますという形なんですね。要は、ご褒美としてNo.1表示をするのが実態なんです。ですから、恣意的な調査を当然するわけにはいかないんです。ところがNo.1にするために、色んな手立てを使って調査をしてるんですね。
長野 むしろ、商品を売っている側がお金を出してNo.1調査をやってもらおうということですね。それってすごく多いんですか?
小林 最近では非常に多くなってきていて、我々も気にかけてチラシなど見るようにしてはいるんですけれども、やはり明らかに「変だよね」というところがかなりあるのが事実です。
長野 ぶっちゃけ、お金を出せばNo.1表示をもらえるという……?
小林 そういうことなんです。結局恣意的な調査をやってNo.1を取ったとしても、それを一般の消費者の方が信用して商品を買ったとしても「え、こんなものが?」と変な目で見てしまう。「どうせ市場調査なんていい加減なものだ」と思われてしまうことを、我々は最も危惧しています。
長野 市場調査そのものの信頼を損ねているわけですね。
小林 本来の市場調査であれば、いろんなサービスや商品を開発していい形で社会に還元していくんですね。回答してくれた皆さんにも、最終的には利益として戻ってくるはずなんです。けれども、そのサイクルを壊すようなことを、もどきの会社がやっているんです。
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