おわりに

 

 私はいつも、自分の書いた本を読む前と読んだ後で歴史と世界を見る目が変わるものを作りたいと考えている。本書は特に、何か真実や事実を明らかにするというより、読み終えた諸兄姉が、特殊な史料を直接その目で見たとき、その美に息を吞み、次々と思わず言葉が溢れ出るような目利きになっていただくことに意を注いだ。

 大名行列について先学はその政治的成立の背景を追うものが多かったが、その構成について丸山雍成氏は「戦国時代以来の臨戦的な行軍形式に始まった」が、「江戸時代前期以降は実用性がうすれて形式的なものとなり、その風装も質実剛健なものから華美にながれていた」と指摘している(丸山2007)。

 この他、根岸茂夫氏(根岸2009)も山本博文氏(山本1998)も、武士の行列が基本的に徳川時代の軍学者を中心とする治世の用兵思想に学んでこれに倣っていることを明記しているが、徳川時代の軍学がその源流である戦国時代の用兵と地続きにあるものとする研究機運は文献史学になく、スポーツ医学や武道の研究で独立的になされていて、融合する気配はどこにも見られなかった。

 戦国から豊臣滅亡に至る戦争の時代における大名軍の武力編成の研究自体が希薄で、学際的な繫がりによって、その起源を探る動きは、この先も生まれそうにないように見えた。...