「子育てが終わったら、昔みたいにまた関係が良くなる可能性もあるので……」
子どもにきつく当たり、いつもイライラしているように見える妻との関係に悩みを抱えている政彦さん(仮名)。カウンセリングを通してうまくいかないコミュニケーションの背景にある「感情」に目を向けながら子どもが独立した後の夫婦のカタチに思いを巡らせると……
長年夫婦で「夫婦カウンセリング」を行い、2000組の話を聞いてきた、LifeDesignLaboの安東秀海先生がその解決策を紹介していく。不倫、セックスレス、借金から「夫が嫌いになった」といった感情の課題まで。9つの代表的なカウンセリング事例とを紹介しながら、自分の人生との向き合い方を提示する、自分を大事にできる一冊。
結婚は2012年。専業主婦の妻と小学校3年生の男の子、6歳の年長の女の子の4人家族。
子供にきつくあたり、自分に対しても常にイライラしている妻と口論の毎日。子供にストレスを与えているのではと心配している。
もっと明るい穏やかな家庭にしたいが良好なコミュニケーションをとるにはどうしたらいいのか、関係性を変えることはできるのかと悩んでいる。
お互いの感情を見つめ直すことが共感につながる
安東秀海(以下、安東):政彦さん、今、感情が動いているのは分かりますか?
政彦さん(以下、敬称略):はい、動いていますね。
安東:それはどんな感情ですか?どんな気持ちでしょうか?
政彦:やっぱり感情的にならないようにという感じでしょうか。
安東:それは感情ではなくて、感情が動いたことで感情を抑えようとする思考的な作用が働いている、ということです。感じないようにしている、その感情に名前を付けるとすると何でしょう?
政彦:悲しみとか怒りでしょうか。この状態をわかってもらっていないという。
安東:はい、そうかもしれないですね。こちらからは、政彦さんはとても悲しそうに見えます。
あと、おっしゃるとおりちょっと怒ってます、……怒りの感情もありますよね。
政彦:はい。
安東:夫婦関係が今のこんな状況になってしまっている、そのことについて怒っている。そして悲しい。それが感情の現在地だと思うんです。どうでしょうか?
政彦:わかります
安東:今、ここで、政彦さん自身が自分の感情を意識してみること。そして同時に、奥様は今どういう感情を持っているんだろうと見つめてみることが、まずは大切です。
「そうか、俺は今、悲しくて腹が立っているんだ」ということがわかりましたよね。じゃあ、次に奥様はこの状況でどんな感情を抱えているでしょう?今朝も不機嫌な顔をしていたけど、それはどういう気持ちだったんだろうって考えてみます。
どんな感じがしますか?
政彦:向こうもやっぱり悲しさとか怒りとかを持っているんですね。
安東:そうかもしれないですね。朝、不機嫌な顔を見せられると、腹が立つしイラッとする。
だからそれ以上「感情的にならないように」感情から距離を置いてコミュニケーションを避けるのが定番になっているんですが、ここでちょっとだけ踏み込んで感情にアクセスしてみると、「なんで朝からあんな不機嫌な顔されなきゃいけないんだよ」って腹が立っていたり、「なんでこんな関係になっちゃったのか、昔は仲良かったのに」って悲しかったりするのかもしれません。
こうして政彦さんが自分の感情にアクセスしつつ奥様の感情にも目を向けて見てみたら、あの不機嫌な様子の裏側にある感情がちょっと見えたりします。そうすると、俺も悲しいけど、彼女も悲しかったのかもって思えたりもします。わかりますよね。
政彦:わかります。
安東:はい、これが共感です。俺も悲しいし彼女も悲しいんだ。感情を扱っていくってこういう感じなんです。まず自分の感情を意識して理解ができること、次に相手の感情に目を向けて、理解しようとしてみることです。
政彦:難しいですね。
安東:そうですね、こんな風に普段は考える余裕もないですからね。でも、本当に難しいのは、自分が自分の感情をわかっていないと、相手の感情にも鈍感になりやすいということかもしれません。
特に我々男性は自分自身、感情をあまり感じるのが得意ではないので、感情が動くような場面になると自分でも気づかないうちに心を閉じてしまっている場合があります。心が閉じた状態で相手の感情を感じるなんてもっと難しいですからね。
なので、「不機嫌な顔すんなよ。朝からイライラすんなよ」ってシャットアウトしまうのですが、「そんな顔を見せられて自分はどういう気持ちなんだろう」って自分の感情を見てみると、「嫌だよね、腹が立つよね、悲しいよね」って少し心が開いてきます。
そうやって少し心が開いた状態で奥様を見てみると、ひょっとして同じように彼女も悲しいのかもと理解ができたりします。
政彦:悲しさで共感するのかぁ。
安東:感情に共感が生まれると、心の距離も少し縮まります。
良好なコミュニケーションのためには、心の距離を近づけることが大切です。怒っていたり、イライラするとどうしても心は距離を取りたくなるんです。心の距離が離れていると、どうしても否定的に見えやすくなりますし、そんな状態でコミュニケーションすると、やっぱり批判的にも攻撃的にもなりやすいものです。
いっぽうで、「悲しい」という感情は、人を近づける作用があります。怒っている人とは距離を取って離れたくなりますが、悲しんでいる人がいたら近づいて励ましたくなるのが自然な反応なんです。
政彦:確かにそうですね。
「悲しみ」は距離を縮めるチャンス
安東:だからこそ、...