広島東洋カープ入団1年目から鈴木誠也選手の取材を続けてきた前原淳氏のレポート「データと誠也」の第八回。
第一回 「33.5インチ」/秘められた2023シーズンの思い
第二回 「178打席」/吐露した苦悩……「振れたらいいのに」
第三回 「31人→176人」/メジャー2年目の覚醒に不可避な対応とは?
第四回 メジャー屈指「大谷超え」のスピード、ホームランが増え始めた秘密
第五回 鈴木誠也、なぜ打撃に浮き沈みが生まれるのか?
第六回 若かりし鈴木誠也が語っていた「四球に興味はない」、メジャーに来てどう変わったか?
第七回 絶好調の鈴木誠也、シーズンを通してチームの浮沈を握っていた
SEIYA’S PICK UP DATA→「.610」→「.701」
カブスが3年ぶりのポストシーズン出場へ正念場を迎えている。
シーズン前半戦は最大「借金10」を抱えるほど不調に陥っていたチームは8月を18勝9敗と大きく勝ち越すと、一気にプレーオフ争いに顔を出した。一時はブリュワーズと優勝争い繰り広げたが、残り4試合となった現在はワイルドカードの3枠目を争う。
ここ数試合では痛い逆転負けが続く。鈴木自身もエラーが逆転負けに直結する痛恨のプレーを犯すなどまさに正念場である。
しかし、チームがここまで急浮上した理由に鈴木誠也の爆発があったことは疑いようがない。
つなぎの役割だけでなく、走者を返すクラッチヒッターとして、チームの大きな得点源となっている。
急上昇する打撃成績の中で注目したいのが長打率だ。
8月は「.610」、9月は「.701」。いずれもハイアベレージだが、8月1日~9月20日のスタッツはすさまじくナ・リーグ1位。
Seiya, superstar: pic.twitter.com/E6gqA1FYUW
— Bleacher Nation (@BleacherNation) September 21, 2023
今シーズンはコンディション面の影響もあり、夏場まで苦しいシーズンを送った。5月に一時期復調の気配を見せ、10割に迫る長打率を残すも、6月に入り再び下降線をたどった。
※月別長打率(OPS)
4月 .373(.706)
5月 .560(.977)
6月 .228(.575)
7月 .340(.650)
その苦悩ぶりは『【鈴木誠也】GMに言われた「二重人格になってくれ」 SEIYAS BATTING REPORT「Q&A」とバッティングレポート』で語られている。
そこからまず「心のバランス」を取り、その上で技術的な修正を加えた。
さらに試行錯誤は続き、『鈴木誠也「ヘボすぎてムカつくけど、やってやるだけです」の真意』では、メジャーリーグ仕様に変えようとしていた意識を日本時代の意識に戻したことを明かしていた。
「強いスイング」から「速いスイング」を心がけたことが、今季の大きな分岐点となった。数字にも大きく表れている。
月別長打率(OPS)
8月 .654(1.019)
9月 .745(1.165)
1年目は日本時代も課題としていたチェンジアップやフォークなどの変化球(以下Offspeed)に苦戦した印象が強い。昨シーズン5月まで長打率は1割にも届かなかった。
7月にようやく月間長打率.750をマークし、9月も.600を残すなど、徐々にOffspeedに対応できるようになった一方で、5月まで4割超の長打率を維持していたカーブ、スライダーなどの変化球(以下Breaking)には7月に.250と落とすなど、苦しむこととなった。
2年目の今シーズンはOffspeedに対しても、Breakingに対しても、平均値はいずれも上昇している。Offspeedは昨シーズンの.333から.483、Breakingは355から495だ。
また、直球(以下Fastballs)には1年目から一定の対応力を示していた。2年目の今季は8月、.444とそれほど高い数字ではなかったが、9月に入り、初の10割超えとなる1.040と一気に跳ね上がっている。