起業、独立、複業など「自分軸」に沿った選択をすることで、より理想にフィットした働き方を手に入れようとした女性たちのストーリーを追う連載「INDEPENDENT WOMEN!」。

 今回はスピンオフ企画として、女性起業家応援プロジェクト「DISCOVER MYSELF」(公益財団法人大阪産業局)で総合プロデューサーを務める井本達也さんにインタビュー。これまでリアルで14,000人、オンラインで5,000人を超える女性たちと出会ってきたなかで強く思うのは、自分軸のある女性こそ「起業」を選択してほしいということ。女性が起業することとは?そのブラッシュアップ方法とは?事業立ち上げのための心構えとは? 日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞、経済産業大臣賞受賞と、日本を代表する数々の女性起業家を輩出した井本流、起業の仕方、そのノウハウに迫る。

文=小嶋多恵子

井本達也さん
公益財団法人大阪産業局フェロー
女性起業家応援プロジェクト総合プロデューサーsaturdays株式会社代表取締役

1977年生まれ。岡山県出身。株式会社ワールド、デザイン事務所、独立行政法人中小企業基盤整備機構等を経て、2017年フリーランスに。ファッション×デザイン×行政サービスの経験をベースに、大阪、東京、岡山、大分で事業プロデュースを中心に活動。2021年4月に“遊びをきっかけに躍動する経済を”をコンセプトにSaturdays株式会社を設立。その他、助産師のサポート事業を展開するWith Midwife Inc. ブランドマネージャー、別府市の地域活性化事業を展開するB-biz LINKアドバイザーなど多彩な肩書きを持ち、様々なフィールドで活躍の場を広げている。

 

女性起業に必要なのは人的ネットワーク

――数多くの女性起業家を輩出しているビジネスプラン発表会「LED関西poweredby大阪信用金庫」(以下LED)のプロデューサーをされています。まず、LEDとはどういったものですか?

井本:LEDは、起業したい女性たちと「サポーター」と名付けた大手企業をマッチングさせるためのビジネスプラン発表会です。ここでファイナリストに選ばれた女性たちはその後「アンバサダー」としてコミュニティに参加でき、サポーター企業をはじめ、地方自治体や地域支援機関などのサポーターを得て、ビジネスを広げるチャンスに出会えます。

LED関西でピッチする起業家 ©︎DISCOVER MYSELF

――賞金や支援金を支給するのではなく、大手企業と一緒に事業展開できる機会を提供するというのは、今までにない発想ですね。

井本:これまで女性が起業できない原因は資金不足にあるという考えがメジャーでしたが、それよりも問題は人的ネットワークだと僕は思っています。男性は飲み会やゴルフの付き合いなどで、ビジネスチャンスを掴むことも多いが、女性はその機会が圧倒的に少ない。そして女性は妊娠出産などで社会と途切れるなどのブランクがあることで、もともと持っていたネットワークからも距離ができることも多いんですよね。

 そこでLEDが女性起業家と大企業とのハブになればと考えました。大手企業を巻き込むことで、認知度も事業スピードも格段にアップしますから。イメージ以上のことが実現できる。

 女性起業家が着目する課題は社会課題が多く、ビジネスの成長のためにまずはその課題感を啓蒙する必要があることも多い。大手企業と組めば世の中に浸透しやすくなり、そのスピード感が全く違う。今の時代にフィットした新しいフレームワークだと思っています。

副業は24Hを区切ってポケットを増やすこと

――副業解禁の会社が増えたり、ITによって起業しやすい環境ができたり、会社員だけではない働き方に興味を持つ人も増えています。

井本:僕もそう感じています。今は、思っていることをすぐに実現できる環境にあると思います。一念発起した起業じゃなく、副業でもいい。いきなり今のお給料を上回るだけの稼ぎを手にすることはできないかもしれませんが、小さくてもいいから今から始めておく。そうすると一方がダメになっても別の収入は残るので、それだけですごく生き方が楽になりますよ。実際、僕もそうでしたから(笑)。

――リスクヘッジと自己実現が叶うということなんですね。

井本:今はPCひとつあれば仕事ができるので、移動中でも働ける。例えばサラリーマンは1日に8時間働くじゃないですか。8時間睡眠時間として、残り8時間ある。この8時間をもうひとりの自分としてやりたいこと、得意なことに注ぎ込むんです。そうして独立する前に「あなたと働きたい」と言ってもらえるファンを作っておくことが大事で、これはサラリーマンをやりながらでもできることです。

生きた時間の使い方 ©︎DISCOVER MYSELF

 そうやって時間を区切って価値に変えていくことで、それぞれの時間でお金を稼げるようになる。正社員でなければ時間をさらに細かく区切って、ひとつの会社に4時間ずつ提供し、4つの会社と働くこともできます。1個のポケットを2個に、4個にと増やしていけるんです。

――働く時間を自分でコントロールできるというのはメリットですね。

井本:自分の得意分野を軸として、そのスキルを必要としている会社を周りに配置するイメージです。転職、という概念はもはや曖昧というか、なくなるかもしれません。リモートワークの普及で出勤もなくなり、時間管理がしやすい環境下の今、起業するチャンスといえます。まさに時代の変化でしょうね、マルチタスクをこなしやすい環境にある。

――では実際に、起業したいと考えた時、どのようにビジネスの種を見つければいいでしょうか?

井本:事業の向こう側に社会へ還元できるものがあるかどうかです。相手が求めていることに対してサービスを提供し、対価としてお金をもらうのがビジネスですから、起業することが何らかの課題解決につながらないと成立しない。例えば“自分の商品を売りたい”“自分をアピールしたい”だけの人はなかなか成長しないし、成功しない人が多い。それは開業であって、起業ではないです。

 たとえば楽天市場があることによって、今までは売る手段を持てなかった中小企業が売り場を持てるようになった。これはものすごく大きな社会的インパクトです。逆に、楽天市場などのECモールに自分のお店を開いて、ただ商品を売るだけであれば、それは開業です。モノを売るという同じことでも、その人が見えている課題によって成果は大きく異なってきます。

 開業が悪いわけではないですが、成長していく起業家は、皆大きな課題を解決しようと始める人が多いです。起業したいなら、自分がなにを解決したいか、なにに貢献したいか考えてみるといいと思います。

見極めたいのはキャリアとビジョン、覚悟

ーーなるほど。ビジネスプランのブラッシュアップをするとき、他に注視しているポイントはありますか?

井本:起業したい女性と話す中で重視しているのは、キャリアとビジョン、覚悟、それと人となりです。

キャリア+ビジョン、そして覚悟 ©︎DISCOVER MYSELF

キャリア

 まずはこれまでのキャリアを問います。何をやってきたのかを徹底的に洗い出す。“なぜ、あなたじゃないとできないのか”は重要です。その人のキャリアと何かを掛け合わせることでその答えがでることも多く、丁寧に整理していきます。

 2019年ファイナリストの株式会社With Midwife代表の岸畑聖月さんも、最初は「助産師にはもっと価値がある」というアイデアだけだった。そこからこれまでのキャリアを掘り下げていくと、彼女の場合、助産師200人の人脈がすでにあるというのが強かった。また京都大学大学院出身で、専門性も高い。そこから、“助産師の知見って出産以外にもある”“ならば独自の商品開発ができそう”“企業のコンサルティングにも生かせる”など、あらゆる可能性を考えるんです。まずは今までの経験、知識、人脈など自分がもつものをすべて洗い出すのをお勧めします。

ビジョン

 LEDのエントリーシートでは売り上げ目標は1、2、3年目まで書いてもらいます。それは、事業をどれくらいの規模感で捉えているか、女性起業家のビジョンを見るための数字です。よく、「1年やって売り上げ300万円」のような方がいますが、それだとパートで働いても稼げる金額ですよね。それでもやる意味があるのかを問います。

 または、一人でやろうとすると売上300万円だけど、LEDの100社のパートナー企業のネットワークを使ってビジネスを展開したら1年目の売り上げはどうなりますか?というブラッシュアップをします。

覚悟

 起業するって“ビジネスとして成り立たせる”ものなんですよ。誰かが何かをしてくれるわけじゃない。自分で今無いものに価値を提供してそれをお金に変えるということなので、その覚悟が必要。よく事業計画書を書きなさいと言われますが、それも当てになりません。コロナ禍でわかった通り、社会や時代がものすごいスピードで変化している中、計画書があれば絶対うまくいくなんてものはなくて、覚悟を決めて動き出して、動きながら変わりながら継続していくというのが起業なんだと思います。

人となり

 挨拶できるかコミュニケーションできるか、時間通りにくるか。やるっていったことをやるかやらないか。当たり前のことのようですが、できない時に言い訳する人も多い。やはりファンというのは人となりについてくる。最低限の常識や熱意があるかは重要ですね。

後編は起業の種を成功へと導くためのブラッシュアップ法、井本流、究極のメンタリング法に迫ります!