結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。

 さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。

 夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。

 今回は夫の言動に不信感や恐怖がつのり、一緒にいるのが苦しいというご相談。離婚しかないのか、我慢するのか。それを考える前に、まず確認しておくべきこととは……

なみさん(仮名)からのご相談

 旦那が嫌いで一緒にいると苦しいです。

 産後、特にその傾向が強まり心療内科に通っていました。薬をオーバードーズしたことも、過呼吸でパニック発作を起こしたこともあります。息子は今3歳で、面前で喧嘩もしてしまい申し訳なく思っています。

 以前、私のカードを無断で使われたことがあります。また、ボーナスは出てないと偽りパチンコに使ったり、「俺を怒らせたら殴るかもしれない」と発言したり、家族といるときに突然店員さんにキレて自ら警察を呼ぶ……等の言動に、不信と恐怖があります。私はつい、それを怒りという感情で発信してしまうため、余計衝突します……

 平日は出張でほぼいないため何とか一緒に暮らしていますが、土日や連休は本当に辛いです。離婚しかないと言われそうですが、経済的なこともあり息子のために踏みとどまってしまう自分がいます。

 私が普段通りに振る舞えば、表面上は問題ありません。我慢すべきなのでしょうか……

(妻・なみ、夫・章)

その問題を解決できるのは誰?
関係改善に取り組む前に確かめておきたいこと

 夫婦リカバリー相談室にご相談をいただき、ありがとうございます。

 夫である章さんと一緒にいるのが苦しいという、なみさん。

 企画の性格上、どうしても一方向のお応えになってしまうのですが、いただいた情報だけを見ると、まずは離れる選択肢が本当に難しいのか検討されることをお勧めしてしまいます。

 ただ、限られた情報だけで夫婦間の問題を正確に測ることはできませんし、一見理不尽に見える相手の言動にも、そうなってしまう背景があるのかもしれません。

 勇気を持ってご相談いただいているなみさんに「別れるしかないです」と説得のようになってしまうのも残念なので、今回は少し解釈を拡大して、夫婦関係の改善に取り組む前に確認しておきたいこと、をテーマにしてみようと思います。

(写真:doble-d / iStock / Getty Images Plus)

まずは問題を切り分ける

 夫婦関係を改善するといっても、問題となっていることによってアプローチの先も方法も異なります。

 どうやって?と対策を考える前に問題を構造的に理解することが大切です。

 問題と感じていることを「コミュニケーション」「価値観と考え方」「感情」の3つの領域に分類して考える、というのはいつもお伝えしていることですが、今回は更に問題解決の責任者は誰か?という視点を加えて考察を加えてみたいと思います。

 なみさんが夫婦関係で感じている問題(カウンセリングでは主訴と呼びます)は、

「旦那が嫌いで一緒にいると苦しい」

ということになると思いますが、これは「感情の領域」に分類され、問題解決の責任者はなみさんです。

 こんな風に言うと「不満を感じている私が悪いの?」と思われるかもしれませんが、もちろんそうではありません。「感情」はそれを感じている人のものなので、感情の問題を解決できるのもまた、感情の所有者であるなみさん、と考えます。

 夫婦の問題を突き詰めると最終的にはこの「感情の領域」に着地することが多いので、現時点でなみさんが「夫が嫌い」と感じていることが離れることを勧める理由ではありません

 ネガティブな感情を抱く相手と生活を共にするのは確かに苦しいことですが、「感情の問題」だけなら、傷ついた心をきちんとケアしてあげれば、たとえ時間は掛かっても関係を修復していくことはできます。

 ただ、そのためには進行形で傷つけ合うような関係でないことが必要です。

 思い出す度につらくなってしまほど傷ついた経験も、それが過去の出来事であるなら痛みやわだかまりをケアすることで再構築の道は見えてきます。

 いっぽう、新たな傷が日々増えていくような状況では毎日のストレスに対処することが精一杯で、関係修復に取り組むことはできなくなってしまいます。

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載

夫婦関係の修復に取り組む準備

 夫婦関係の修復に取り組むためには、新しい傷をつくらないための体制づくりが必要です。重要なのは日々生まれるストレスや不安をひとつひとつ回避することです。

 できることなら夫婦で取り組みたいところなのですが、まずは問題と感じていることをリストアップしてひとつひとつ対策を立てていきます。

 なみさんが問題と感じている章さんの言動をピックアップすると、

  • カードを無断で使う
  • ボーナスは出てないと偽りパチンコに使う
  • 「俺を怒らせたら殴るかもしれない」という発言をする
  • 突然店員さんにキレて自ら警察を呼ぶ

などが挙げられます。

まずはそれぞれ考察していきましょう。

(写真:miya227 / iStock / Getty Images Plus)

◎カードを無断で使う

 これは家計の管理方法によって捉え方が変わるように思います。いわゆる「お財布がひとつ」ということなら、コミュニケーション不足が問題なのかもしれません。

 お財布は別で、夫婦それぞれが自身の口座を個別で管理しているような状況なら価値観や考え方の領域のような気もします。

 また章さんが「妻に相談したら駄目って言われるから」と考えてしまっているなど、感情にまつわる問題の可能性もあります。

 話す機会が無かった、ということならコミュニケーションの頻度や取り方について見直す必要がありますし、これまでの経緯から言い出せなかったのだとしたら意識的にも無意識的にも否定的な態度をとってはいなかったかセルフチェックも必要です。

 また章さんが「なんで使ったら駄目なの?」のようなスタンスなのだとしたら、考え方から話し合う必要がありそうです。

◎ボーナスは出ていないと偽りパチンコに使う

 すぐにバレる嘘をついてしまうのは、発覚した時にどんな問題になるのか想像できていないか、バレてもいいや、と考えている可能性が高く、優先順位の付け方に問題があるのかもしれません。

 また「いけないと分かっていてもつい」というようなケースなら衝動を抑えることに課題があることも考えられます。

 これは以前からこういうことがあったのか、それとも最近増えてきたのか、によっても捉え方が変わります。

 最近増えてきた、ということなら優先順位や衝動性の問題だけでなく、悪化する夫婦関係の影響が出ているのかもしれません。

◎「俺を怒らせたら殴るかもしれない」という発言をする

 まず、本当に手が出てしまう、ということはあまりないのだと思います(手が出る人ならこんなことを言う前に手が挙がるように思います)。

 この発言が出た経緯はわかりませんが、想像するに何らかの口論や対立の結果、「もうやめてくれ」「少し考えさせて」「今は話したくない」など、ストレスを感じる状況から離れたい、というときに出てきたのではないかな、と考えられます。

 もしそうだとしたら、コミュニケーションと感情領域の問題になりそうです。これは夫婦で取り組む部分と、それぞれが自身の感情を整えておくことが必要になる部分があります。

 気持ちを言葉化して伝えることにも課題があるのかもしれません。

◎突然店員さんにキレて自ら警察を呼ぶ

 これは状況を想像するのが難しいですし、夫婦間の問題でもないのかもしれませんが、「キレる」にもそうなる背景があって、きっと彼の価値基準と見合わせて納得のいかないことがあったのだろうと思います。

 それが一般的な基準から見て適切かどうかが重要ですが、キレてしまうところを見るに感情のコントロールに課題がありそうです。

(写真:mattjeacock / iStock / Getty Images Plus)

 こうして切り分けてみると、夫婦間の問題としては、対話不足や行き違いなど、コミュニケーション領域の問題が深そうです。

 また、家計の管理など価値観や考え方のすり合わせも必要になるでしょう。

 でも、それ以上に気になるのは、章さんが怒りや不満などネガティブな感情を持て余しているように見えることです。

 ここに挙げられた事象はいずれもなみさんが問題に感じていることですから、一方的な見立てであることは前提になるのですが、夫婦関係の修復のために、夫婦で取り組むこと、なみさんが取り組むこと、章さんが取り組むことがあるとしたら、どうも章さんが主として取り組む必要があることが多い印象ではあります。

 逆を言えば、なみさんが主として取り組めることは限定的と言えるのかもしれません。

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夫婦関係の修復に取り組む前に

 これから夫婦の問題に取り組んでいこうという時、どんなアプローチを誰が責任を持ってどの程度続けていくのか、見通しを持っておくことはとても大切なことです。

 また夫婦関係は段階的、ステップバイステップで改善していく側面があって、一足飛びに良くなるというものでもありません。

 なみさんご夫婦が関係修復に取り組まれるなら、まず初めに、新しい傷を作らないためのルールを作ることが必要でしょう。

 次にそれぞれがこれまでに抱えてきた感情のわだかまりをリセットすること。また日々の衝突を避けるために自分の感情をコントロールする方法も理解しておく必要がありそうです。

 その上で、それぞれの考え方や大切にしている価値基準について対話を重ねていくことになるのではないでしょうか。

 整理をすると、

  1. 新しい傷を作らないためのルール作り
  2. 感情のリセットとトレーニング
  3. 価値観の違いを理解するための対話

となります。

「旦那が嫌いで一緒にいると苦しい」と感じるのはなみさんで、これは傷ついた過去の感情をケアすることでリセットすることはできるはずです。

 日々傷つかないために、なみさん自身の心の持ちようを見直したり、トレーニングで強化したりしていくこともできるかもしれません。

 でもその前に新しい傷を作らないためのルール作りが必要で、ここに夫婦で立てるか?がとても重要です。

 そして、それが難しいのではないかと感じるのが冒頭で離れることを勧めてしまった理由なのですが、なみさんはどう思いますか?

(写真:maruco / iStock / Getty Images Plus)

相手の問題は解決できない

 たとえそれが「相手に対してイライラすることがあって感情的になってしまった」のだとしても、感情の問題を解決する責任者はそれを感じている側です。

 もしそれを章さんに代わってなみさんが解決しようとするなら、「怒らせないように」「機嫌を損ねないように」と顔色を伺う方法しかありませんが、そんな関わり方は健全とは言えないでしょう。

 夫に不信と恐怖があり、それを怒りという感情で発信してしまう、とありましたが、たとえ相手がどんな態度を見せてきてもそこで感じる感情をどのように扱い、どう発信するかはなみさんの責任でありテーマになります。

 同時に、章さんには章さんの責任とテーマがあるはずです。

 なみさんが感じている夫婦関係の痛みは、なみさん自身がその痛みに寄り添ってケアをすることで軽くすることはできるのかもしれませんが、それでは、この先ずっと、なみさんひとりがその負荷を背負っていくことになってしまいます。

 できることなら、章さんにも妻であるなみさんが苦しいと感じている問題を取り除くことに関わってほしいと願っています。

 でも、もしそれが難しいようなら、なみさんが夫婦関係を維持するために使うエネルギーを、離れるための準備にも割り当ててみることを考えてみて欲しいと思うのです。

 責任を明確にすることは自分を守ることです。

 

 問題解決の責任者は誰か?という論点でお話をしてきましたが、夫婦関係で悩む人の多くは、自分の責任領域以上の責任を抱えてしまっているケースが多いのではないでしょうか。

 夫がキレるのも、妻が不機嫌であることも、原則的には本人の責任なのですが、私たちはついそれを自分事のように考えてしまって、一緒になって怒ったり不機嫌になったりしているのかもしれません。

 怒っているのはあなたね。

 不機嫌なのは君なんだね。

 まずはそうやって切り分けてみて、そのうえで相手のことを批判したり非難したりするのではなく、そんな気持ちを抱えて大変ね、苦しそうね、お気の毒ね、と捉え直してみることも、自分を守るうえで必要な対策のひとつなのではないかと思っています。

 夫が嘘をつくことも、突然キレてしまうことも、なみさんが解決できる問題ではなく章さんが主体的に取り組む必要があることです。

 ウソはつかないで

とお願いをしたなら、それを守るも守らないのも相手の責任。結果に傷つかないよう心を守るのは自分の責任です。

 それが根本的な問題解決にはならないのかもしれませんが、問題解決の責任者が自分でない時の対策としては必要ことなのではないでしょうか。

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