愛し合い、生涯を共にするパートナーとして誓い合いスタートした結婚生活。しかし仕事や家事、育児に追われる中、気がつけば壁があると感じたことはないだろうか。そんな夫婦の危機をどうすれば乗り越えられるのか、“リカバリー力”に焦点を当てた本連載。
今回は夫婦カウンセリングについて。近年では芸能人が「夫婦カウンセリングを受けた」と告白したり、珍しいことではなくなりつつあるが、まだ実際に体験したことがある人は少ないはず。そこで、夫婦関係に悩む北川さんに、『Life Design Labo』の安東秀海さんによるカウンセリングを受けてもらいました。
取材・文=吉田彰子
心理カウンセラー養成スクールの講師を経て2015年に独立、夫婦関係を専門とするカウンセリングオフィス『Life Design Labo』を開設。機能不全に陥った夫婦の関係性を読み解き、健全なパートナーシップ構築へと導くことを得意とする。書籍に『夫は、妻は、わかってない。』がある。
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子どもがいるから不仲になったと思う妻
安東秀海さん(以下、敬称略):夫婦カウンセラーの安東と申します。本日はどうぞよろしくお願いします。
北川恵美子さん(以下、敬称略):よろしくお願いします!
安東:では早速。ご夫婦のことでお悩みに感じていることはどのようなことでしょうか?
北川:夫のことはもう全く好きではなく、私の意志も伝えているんですけど、聞く耳もたずで……。子どもがまだ小さいので、今すぐ離婚するのが現実的ではないのは分かっているんですけど、夫婦の険悪な姿を子どもたちの前でも見せてしまっていて。別れたいどころか、あの世に行ってほしいんです。本当に。
安東:あー。そうなんですね。あの世に行ってほしい、は別としても「離婚したい」ということはお伝えになっているんですね。
北川:はい、ずっと。こういう気持ちになったのは長女の産後からなんです。以来「どうぞ三行半下してください。こんな私ではなくて、もっといい人いるから」と言っています。ただ関西出身なもので、夫婦漫才かと思われて響いていないのかもしれませんが……。
安東:その頃から「もう無理だよ」ってことはお伝えになっているということですね。
北川:その時から気持ちがスタートして、言葉に出すようになったのが4、5年くらい前からかなと思います。
安東:じゃあ、上のお子さんは完全に理解している感じですか?
北川:完全に理解していると思います。下の子も、最近は空気を読むようになってきました。
安東:ちなみに、ケンカになりますか? それとも、ケンカにはならないですか?
北川:私が議論したくても、向こうが性質的に言葉にするのが苦手やと思うんですよね。だからケンカにはならなくて。ただ最近、こっち(関西)に戻ってきてから家を買ったんですけど、それくらいからピリピリしています。「出ていけ! この家は俺のもんや」なんて言ったり、カッと怒り出すようになりました。
安東:なるほど。ちなみに旦那さん、マスコミ関係ということはお仕事忙しそうですよね。
北川:産後はほとんど家にいませんでした。その時は夫の仕事の関係で東京にいたので、頼れる親もいなくて。東京へ行ってすぐに妊娠し、友達も少ない状態ですごく辛かった。
安東:そのことは彼にお伝えになっていますか?
北川:ずーっと言ってます。もう、死ぬまで言い続けます。それでも「あの時ごめんな」みたいのは全くない。
安東:今は、もう関係を改善したいとは恵美子さんは思っていないですか?
北川:はい。
安東:どうなったらいいなと思っていますか?
北川:このままの状態で何十年も一緒に居たいと、今は思わないです。彼は彼で幸せになってほしい。
安東:「今は」とおっしゃいましたけど、以前は違いましたか?
北川:私、すごい大好きな人と結婚したと思っていたんです。話も合うなとか、好きなものも合うな、と。でも子どもができてから、お互いの立場が変わってきて。子どもたちにも「あなたたちがいなかったら、パパとママずっとラブラブやったわ」って言っちゃうんですよ。確かに、子どもがいなかったらずっと楽しい夫婦生活送れていただろうなと思います。
夫婦関係の問題となる3つの階層
安東:夫婦関係の問題になることは、3つの階層で捉えるとわかりやすくなる、とよくお話するんですが、一層目は「これが問題だと思う」「ケンカが増えた、会話が減った」とみなさんよく最初におっしゃることで、コミュニケーションに関する問題、ですね。これはどんなご夫婦にも起こりうることだと思いますし、表面的なことなのです。
もう少しお話を伺っていくと、もうひとつ下の層が見えてきます。それは「考え方、価値観の違い」。最近、僕がお伺いする夫婦の価値観がズレるトップ3は、①仕事の仕方、②お金の使い方、③育児の方針です。ただ、価値観の違いは突然うまれたものではなく、もともと違うはず。問題になるのは「違いを許せないこと」なんです。逆を言えば、以前は許せたものが許せなくなったとき、夫婦の問題は浮上し始めるのだろうと思います。
「なぜ許せなくなったのか」を考えていくと、3つめの層に至ります。心の問題となる「気持ちのわだかまり」ですね。恵美子さんがおっしゃった通り、「あの時、あなたは私を放っておいた」のように長い間言えなかったこと、聞いてもらえなかったことが、どんどんわだかまりになっていきます。
このわだかまりがとても難しいのは、時間を経て出てくること。「あの時、あなたは……」ってやつですね。わだかまりが強くなった時に、考え方や価値観の違いを許せなくなってくる。
許せなく感じるので、「なぜそんなことをするの?」「なんで分かってくれないの」「なんであなたはそうなの?」のようなコミュニケーションします。それで相手に火がつくこともありますし、中にはずっと耐える人もいます。恵美子さんのご主人は後者のタイプかもしれませんね。
これは結婚直後でも起こることなんですけど、時間がたてばたつほど複雑に感じるのは、わだかまりの量が次第に増えてくるからです。うちには、結婚30年のご夫婦もいらっしゃいますけれど、30年経つともうコミュニケーションの違いや価値観の違いなんて分かりきっている。ほぼほぼ感情の問題、ですね。
恵美子さんのお話を伺っていても、わだかまりが扱いきれないくらいにたまっちゃったんだろうなという感じがします。けっこう前からですか?
北川:ずーーーっと前からですね。
安東:ひとつは、先ほどお話くださった産前・産後からですね。そういう意味では、わりと分厚いわだかまりがあるんだろうなという感じがします。
辛くても相手を「許す」べきなのか?
北川:おっしゃる通りだと思います。性格的に過去のこと許せないんですけど、もう許さなくていいやって思えるんです。なんで辛い思いした私が、相手を許して忘れて、いい夫婦関係を築かなきゃいけないのかなって。
安東:「許す」ってカウンセラーもよく使うワードなのですが、少し誤解して伝わっている気がします。許せない時は許さなくてもいいのだと思うんですよ。それを曲げて無理して許すことは、我慢をしてきた上に我慢をするわけだから、相当しんどいと思います。その前に、もっと自分の方を向いた方がいい。
先ほど、3番目の層「わだかまり」についてお話したのですが、わだかまりって何かというと、それだけ「傷ついた」ってことなんです。傷ついた自覚はありますか?
北川:あります、はい。
安東:ありますね。傷ついた自覚があることがまず大事ですね。気がつかない人もたくさんいるからね。まずその傷をケアする必要があります。傷ついた状態で、彼を許しましょうと言っても、難しいですよね。痛みがあるなら、まず痛みを癒していきませんか? これがカウンセリングのスタートです。
北川:傷ついた自分、治したいなと思います!
知らずに夫も持っていた『わだかまり』
安東:心の傷は体のケガと同じで、ケアしないとどんどん悪くなります。ただ体と違って、心の傷のケアってみんなピンとこないので、そうとう悪くならないとクリニックに行かない。ほとんどの方はクリニックに行かないので、心のケアが手つかずになっていくんです。
そうやって傷がある状態で夫婦関係のことを考えても、どうしてもポジティブには捉えられません。辛いから早く手放させてください、と思うと思います。
北川:まさにそう思っていました。
安東:まずは、わだかまりを解いていくようなお話をしましょう。もうひとつ、恵美子さんのひとつの疑問は「なぜ彼は別れてくれないの?」ですよね?
北川:その通りです。
安東:正しく言うと「私なんかよりもっといい人がいるから、そっち行ってください」ですよね? ここはすごく、お二人の認識のズレなんじゃないかと思うんです。
彼からしたら「僕にとっては君がベスト。だから他のところに行ってくださいって言われてもまず考えられないし、『あなたにとって私はふさわしくない』なんて君が決めるんじゃなくて僕が決めるんだ」と。なので、相当彼もダメージを受けていると思います。ピンときますか?
北川:わかんないですね。ダメージ……ねぇ。
安東:彼側の視点に立つと「僕は妻を幸せにしようと思って結婚してがんばって家も建てたのに、口を開けば『別れさせてくれ』と言われている。その度に『そんなことない』と口には出さないけど思っていて、だけど毎回言われる」という感じです。だとしたら、ダメージがあるんじゃないかなとは思いますよね。
北川:え、ええ。
安東:彼にダメージが溜まってきているのかなと思うのは、比較的温厚だった彼が最近キレること。これは彼の中の『わだかまり』かと思います。男性にとって成功のビジョンのひとつに「仕事で成功して家を買う」があります。マイホームに家族を住ませて安心させてあげる。そこまでやってるのに、なんで別れてって言われるのか、彼の中ではダメージではと推測します。
修復、現状維持、離別……。さぁ、どれを選ぶ?
安東:今のお二人の状況を第三者的に見ていくと、恵美子さんはこの14年間の大半を痛みを抱えてやっている。かなり、キツいと思います。
恵美子さんの痛みは、産前・産後に、コミュニケーションをしても受け入れてもらえない、噛み合わない、話し合いの議論にもならない、育児にもさほど参加してこない、すごく孤独の時にもケアがない。長年培われたわだかまりが、そこにはあると思います。
彼の方のわだかまりは、恵美子さんと比べると短いかも。でも今、それが頂点にきている感じですね。それは彼にとっての成功のモデル「家を買う」ことに関しても承認してもらえないとか、にも関わらず別れたいと言われるから。ここ4、5年かなと思います。
では、これをどう扱っていきましょうか、というのはご相談しながら進めて行きたいと思います。方向性は3つ。
①関係改善を目指す。お二人の状況であれば、改善・再構築の道はあると思います。ただし、エネルギーは使いますし、彼の参画も必要ですね。
②現状維持。改善や再構築まではしないけど、これ以上悪くならないようにする方法もあります。エネルギーは①ほどかからないけど、恵美子さんの考え方次第。一番取り組みやすいことですけど、いつもはおすすめしていません。
③離婚を選ぶ。同じエネルギー使うのであれば、もう離れていくという選択肢も。そのためには、彼も巻き込んで「なぜ、こんなに辛いのか」というのを理解してもらいながら、お互いにいい着地点を見つけて離れていくことを考えていきます。
北川:先生のお話聞いていて、②かなと思ったのですが、おすすめしないというのが気になって……。
安東:なぜかと言うと、②はある程度気持ちの持ち方の話になっていくからです。彼に期待しない。期待しないけど一緒に過ごしていく同居人、そして娘さんたちのお父さんとしては尊重していく。この部分の負荷って、それなりにかかると思うんです
北川:なるほど、すごく分かります。
安東:あと、もうひとつ。恵美子さんがお子さんたちの前で言ってしまう言葉は、あまりおすすめしないものもあります。ポジティブでない影響を与える可能性があるから、できれば避けて行きたい。でも避けるためには、恵美子さんが心がけをしていかないといけないことがあって、いずれにしても負担が大きくなります。その点でベストではないと思いました。
北川:本当に、子どもの前でこんな姿絶対に見せたくないと思っていました。私の父も母に叱りつけたり、星 飛雄馬のお父さん(※アニメ『巨人の星』)みたいにテーブルひっくり返すような家だったので。ただ、今は「ママを見て、幻想的な幸せな家庭を夢見ないで」と思ってしまっていて……。
安東:娘さんたちにありのままを見せる、というのは悪いことじゃないと思います。僕は逆に「こどものために離婚しない」というご夫婦をたくさん見てきました。それももちろん間違っていないけれど、意外と伝わってます。感受性が豊かなので、隠し事は隠しても見える。では、娘さんに見せている恵美子さんは幸せそうですか? そちらの方が大事。
北川:そこは考えたことがなかったです。
安東:彼女たちから見て、ママが幸せそうであることがなによりも大事。ママが幸せでないと、子どもたちは罪悪感を抱きます。もちろん、謂れのない罪悪感ですよね。だから、恵美子さんが幸せであることが何より大事なんです。「恵美子さんが幸せになれるなら」を軸に選ばれるといいと思います。
北川:分かりました! ①と②の間です。②に近い、①です!
安東:前向きでいいですね。分かりました。では、後半に入っていきたいと思います。<後編【「夫を許せない」妻が長年溜まった怒りを手放す自分への言葉がけ」はこちら】
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