いつもシンクロナスをご覧いただきありがとうございます。シンクロ通信日曜日担当の望月です。
ようやく涼しい日も増えてきました。最近は12か月の中で春夏秋冬が1・5・1・5ぐらいに分配されている体感です。暑がりで寒がりな人間としては、季節は3か月ずつ平等に訪れてほしいものですが、何を言っても変わらないので、おそらく短いであろう秋を全力で楽しむことに注力したいと思います。
さっそくですが、秋といえば読書の秋です。そこで最近読んでおもうところがあった金子玲介さんの小説『死んだ山田と教室』(講談社)について書きたいと思います。
この小説は、教室のスピーカーから聞こえる死んだはずのクラスの人気者・山田の声と残されたクラスメイトの不可思議な交流を描いた作品です。突飛な設定ですが、高校生同士のくだらなくも楽しい会話にリアリティがあって、懐かしさを覚えます。
読み始める前は、高校生同士のハートフルな日常話を想像していました。しかし物語が進むにつれてシリアスな部分も増えていき、続きが気になり、途中から読む手が止まらなくなりました。
山田はなぜ人気者なのか、クラスメイトと山田はどんな交流をしていたのか、なぜ教室のスピーカーから声が聞こえるようになったのか。少しずつ山田とクラスメイトの実像が明らかになっていきます。
さて、もちろん小説の内容も面白いのですが、今回は『死んだ山田と教室』の面白い試みについて紹介したいと思います。
小説の中で山田は、クラスメイトが帰った放課後の寂しさを埋めるためか、誰もいない教室で一人でラジオを始めます。内容はその日にあった出来事を話したり、ふつおたを読んだりする王道ラジオです。
実はこのラジオ、『死んだ山田と教室』金子玲介 公式サイト(講談社)で私たちも聴くことができます。小説で描かれるラジオを現実で聴く試みを始めて知った時はワクワクしました。しかもこのラジオを聞けるのは18時~6時、つまり放課後にあたる時間のみ。この小説と現実をリンクさせる取り組みにこだわりを感じます。
声を担当するのは、現在のNHK連続テレビ小説「おむすび」に出演中の菅生新樹さん。『死んだ山田と教室』表紙の山田役もこの方です。
菅生さんの山田はまさに迫真。現実に山田が存在して、本当に視聴者に語りかけているように感じます。
特にふつおたのコーナーに感動しました。山田がどんな人物で、死んだことをどう思っているのか、思いと感情が伝わってくる最高のラジオです。
この試みはラジオ第1回のみですが、続きも是非聴いてみたいと思いました。
ちなみにこのラジオを聴くにはパスワードが必要です。パスワードは山田とクラスメイトにとって重要な言葉が該当します。
パスワードを入れるという事務的な行為すらも、小説と世界観を共有するエンタメする。『死んだ山田と教室』凄いです。
(編集・望月)