少し前のことになってしまいますが、先月に新国立劇場の『ピローマン』(作:マーティン・マクドナー、翻訳・演出:小川絵梨子)を観劇しました。
ドキリとしたりゾッとしたりするような恐ろしい場面も多いのですが、思い込みがひっくり返されるような展開の連続で、約3時間の上演時間中ずっと引き込まれていました。同時に「物語」というものの不確かさや可能性を感じさせるお話で、しばらく心に刺さって後を引く余韻があります。
面白かったのは、客席が舞台を挟んで対面する形になっていて、舞台を見ていると向かい側の観客の様子が視界に入ってくること。舞台上で語られる「物語」を聞いている観客である自分を常に意識させられるようでした。
作家である主人公は、自分の書いた物語が死後も残っていくことを強く望みます。私自身は文芸やフィクション作品に仕事で携わったことはほとんどありませんが、メディアの持つ「物語を広める」側面に加えて「物語を残す」側面についても、自分事として考えさせられる観劇体験でした。
(編集・谷本)