起業、独立、複業など「自分軸」に沿った選択をすることで、より理想にフィットした働き方を手に入れようとした女性たちの連載「INDEPENDENT WOMEN!」。子どもと過ごす時間を作るため、会社を辞めて自分のコスメブランドを立ち上げたブランディングディレクター前島ゆみさんのストーリーの後編。
文=小嶋多恵子 写真=小嶋淑子
SNS発信と強気のプレゼンで取り扱い店舗300店を達成!
会社員を辞めてから3年。前島さんが立ち上げたネイルブランド「JIMII TOKYO」は、時代の追い風を受けてじわじわと取り扱い店舗数を増やしていった。
「軌道に乗ったなと感じたのは取り扱い店舗数が300店舗になった時でしょうか。起業して1年半経った頃です。ここまで成長したきっかけはSNSが大きかったと思います。もともと知名度がないのに宣伝広告費をかけていなくて。お金もなかったですし(笑)。なので、2016年にブランドの立ち上げと同時にインスタグラムで個人アカウントを作り、ひとつの宣伝材料として始めたんです」
自身のアカウントとブランドのアカウントを開設し、地道にSNS発信を続けた結果、感度の高い女性の間で拡散、「JIMII TOKYO」のフォロワー数は急速に伸びた。さらに、前島さんのチャンスを見逃さない鋭い勘といざという時の押しの強さが運を引き寄せる。
「生活雑貨専門店『ロフト』での取り扱いが決まったことは大きかったですね。通常、こういった大手では個人で立ち上げたブランドを取り扱ってもらうことってすごくハードルが高い。でも“たった2分でいいんで!”と懇願して、幸運にもプレゼンの機会が与えられた時、思いっきり熱弁を振るったんです。そうしたらたまたますごいコスメ好きなバイヤーさんがいて、“じゃあ、試しにやってみましょうか”と、なんと卸しの契約が決まって。今振り返ると強引だったと思いますが(笑)、熱意が伝わったことは素直にすごくうれしかったです」
決められるストレスより決めるストレスのほうがいい
今や子どもも小学5年生になり、前にも増して自分らしい生活や時間が持てていると話す前島さん。
「独立してよかったなって思うのは、自分でいろんなことを決められる瞬間。会社員時代は有無をいわずやらなきゃいけないじゃないですか。“この資料、作る意味ありますか?”と疑問を投げたり、逆に“これは絶対にやったほうがいい!”と進言することも多かったんです。でもそれを自分では最終判断できない。独立した今は、ひとつの仕事にどのくらいの時間を割くのか、そもそもその仕事を請ける必要があるのか、請けたとして誰に振るのか、すべて自分の采配で決められる。独立した一番のメリットかなって思います。とはいえ、ジャッジする立場になってみるとお腹が痛くなることもしょっちゅう(笑)。決断に責任が伴うわけですから。でもこっちのストレスのほうが断然私には合っているなって思っています」
今の働き方に点数をつけるならば?と聞くと、「子どもと過ごす時間を持てるので100点」と即答するも、それは現状の点数だとも。理想への点数は50点とまだまだ伸びしろがある。
「実は、数年前から自分のブランドの海外展開を計画していました。2年前にラスベガスの展示会に出展するなど始動していたのですが、コロナの影響ですべてがストップ。いずれ、世界の状況が落ち着いたら再始動する予定ですが、今はまだ先が読めないでいます」
目下のすべきことはコロナ禍で直面した国内の販売戦略の軌道修正。
「リアル店舗ではなくオンライン販売に重点をシフトしなければと思っています。起業前と同じで、わからないことだらけなので、いろんな人に聞いて勉強させてもらっているところです(笑)」
“できない”と諦めるのではなく“できる”方法を常に考える
未来を想像することも決して怠らない前島さん。次なるステージに向けて今は仕込みの時期とも。
「子どもが18歳くらいになるまでは子育てを軸に生活したいんです。そう思うと次のフェーズまでに6、7年ある。この間に今できることを準備しながら、子どもが巣立つと同時に、第2のステップとして次に進んでいきたい。なので普段から、自分の夢や野望を周りにも話すようにしています。口に出すのって大事。自分の思いを口にしているだけで、協力者が増えていくような気がします」
起業を目指す女性へのアドバイスを聞くと、潔くシンプルな言葉が返ってきた。
「とにかくやってみることです。働き方という意味では経済的な成功だけがすべてじゃない。自分の時間軸で生きたいなとか、自分で決定権を持てる仕事がしたいなとか、一旦目標を明確にするといいと思います。仕事って基本、ゴールを見据えて逆算して、そこに向かっていくことだと思うんです。ゴールを設定してそれをクリアしたらまたゴールを設定しての繰り返し。私も、働き方の時間軸をもっと自分に合わせたい、自分のブランドを作りたい、発売にこぎつけたい、店舗数を何店舗にしたい、など色々ありました」
もちろん「そんなの無理!(たとえば取り扱い店舗数300店舗を達成する!とか)って弱音を吐くこともなかったわけじゃない」と前島さん。でもそんな時に心がけていたのが、すでにゴールを達成している人たちと会話すること。すると途端に前向きになり、現実味が帯びてくるという。
「自分の目標を達成した人たちに共通しているのは“じゃあこうしたらできるよ”みたいな“できる方法”を話してくれることです。まずは望むままに考えてみて、それをポジティブに反応してくれる人に聞いてもらうのはすごくためになるし勇気をもらえる。もちろん、厳しいことも言われますけど、それを素直に受け止めて改善していく。成功している人って自分も苦労している分、本当に有意義なアドバイスをくれますし、困っている時には助けてくれるんですよね。ひとりで不安がらずにどんどん頼れる人たちに頼って、ポジティブな気持ちをキープできれば、望む道は意外にそう遠くないと思うんです」
失敗は悪いことじゃない、それは子どもも大人も同じ
前島さんが働く上で大切にしているのが、自分の等身大の姿を子どもに見せたいという思い。独立を迷っていた時に励まされたのがジュディ・ダットンの『理系の子 ~高校生科学オリンピックの青春』という本だ。
「頑張っている子どもたちが主人公で、強く感銘を受けました。“息子にもこういう子どもになってもらいたいな”とか“自分がこういう素敵な子どもの母親だとしたら、どんな姿を見せられるだろう”と考えさせられて。良くも悪くも子どもって本当によく見ているじゃないですか。親の言葉ひとつにも影響を受ける。そう思うと、やっぱりチャレンジしている姿を見せてあげたいなって」
もし挑戦して失敗してしまっても、それは悪いことではない、むしろ失敗することはいいことなんだと身をもって教えたいと考えた。
「子どもでも大人でも、失敗してもいいといわれると勇気が出ますから。実際、息子が小さい頃、転んだ時も手を貸さず“上手に転べたね”って、失敗を褒めてあげていたんですが、ある時“そういえば私、最近失敗してないな”と。それは自分が挑戦していないからだと気づいてしまって。お金がなくて家財道具を売ったり、大変な時期もありましたが、頑張っている姿を見せることはきっと息子の将来にとってもプラスになる。その気持ちが起業の後押しになりましたね」
前島ゆみさんてこんな人! ご本人のリアルに迫る一問一答
――座右の銘は?
まずはやってみる。
ギブ アンド ギブ。
「ギブ アンド ギブ」はよく相談にのっていただく経営者の方の携帯のTOP画面にあった言葉です。これを目にしてから経営する上でいつも心に留めています。
――大変な時に助けられた人やモノは?
諸先輩方と本。
岡本太郎『自分の中に毒を持て』
ロバート・ビスワス=ディーナー『勇気の科学 一歩踏み出すための集中講義』ジュディ・ダットン『理系の子 高校生科学オリンピックの青春』
岡本太郎さんの本は独立したい人に特におすすめの一冊。私も印象的な箇所には線を引き、何度も読み返しています。『勇気の科学~~』は、岡本太郎さんの本を読んでも弱気になってしまう時に。なんでもロジックで説明されるのが好きなので、この本を読んで“よし!やろう”と気持ちを奮い立たせました。
――仕事をする上でゆずれないことは?
好きであること。
自分の仕事が好きであることはとても重要。好きだからこそ情熱を注げる。仕事なんてトラブルばかりじゃないですか(笑)、それも楽しめるのは、好きなことだからこそ思うんです。
――起業したことのデメリットは?
特にないです。
――ビジネスを始めて得た気づきは?
成功されている方は気遣いが素晴らしい。
オーナー社長や起業家の方にお会いする機会が増えたんですけど、会社を存続させている方ってみなさん誰に対しても親切で細やかな気遣いをされる方たちばかりなんです。それが人や会社、商品が愛される理由なんだなと改めて感じさせられました。
――ストレス解消法は?
お風呂。
疲れた時は真っ暗にしてキャンドルを点けてゆっくりとお風呂に入ります。その日のネガティブな気持ちを水に流して心も体もすっきり!
――日々心がけていることは?
「ありがとう」の出し惜しみをしない。
できる限り“ありがとう”って口にしようと心がけています。子どもに対してもまわりの人たちにも、日々助けられている思いがあるので。一日何十回も言ってますね。特にビジネスを始めてからそう思うようになりました。
――自分らしさをキープするコツは?
気持ちの上がる服を着てメイクをする。
――自分の強みは?
素直さと行動力。
――逆に直したいところは?
せっかちで待てない。
主に子育てなんですけど、待ってあげることが大事だなって気づいて私がその訓練をしています(笑)。言わない、手を出さない、先回りしてやってあげない。子どもが一回自分でやるまでとにかく待つ姿勢。
―前島さんにとって成功とは?
自分がやりたいことをやれている状態。
起業だけじゃなくて、会社員でも専業主事であっても、どんな立場であれ自分がやりたい状況でそれができていれば、その人にとっての成功なんじゃないでしょうか。
――どんな世の中になってほしい?
安心して自分のやりたいことがやれて、行きたい場所にいつでも行ける世の中。コロナ禍になって強く思いました。
独立前と独立後の環境や気持ちの変化をチャートで分析!
「基本的に好きなことを仕事にしているので、会社員時代も独立してからも精神的には比較的充実していると思います。独立後はオーナーとして忙しい日々ですが、自分軸で都合がつけられるので時間的拘束のある会社員時代よりはストレスなく働けています。何より独立へのきっかけとなった子どもと過ごす時間は何ものにも変えられません。オーナーとしてのプレシャーはありますが、子どもを軸にした生活ができている今、働き方の満足度はかなり高いです」