起業、独立、複業など「自分軸」に沿った選択をすることで、より理想にフィットした働き方を手に入れようとした女性たちの連載「INDEPENDENT WOMAN!」。第7回は、女性のバイオリズムや体の変化に寄り添うセルフケアブランド「WRAY」を立ち上げた株式会社WRAY代表取締役の谷内侑希子さん。女性起業家には珍しく、資金調達をして起業した彼女。働き方の軸やブランド立ち上げまでの背景を伺った。
文=吉田可奈 写真=小嶋淑子
目指したのは自分にスキルをつけていく働き方
女性向けのセルフケアブランド『WRAY』を立ち上げた谷内侑希子さん。実は母親も、祖母も経営者というルーツを持ち、いつかは自分も経営に関わるのかなと考えていたんだとか。とはいえ、新卒で就職をするときは、まだ何がやりたいのかが決まっていなかったと話す。
「“この仕事がしたい”という明確なものがなかったので、まずはその先の選択肢が広がればと金融業に就職をしました。金融業は、経済のミクロからマクロまで見る必要があり、すごくいい修行になると思ったんです。その後、夫が海外転勤になり仕事を辞めてついていきました」
一度キャリアをリセットし、夫の転勤先であるイギリスへと拠点を移したことで気づいたのは、“今後も夫の転勤についていく選択をするのであれば、ひとつの会社でキャリアアップを目指すのは難しい”という現実。それが、彼女にとっての大きなターニングポイントとなった。
「当時、第一子を妊娠していた私にとって、夫の単身赴任という選択肢はありませんでした。さらに、この先も夫に転勤はあるだろうし、ひとつの会社で社員として出世していく働き方には無理があると思ったんですよね。
そこで考えたのが、自分にスキルを付けて生きていくということでした。数年後に帰国をしたら、もともと興味があったマーケティングのノウハウを身に着け、自分の力にできるように働こうと決めたんです。それと同時に30歳を迎え、これまで働くだけ働いて、ハードワークも経験し、限界も知ったからこそ、ここからは自分のスキルとキャリアを調整しながら生きていくフェーズに入ったなと思いました」
経営に関わるようになり見えてきた”起業“の文字
無事に帰国した当時、長女はまだ2歳。株式会社YCP Japan(現 株式会社YCP Solidiance)に入社。ここでマーケティングついて多くのことを学ぶなかで、新たな夢が芽生えてきた。
「帰国後、この会社が未経験の私を受け入れてくれたことは、すごくラッキーでした。そこでマーケティングを学んでいくうちに、取締役までやらせていただくようになったんです。手掛けていたスキンケアブランドが大きく成長していくうちに、もっと経営の勉強をしたいと思うようになりました。
そんな中、株式会社ステディスタディから経営企画のお話を頂いたんです。そこに入社し、社長と一緒に会社全体の経営をしていくうちに、以前からふわっと思っていた“いつか自分で会社経営をしたい”という想いが、はっきりとした輪郭を持ち、身近な目標となっていきました」
幼い頃から、経営者である母と祖母の話を聞き、身近に感じていた“起業”。ステディスタディで実際に経営に携わる中で、それがより現実的になってきた。さらに背中を押したのが、近くで活躍する女性社長たちの姿。
「ステディスタディの吉田瑞代社長が女性だったこともあり、ずっと近くで見ているなかで社長業にどんどん興味が湧いてきたんです。さらに当時お仕事をご一緒させていただいていたサニーサイドアップグループの代表取締役である次原悦子社長の働く姿を見て、よりやってみたいという気持ちが強くなりました」
人の役に立っているという実感がモチベーション
谷内さんのなかで、起業をすることが現実的になった時に、最初に考えたのが、“何をやるか”ということ。
「起業をするなら、人のためになることをしたいと思っていました。モチベーションって、お金や地位、役職でもなく、“役に立っている実感”だと思っていたので、これは絶対条件でした。人生を変えられるようなプロダクトやサービスを作れたら最高だなと思い始めたんです」
そこで人生を振り返った時、思い当たったのは、これまで働く中で、自身も優先順位を下げてしまっていた身体のこと。
「女性特有の不調や、身体の悩み、困ったことって人に話せなかったり、仕事や育児優先でないがしろにしてしまうことが多かったんです。そして、実は多くの女性が同じように感じていることを知って、自分たちの世代がどうにかしなくちゃいけないと感じました。そのタイミングで、あるとき“セルフケア”という言葉を聞いて、すごくしっくり来たんですよね。自分も探している、女性の体調や体の変化に寄り添ったプロダクトやサービスを作ろうと決めました」
女性起業家を後押しする文化を作るために決めた資金調達
女性が体調や体の変化に向き合い、快適な生活を送るためのサポートをするブランド“WRAY”を立ち上げた。起業資金は、ファンドや投資家から資金調達し、約4500万円の出資を受けた。当時、“フェムテック”という言葉がまだ浸透しきっていない頃ということもあり、スムーズに調達できるか不安があったという。
「“フェムテック”はまだ日本に来たばかりのジャンルだったこともあり、この言葉を知っている投資家がいるかいないかぐらいの時期。不安はありましたが、資金調達ができなくても進められる事業ではあったので、とりあえず“えいやっ”という気持ちで挑戦しました。
それに、資金調達が成功すれば、女性起業家を後押しする文化が作れる、発信できることがすごくいいなって思ったんです。ここで調達した資金は、商品開発や、人材採用、アプリの作り込みなどに使用しています。これも調達できたからこそできた部分ではありますね」
資金調達のメリットは事業の明確化
しかし、仕組みを知っている人しか、資金調達ができない現状に疑問を感じていると言う。
「資金調達は、まだまだハードルが高いと思います。まず、仕組みが分かりづらいですよね。私はたまたま金融業の経験があったので、投資にかかわっている知人も多く、話も聞けて、その仕組みが分かり実現できましたが、投資家やファンドには簡単にアクセスできないクローズドな世界になってしまっている。とはいえ、アイディアや中身がよければ、聞いてくれる投資家も少なからずいて、ピッチコンテストなども増えているので、果敢にアプローチしていくのは必要だと思います」
資金調達をすることにはメリットもあるという。
「投資家に説明するために事業計画をしっかり練る必要があるため、アイディアを明確化できます。頭と時間も使いますが、マーケットを調査したり、事業を俯瞰して見れたり、視野も広くなりますし、とても必要なことだと思います。
今は銀行や創業支援制度から借り入れすることも、リーズナブルでいいと思います。融資を申請するのも、資金調達と同じく事業のブラッシュアップに繋がるので、そこから挑戦するのも手ですよね」
資金調達をして起業したからこそ感じるプレッシャーはあるのだろうか。
「投資家からのプレッシャーではなく、起業して社員を抱えていることへのプレッシャーはありますね。もっとこういう風にしたいのに、近づけないという自分への焦りもありますが、それは永遠に乗り越えられないものですし、乗り越えたらそこで終わりになってしまうと思うので、目の前にあることを、ひたすら一生懸命考えて進むしかないなと思っています」
こうして事業を始めた谷内さん。「WRAY」商品開発の裏側や経営者としての葛藤は後編にて。
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