海外では「マインドフルネス」という言葉で、GoogleやAppleなどのIT企業が社員研修に導入したり、生活の一部に取り入れている人も多いと言われている「瞑想」。ここ数年日本でも“瞑想人口”が増えているとは聞くものの、まだまだ「スピリチュアルなもの」や「なんか怪しい」というイメージが根強く浸透しているのも事実。
果たして「瞑想」は本当にいいものなのか?
体験者が口を揃えて「人生が変わった!」と絶賛する「瞑想」の効果を知るべく、脳・神経科学者の青砥瑞人さんと瞑想・ヨガインストラクターの椎名慶子先生の対談でお届けする本企画。巷でささやかれている「瞑想すれば引き寄せられる」は本当? 第三回目は、『引き寄せ瞑想ヨガ』という著書をお持ちの椎名先生に、脳科学の視点で青砥さんが切り込みます。
文=齊藤美穂子
「瞑想」によって脳の回路が筋肉のように鍛えられる
――瞑想には大きく分けて三段階あると伺いました。最終段階である、深い瞑想状態に入っている人の脳の状態はどのようになっているのでしょうか?
青砥「研究の仕方にもよりますが、深い瞑想状態になっている人の脳がどう動いているかではなく、深い瞑想状態になるための鍛錬だったり、何度も繰り返してやっている人の脳の状態がそもそも違うんです。
筋肉って使えば使うほど太くなっていくじゃないですか。人間の脳も筋肉と同じで、神経細胞も目に見えないだけで使われれば使われるほどミエリン鞘という部分が太くなるなど、ミクロな世界で変化が起こっていることがわかっています。
人間の脳って全体重の質量比でいったら2%くらいしかないのに、エネルギー(グルコース)は全体の25%も使うと言われていて。めちゃくちゃ大食漢ですよね。エネルギーを無駄遣いしないために使っていない回路は刈り込んでいくプルーニングクルージングという現象が起きます。
瞑想する中で、意識の対象を定めて、ずっと留めておく、離れても戻していくっていうコントロールを繰り返している人は、それに伴って脳の回路が成熟されて、エネルギー効率がよくなっていくんです。でもこの回路を開通工事している間はエネルギーをたくさん使うので疲れますね」
椎名「そういうことだったんですね! 瞑想を初めてやる生徒さんって、瞑想するのにとても疲労感を感じているんですよ。でも私も最初はそうだったので、すごくわかるんです。だから3回は頑張ってみてねと伝えてやってもらうのですが、だいたい4回目くらいから楽になってくるんですよね。きっと脳の回路の開通工事が終わったってことですよね。非常に興味深いです」
青砥「その通りです!(笑)」
椎名「最初はすごく意識していても、だいたい半年くらいきちんと続けていくと、概ねだいたいの方が意図しなくてもすっと瞑想状態に入れるようになります。人によっては第一段階を飛ばして第二段階に行けるようになるんですが、もう回路ができているんでしょうね」
――第三段階には平均的でどれくらいでたどり着けるようになるのでしょうか?
椎名「人によって違いはあるのですが、私が勉強した頃は、200年に1人その段階に行ける人がいるかどうかだって教えられたんです。ただし、第三段階にもたくさん段階があって、すごく深い段階になると、自分で自分の呼吸も体の機能もすべてストップさせて、また元に戻ってくるということをされる方もいらっしゃいます。
インドには政府に認定された「公開サマーディ」ということをされる方がお2人いらっしゃるのですが、何万人もの観衆の前で、土の中に穴を掘ってその中に入り、水も食事も光もない密閉された空間の中で深い瞑想状態(サマーディ)に入り、数日後に出てくるんです。これをできる2人のうちの1人がなんと日本人!
なんでそんなことができるかっていうと、深い瞑想状態に自分を持っていくことによって、心と体の機能の全てを静め、普通なら生きていけないような状態でも自分を生かしておくようにコントロールできるからなんですね」
青砥「めちゃくちゃ面白い! それってさっきの話と通じますよね。深い瞑想を極めている人って、繰り返すことで脳の回路はすごく太くなっているはずなんです。つまりエネルギー効率は圧倒的に良くなっているってことですよね。全エネルギーの25%を脳が消費しているっていう文脈で考えると、長い期間エネルギー補給なしで生きていける状態ということは、自分自身で身体的な省エネモードが構築できているからこそなんだと思います」
椎名「実際にその方にお会いしたことがあるんですが、温かな包容力があるのに、植物のような省エネ感も感じました。その方くらいまで最も深い瞑想に入れるのが200年に1人という頻度であって、私の感覚でいうと第三段階に触れることはもっと身近で、よく起こることかなと思っています。触れる感覚は1秒とか2秒なんですが。
数ヶ月から半年でそこまでいける人もいますし、プロのダンサーさんやスポーツ選手なども、きっとその状態に触れたことがある方は沢山いらっしゃるだろうなと感じています」
脳科学の視点からもわかる「瞑想」と引き寄せの関係
――瞑想を続けていると引き寄せ(=願ったことが叶う)が起こるという話を聞きますが、これはなぜなのでしょうか?
椎名「ヨガでは、その人が考えているようにその人はなっていくという教えがあって、その人が考えていること、思い描いていること、言葉に出したことは、その人の人生に種として植えられると考えられています。インドは輪廻転生の考えがあるので、その種が芽を出すのは、今回の人生なのか、次の人生なのか、次の次の人生かはわからないけれど、瞑想している人はその現実化のスピードがパワフルに、そして早くなっていきます。
それはなぜかと言うと、瞑想を続けると、自分の心がクリアになるからなんです。動き続ける心を今に集中させれることが上手になっていくので、今欲しいものや今考えたこと、今、今、今……ってやっていくと、どんどん現実化が早くなります。なので、“瞑想を始めたら口から出す言葉、自分の中で思う言葉に気をつけなさい”と教えられます。これは実際に私自身も感じることはありますし、生徒さんでも多く見ますね」
――それは、例えば病気になったらどうしようとばかり考えていると、引き寄せて病気になってしまうということですか?
椎名「瞑想を続けていくと、そもそもネガティブなことに引っ張られることがなくなってきます。ただ、人にネガティブな言葉を投げかけるということは、相手に対しての影響力も強くなるので気をつけなさいということは言われます。あと言った言葉は必ず自分が刈り取ることになる。人に言ったことはそのまま自分が体験することになるかもしれない、これがヨガの教えですね」
青砥「瞑想を続けている人は引き寄せやすくなるというのは、僕も間違いなく事実だと思います。科学的に証明されているわけではないのですが、自分と内側との対話が増えていることが大きいと思います。
ぼくたちは毎日、朝起きたらスマホ、仕事終わってもスマホ、夜寝る前もスマホ、そしてそのまま寝たらいつ自分の内側と対話するの?っていう状態。昔だったら日が沈んでもまだ眠くないなと思いながら、頭の中でいろいろ考えたり、自分自身に意識を持ってくる時間も多かったと思うのですが、今はスマホに自分の好きなものがたくさん入っていて、外側へのアテンションを誘い過ぎちゃっているんです。要するに外付けの情報が自分を作っていくって状態になりやすくなっているんですね」
――まわりにああ言われたとか、こう思われたと、外部評価が自分なんじゃないかと思い込みやすくなっているかもしれません。
青砥「でも自分って自分で作るものですよね。そして、こうしたいとか、こうなりたいって、自分の内側と向き合っている人しかわからないんです。なので、自分と向き合う時間が長ければ長い人の方が引き寄せやすいんだと思います。
人間の思考って記憶痕跡として内側に形として残るんですよ。考えて続けていること、行動し続けていることって、その足跡がぼくたちの脳の中に痕跡として残るので、だんだんそれらが自分の一部になっていくんです。
これはスピリチュアルでもなんでもなくて、自分の内側を思考や行動で造形し続けるイメージです。本当に自分が物質的に変化していくんです。そうやって自分を作っていく作業をしていくと、それに伴う行動をするようになり、機会やチャンスに恵まれる表面積は当然増えていくわけです。
でもスマホなど、なんとなく触れているものって、脳に足跡を残さないので、意識的に向き合わないとダメなんです。例えば英単語ひとつ覚えるにしても、何回もリピートしてようやく覚えて情報となりますよね。なので、自分の考え方や心の持ち方も、ひたすら意識的に繰り返して、ようやく自分の一部になり、引き寄せる可能性を上げていくということだと思います。それこそ瞑想ですよね」
――瞑想に加えて、「引き寄せ」もスピリチュアルなものだと感じていた人も多いと思います。ヨーガの教えと脳科学的がリンクする部分が多数あり、瞑想をするメリットに、より説得力が増しました。今回はありがとうございました。
DAncing Einstein代表
日本の高校を中退後、脳科学の面白さに興味を持ち、詳しく学ぶために単身渡米。米国の大学「UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)」で脳神経科学を学び、2012年に飛び級で卒業。帰国後、2014年に、最先端の脳神経科学を教育や人材育成などのヒトの成長を支援する分野へ応用する企業「DAncing Einstein」を設立。脳とAI、そして教育をかけあわせ、世界初の「NeuroEdTech」というジャンルを立ち上げ、これまでに多数の特許を取得している。著書に『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『HAPPY STRESS』(SBクリエイティブ)、『4 Focus』(KADOKAWA)などがある。https://www.da-einstein.com
シータヒーリング ®️・ベビーサイン講師
ウタール ヨーガ・ヒーリングスクール主宰
NYにて全米ヨガアライアンスを取得後、アメリカ、日本、インドにて瞑想やヨガ哲学、マントラなどを専門的に学び、ホットヨガスタジオLAVAの創業インストラクターとして数々の人気プログラムを開発。1000名を越えるヨガインストラクター教育を担う。現在は瞑想を主にしたウタール ヨーガ・ヒーリングスクールの主宰を務め、「一人ひとりがハッピーに生きること」をテーマに活動している。著書に『はじめての瞑想CDブック: 心が整い、日々生まれ変わる』(学研プラス)、『引き寄せ瞑想ヨガ』(日本文芸社)がある。
Uttal yoga & healing school