海外では「マインドフルネス」という言葉で、GoogleやAppleなどのIT企業が社員研修に導入したり、生活の一部に取り入れている人も多いと言われている「瞑想」。ここ数年日本でも“瞑想人口”が増えているとは聞くものの、まだまだ「スピリチュアルなもの」や「なんか怪しい」というイメージが根強く浸透しているのも事実。
果たして「瞑想」は本当にいいものなのか?
体験者が口を揃えて「人生が変わった!」と絶賛する「瞑想」の効果を知るべく、脳・神経科学者の青砥瑞人さんと瞑想・ヨーガインストラクターの椎名慶子先生の対談でお届けする本企画。第二回目は「瞑想」をするメリットや効果について、ヨーガと脳科学、両方の観点から教えていただきました。
文=齊藤美穂子
自分自身で「幸せ」な状態を作れる
――第一回目は「瞑想」とは、今この瞬間にとらわれる練習であり、積極的な休息であることを教えていただきました。今回は瞑想を続けることで得られる具体的なメリットについて教えてください。
椎名「瞑想とは、幸せに生きていくためのテクニックとして教えられているので、最大のメリットは自分自身が幸せを感じられるようになることなんです。
前回もお伝えしたように、人が幸せでいられなくなる理由は、“心が動き続けているから”とされています。自分がこうしたいと思っているのに、心では“誰かにこう言われたらどうしよう”と思っていたり、失敗したことを切り替えようと思っても、心ではずっと気になってくよくよしていたりして、自分が行きたい方向と反対の方向に心がふれてしまうことってありますよね。心がバラバラに動くとストレスの原因になり、その人の人生を自由でなくしてしまう場合もあります。
また、“心は際限がないもの”と教えられていて、例えばあの服が欲しい、服が手に入ったらあの靴が欲しい、手に入れたら今度は似合う体型が欲しい、次はパートナーが欲しい……と際限なく欲しいものがあったりしませんか。もちろん成長するためには大事な働きなんですが、ずっとそれに追い立てられていると、私たちの内面もとても疲れてしまうんです。瞑想はそういった心を一度休ませて、ニュートラルな状態に戻してあげるものです」
青砥「そうですね。現代では刺激的なものが常にまわりにいっぱいあって、意識していなくてもスマホからたくさんの情報を受けて、知らず知らずのうちにストレスを感じている場合もあります。瞑想をしていくことで、そのストレスが軽減する効果は間違いなくあります。
当たり前ですが、ストレスを感じるのは、脳の中にストレスを感じさせるための回路があり、身体的にその回路を活用するからなんですね。脳にはHPAと呼ばれる3つのラインがあり、そのなかのひとつである副腎皮質という脇腹あたりにある臓器で、コルチゾールというストレスホルモンが作られます。ここを刺激するとストレスホルモンが作られて、全身を巡ってストレスを感じることになるんですね。
つまり、単純にここを使わなければストレスは感じないんですよ。瞑想状態のときって、脳の回路を自分の意識の対象に強く向けさせることをしていますよね」
――瞑想することによって意識的にそのラインを使わなくなれば、ストレスを感じにくくなるということですか?
青砥「はい。何気なく日常を過ごしているなかで、勝手にストレスになるような情報を取り込んでは、自分でHPAを刺激してストレスをクリエイトしている可能性がありますから、瞑想をして能動的に意識を自分に向けていくことが大事なんです。
さらに、ストレス軽減には呼吸、特に吐く瞬間が大事です。なぜなら、吸うときはストレスがあるときに働く交感神経を使っていて、吐くときにはリラックスしているときに働く副交感神経を使っているからです。
人って嫌なことがあると“はあっ”てため息を吐きますよね。これは息を吐くと気持ちが和らぐことを体が知っているんです。吐くとほっとしますよね。なので、僕は瞑想をするときは、心地よく吸って、細く長く吐くという呼吸方法を取り入れています。それは副交感神経側を優位にしてあげることで、ストレスの軽減になるからです」
自分を内観することで「本当の幸せ」に気づく
――絶え間なく動く心を休ませ、呼吸を使って自分自身に意識を向けることでストレスが軽減していくことがわかりました。最終段階の「無の状態」になれば「幸せ」をより感じやすくなるのでしょうか?
青砥「僕は禅もやっているのですが、禅の世界でも心や感情が動かないようにする練習をしていくんです。たしかに心や感情が動くことで、苦しんだり辛いと感じることはたくさんあるんですが、一方で僕たちが幸せだと感じているときも、心と感情が動いているからだよなって思っています。
なので僕は、感情をなくそうとかそういうことではなく、自分の内側に気付きやすくなることが瞑想のメリットだと感じています。本質的な幸せを感じているときって、自分の中に何かしらの変化が起きて幸せを感じているんですよね。お金とか見栄えとか外側にあるものじゃないんです。もちろんそれらで幸せになることもありますが、自分の内側とコミュニケーションを取っていかない限りは、自分の中にある本質的な幸せを感じることは難しいんですよね」
椎名「本当にその通りだと思います。ヨガの教えのなかでも、“幸せの取り扱い方”がふたつあります。ひとつは、“なにか物事を達成した時に感じられる幸せ”。例えば欲しいものが手に入ったときや、なりたい自分になれたときに感じるものです。
もうひとつは、“何かがあってもなくても幸せだと感じる姿勢”です。ヨガではこのふたつ目の幸せを感じる姿勢をとても大事にしています。まさに今青砥さんがおっしゃったように、今日のお茶は美味しいなとか、ここに床があるなとか、そういった些細なことで幸せを自分で感じるようにしていく、心に引きずられないで、自分で心の手綱を引いていける状態のことです」
青砥「現代社会ではテクノロジーが進んで、どんどん魅力的なものを生み出して、僕たちのアテンションを外へ外へといざなっていく状態です。でも少しのあいだ目を閉じて幸せな出来事を思い出してみたら、それだけで幸せな気持ちになりませんか。僕も子どもが生まれた瞬間のことを思い出すだけで、すごく幸せな気持ちになります。
本来幸せを感じるには何もいらなくて、自分の内側にちょっと注意を向けてあげるだけでいいんですよね。その練習をしていくと、なにか刺激の強いものじゃないと感情がポジティブにならないのではなく、日常の当たり前のなかにあるものに、豊かな感情を芽生えさせ、気づきを感じられるようになる。そうすると幸せの表面積が増えていくので、自然と毎日が幸せな状態になっていきますよね。そこに禅だったり、瞑想だったりヨーガの本質的な価値があるのかなと今日は改めて学ばさせていただきました」
トラウマがなくなりプラスな方向に動き出す
椎名「青砥さんに質問があるんですが、瞑想をしていくなかでこれまでたくさんの人がトラウマを減らしていく姿を見てきたんです。しかもトラウマがなくなることで、病気が改善したり、不妊症が解消したりして、プラスに向かっていく事例もたくさん見てきました。ヨガの教えでは、“瞑想で真の幸せを体感したときに、サンスカーラと呼ばれる記憶の痕跡は書き換えられる”というものがあるんですが、幸せな感覚を感じることで、脳の中で記憶が書き換わることはあるのでしょうか?」
青砥「おっしゃる通り、記憶の書き換えの原理っていうのは、細胞分子レベルで紐解かれつつあります。日本の理化学研究所、実際にはMIT(マサチューセッツ工科大学)にいる利根川 進さんがこの研究を第一人者でやっていらっしゃるんですが、感情の書き換えの原理はあるんですよ。
体験というのは、海馬にどういうエピソードがあったのかという記憶と、海馬とつながっている扁桃体に感情の記憶として保存されます。ぼくたちの脳は、何が起こったかという事実だけでなく、そのときどう感じたかという感情まで保存するんですね。これがつらい体験だと、エピソードに紐づくネガティブな感情記憶が強く反応してしまって、いわゆるトラウマ状態になるわけです。でも最近の研究では書き換えられることがわかってきたんです」
――どのように書き換えるんでしょうか?
青砥「トラウマになったエピソードのことをまったく見ずに解消されることはほぼありません。精神医学的な療法でも取り入れられているんですが、嫌な記憶を引き出しつつ、ポジティブな体験や感情も同時に出すようにするんですね。すると、脳の中で嫌な記憶と嫌な感情の紐付けが、ポジティブな感情との紐付けに変わっていく。それが繰り返されると、ぼくたちは感情の書き換えが行われると言われているんです」
椎名「面白い!!」
青砥「日常のなかでも、悩みがある時に話す相手って、自分が信頼していたり好きな人だったりするじゃないですか。そうすると、具体的な解決策が上がったわけじゃないけど、話しただけで楽になることってありますよね。嫌な気持ちではあるんだけど、その相手といる瞬間に心が豊かになっている。これも嫌なことと幸せなことの同時発火の原理によって、楽になっているわけなんです。
なので、瞑想をしっかりやられているなかで、同じようなことが引き起こされる可能性は大いにあるんじゃないかと思います」
椎名「すごい! 実際に瞑想中に嫌な記憶が何の感情もなく思い出されることがあるんですが、その現象って記憶を燃やして浄化しているということだからねって教えられるんです。瞑想中のリラックスした幸福感の中で過去のつらい記憶が思い出されることで、実際に脳の中で情報が書き換えられていることになるんですよね。すっきりしました〜!」
――トラウマが解消されるとは、瞑想の効果ってすごいですね。今回は、幸せは自分の内側にある。そして瞑想を続けていくことでそれに気付き、特別なことやものは何もなくても、常に幸せな状態でいられることが瞑想のメリットと教えていただきました。最終回となる次回では、瞑想と引き寄せの関係についてお話を伺います。
DAncing Einstein代表
日本の高校を中退後、脳科学の面白さに興味を持ち、詳しく学ぶために単身渡米。米国の大学「UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)」で脳神経科学を学び、2012年に飛び級で卒業。帰国後、2014年に、最先端の脳神経科学を教育や人材育成などのヒトの成長を支援する分野へ応用する企業「DAncing Einstein」を設立。脳とAI、そして教育をかけあわせ、世界初の「NeuroEdTech」というジャンルを立ち上げ、これまでに多数の特許を取得している。著書に『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『HAPPY STRESS』(SBクリエイティブ)、『4 Focus』(KADOKAWA)などがある。https://www.da-einstein.com
シータヒーリング ®️・ベビーサイン講師
ウタール ヨーガ・ヒーリングスクール主宰
NYにて全米ヨガアライアンスを取得後、アメリカ、日本、インドにて瞑想やヨガ哲学、マントラなどを専門的に学び、ホットヨガスタジオLAVAの創業インストラクターとして数々の人気プログラムを開発。1000名を越えるヨガインストラクター教育を担う。現在は瞑想を主にしたウタール ヨーガ・ヒーリングスクールの主宰を務め、「一人ひとりがハッピーに生きること」をテーマに活動している。著書に『はじめての瞑想CDブック: 心が整い、日々生まれ変わる』(学研プラス)、『引き寄せ瞑想ヨガ』(日本文芸社)がある。
Uttal yoga & healing school