海外では「マインドフルネス」という言葉で、GoogleやAppleなどのIT企業が社員研修に導入したり、生活の一部に取り入れている人も多いと言われている「瞑想」。ここ数年日本でも“瞑想人口”が増えているとは聞くものの、まだまだ「スピリチュアルなもの」や「なんか怪しい」というイメージが根強く浸透しているのも事実。

果たして「瞑想」は本当にいいものなのか? 

 体験者が口を揃えて「人生が変わった!」と絶賛する「瞑想」の効果を知るべく、脳・神経科学者の青砥瑞人さんと瞑想・ヨガインストラクターの椎名慶子先生にお話を伺いました。脳神経科学から見ても、瞑想には何かしらの効果があるのでしょうか。第一回目はそもそも「瞑想」とは一体どんなものなのか、科学的な裏付けに迫ります。

文=齊藤美穂子

「瞑想」=今この瞬間にとらわれる、積極的な休息のこと

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――ここ数年、「マインドフルネス」という言葉を耳にしたり目にする機会が増え、興味を持った人も多いと感じています。一方で日本ではまだ「怪しい」というイメージもあります。そもそも「瞑想」とはどんなものなのでしょうか?

青砥「たしかに瞑想や禅は“スピリチュアル”と言われることもありますが、これまで心や精神性が僕たちの考え方や行動に影響を与えてきたということは間違いありません。だからこそ、長い歴史の中で価値がずっと引き継がれていると僕は思っています。実際“脳”のことなんてわかっていないことのほうがまだまだ多いのですが、ビル・ゲイツさんやスティーブ・ジョブズさんも取り入れていたように、世の中も少しずつメディテーション(瞑想)に対してポジティブに捉えられてきているなと感じています。なので今日は瞑想の話をするのをとても楽しみにしていました」

椎名「私も脳科学の観点からお話を聞けるとのことで、今日はとても楽しみにしていました。世界にはたくさんの瞑想の仕方があるので、私がこれまで勉強してきたインドの瞑想についてお話しできればと思います。インドという国はとても大きくて、多様な方々が一緒に暮らしている国なので、人と違うことは当たり前という国民性があると思います。隣の人が信じていることと自分が信じていることが別でも気にならない。なので、ヨガや瞑想にもさまざまな流儀があるのですが、私の先生は“瞑想は積極的な休息”だとおっしゃっていました」

――瞑想は「無の状態になる」というイメージがありますが、「休息=無の状態」ということでしょうか。

椎名「頭の中が空っぽになったり、無の状態になるのは最終境地のことを言います。瞑想ってとてもたくさん段階があって、その段階によって体験することが全然違うんです。

 大きく3つの段階があり、最初はひとつのことに意識を向ける段階から始まります。何に意識を向けるのかは人によって違っていいのですが、感覚を使うことがやりやすい方法なので、初心者の方は呼吸に意識を集中することから始めるといいとよく言われます。他にも歌うことや食べることに集中するといったやり方もあるんですよ。とにかく何かひとつのことに気持ちを集中させる状態、これが瞑想状態の入口です。

 瞑想をやってみたことがある方なら経験があるかもしれませんが、なにかひとつのことに気持ちを向けようとすると、そういえばあれやってないな……など別のことを思い出しちゃったり、気持ちが移ることがありますよね。でもこれも瞑想のステップひとつなんです」

瞑想で脳のネットワークが活性化する

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ーーそれも瞑想のステップのひとつなんですね!いろんな考えが浮かんで、「ぜんぜん瞑想できてない!」と思っていました。

青砥「脳の視点から捉えても、感覚の中でも扱いやすくて単調性がある“呼吸” に意識を向けることは、瞑想に適しています。なにかに注意を向けるには、脳の中でセントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)と言われる機能を使います。意識的に自分の注意を向ける司令塔のような役割をします。

 しかし、呼吸のように単調なもの、同じような情報に対して注意を向け続けていくと、人間の脳ってどうしても飽きちゃうんですよね。例えばつまらない授業中、あれしたいこれしたいって別のことを考えてしまったりしますよね。これは専門的にはマインド・ワンダリング現象と呼ばれる、無意識に近い脳のおしゃべり。生物としてごく当たり前の現象です。

 この時、多くの場合、無意識の中では前後1日の出来事について考えています。すなわち人ってちょっと未来のことだったり、ちょっと過去のことにとらわれやすいんですよ」

――たしかに瞑想をやろうと目を閉じているときになんとなく考えていることは、昨日もっとああすればよかったなとか、今日のご飯何食べようとか、少し過去のことや未来のことかもしれません。

青砥「はい。人がそのようにぼんやり考えている時、脳のなかでは、デフォルトモードネットワーク(DMN)が活動的になっています。そこで、「あ、今別のこと考えてるな」とDMNが活性したことに気づくと、それはセイリエンスネットワークというCENとDMNを繋ぐネットワークを使っている状態。

 この3つのネットワークは神経科学の視点からも人間の思考や行動に影響を与える大事なネットワークと言われています。瞑想をすることで、自然とこの3つのネットワークを行き来し、活用することができる。これが瞑想のひとつの効用です。

 また、マインド・ワンダリング現象がおこり気が逸れた時、また呼吸に意識を戻すことを続けていくとどうなるかというと、必然的に今この瞬間の自分自身に注意を向けることになるんですね。つまり瞑想をやる意義は、今この瞬間にとらわれる練習でもあるんです」

椎名「今のこの瞬間にとらわれる、まさにそれです。ヨガの教えでは、どうしてその人が幸せでいられなくなるかというと、心が動き続けていることが原因だと言われています。自分がやりたいことやするべきことがあるのに、心が「できなかったらどうしよう」「やる気がでない」などそれに反した動きをしていると、思ったままに動けなくなってしまう。

 だから、人生の中で自分が本当にやりたいと思うことに踏み出したり、疲れていない状態で物事に臨んだりするためには、一度心を休ませることが大事なんです。それが“積極的な休息”です。

 瞑想の第一段階では何かひとつのことに気持ちを集中させるとお伝えしました。青砥さんがおっしゃった、マインド・ワンダリング現象が起きたら、もう一度集中に戻す、戻す、戻す、という作業を続けていくと第二段階に入り、だんだんと集中力が途切れないようになります。これがいわゆる“瞑想状態”のことです。

 今日暑いなとか、今音がしたなとか、何かに思考がかすかに動いたりすることはあるんですが、それでも集中が切れていない状態。これは、温泉に入ってすっごく気持ちがいいなって思う感覚と近いです。温泉に入ったときって、心の中にストレスがなくて、自由な感じがして、休息しているなって感じがしますよね。その途中に、帰ったらあれやらなきゃってよぎったりしても、心の中はリラックスして調和が保たれている状態、あの感じです。

 そして最終段階になると、休息という名が意味する通り、自分の感覚・感情・思考というものが静まった状態になるんです」

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青砥「瞑想を極めると、温泉に入ったようなリラックス感を得られるっていうのは、実体験からしても本当にあると思いますし、能動的にそういった状態になることは誰しもが身につけられることだと思います。

 その一方で、もうひとつの瞑想状態として、逆に気持ちをもっともっと揺らがせていく脳の使い方というのもあると思っています。人間の脳の使い方として、何かひとつのものに意識をとどめるという性能もあるんですが、勝手気ままに活動状態に入って色々な思考や感情が出てくる、っていうのも脳の能力なんですね。

 このようなマインド・ワンダリング現象の延長線上にあるものが、じつは新しいアイデアやクリエイティビティにつながることがあると、最近注目されているんです。よくクリエイティブなアイデアが急に降りてきたなんて言ったりしますが、これは無意識の状態で脳がいろんなことを考えているから。自分の意識だけでは思い付かなかったことに、脳細胞たちが無意識のうちに活動状態に入ってアイデアを作っているんです。

 いわば、能動的に自分からその状態になるのか、それとも自分の内側の細胞を勝手に活動させてその状態になるのかということですが、僕はどちらも瞑想状態にあるんじゃないかなと思っています」

椎名「すごく面白いですね! 実はヨガの瞑想でもその“思考を自由にさせていく”っていうことをやるんです。ひとつのことに集中して瞑想状態を極めるって方法ももちろんあるんですが、集中できるようになってきたら、今度はそこを手放す瞑想の練習をするのもオーソドックスな方法です。本当に自由な状態です。そうするとアイデアが急に降ってきたりっていうこともあったりするんですよ」

青砥「そうだったんですね!」

効果を出しやすい「瞑想」のやり方とは

――先ほど呼吸を使うと瞑想しやすいというお話もありましたが、他にも瞑想の効果的なやり方はありますか?

椎名「一日一回、毎日やることをおすすめしています。なかでも一番いい時間帯は、その日一日をいい状態で過ごせることになる朝なのですが、難しい場合は夜、または自分のやりやすい時間帯を決めて習慣化させることが大事です。歯磨きのように決まった時間に習慣化してしまわないと、なかなか継続するのが難しいんですよ。でも瞑想は継続していかないと効果がでてこないので、まずは習慣化して継続することを目指してほしいです」

青砥「毎日同じ場所で時間を一定のリズムにしてルーティーン化するということは、脳にとってもすごく楽なんです。どこでいつやろうと考えるエネルギーが必要ないので、そのことに集中しやすくなってきます。

 そして継続することの価値は成長につながりますので、毎日10分と決めても10分できない日があっても良くて、そういう日はとりあえず1分だけでもやるとか。とにかくやることの習慣づくりが大事なんです。

 もうひとつは、いきなり瞑想だけの習慣がつきづらい場合、自分のやりたいことの延長線に設定するのもいいですね。例えばお風呂に浸かるのが好きな人は、お風呂に入ったらその時間を瞑想時間にしたりするのもよいと思います」

――毎日習慣化して継続することで効果を得られるようになる瞑想。次回はその効果や、メリットについてお話を伺います。

青砥瑞人さん
脳・神経科学者
DAncing Einstein代表

日本の高校を中退後、脳科学の面白さに興味を持ち、詳しく学ぶために単身渡米。米国の大学「UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)」で脳神経科学を学び、2012年に飛び級で卒業。帰国後、2014年に、最先端の脳神経科学を教育や人材育成などのヒトの成長を支援する分野へ応用する企業「DAncing Einstein」を設立。脳とAI、そして教育をかけあわせ、世界初の「NeuroEdTech」というジャンルを立ち上げ、これまでに多数の特許を取得している。著書に『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『HAPPY STRESS』(SBクリエイティブ)、『4 Focus』(KADOKAWA)などがある。https://www.da-einstein.com

 

椎名慶子さん
瞑想・ヨガ・
シータヒーリング ®️・ベビーサイン講師
ウタール ヨーガ・ヒーリングスクール主宰

NYにて全米ヨガアライアンスを取得後、アメリカ、日本、インドにて瞑想やヨーガ哲学、マントラなどを専門的に学び、ホットヨガスタジオLAVAの創業インストラクターとして数々の人気プログラムを開発。1000名を越えるヨガインストラクター教育を担う。現在は瞑想を主にしたウタール ヨーガ・ヒーリングスクールの主宰を務め、「一人ひとりがハッピーに生きること」をテーマに活動している。著書に『はじめての瞑想CDブック: 心が整い、日々生まれ変わる』(学研プラス)、『引き寄せ瞑想ヨガ』(日本文芸社)がある。
Uttal yoga & healing school