愛し合い、生涯を共にするパートナーとして誓い合いスタートした結婚生活。しかし日々の生活に追われる中、気がつけば夫婦の間に壁ができていることも。第2回は、双子が誕生してから夫婦間にズレを感じ、独学で夫婦について研究していったアツさんと妻のミキさんにインタビュー。夫婦関係改善のためにアツさんがしたこととは?
取材・文=吉田彰子
夫は妻を、妻は子どもを。夫婦で見ている方向にズレが生まれる時。
■アツさん(39)×ミキさん(39)
平日は会社員として働く傍ら、夫婦関係について学んだ知見をnoteやPodcastで発信しているアツさん。妻のミキさんとは今年で結婚10年目を迎え、二人の間には7歳の双子の長男と次男、3歳の三男がいる。持ち前の強い探究心から夫婦について調べ始めたのは、双子のお子さんが3歳になるころだったそう。
「僕と妻は双子が産まれてからずっと、小さな2つの命を生かすことだけに集中していました。それが3歳くらいになると少しずつ落ち着き、自分達の生活をようやく見られるように。その時、妻とはもう以前のような関係ではないことに気がついて……」(アツさん)
今まではスルーしていたような些細なことで喧嘩になり、何か発言すると「違うから!」と会話がスパンと切られてしまう。その頃ミキさんは体に触れられるのも嫌がるようになっていた。『妻は何を怒っているのだろう?』とアツさんは思い悩んだ。一方、妻のミキさんは──。
「正直、私は関係が悪くなっているとは、ちっとも思っていなかったんですよね。とにかく双子の育児に集中していて。ただ当時夫のことは、一緒にこの小さな双子をなんとか生かすための人、と思っていました。仕事でいう早番と遅番、みたいな(笑)」(ミキさん)
双子が産まれる前に、アツさんは転職をしていた。それにより収入が上がり家計は安定。ところが配属された部署には、月に1度の海外出張があった。
外で稼ぐことで家族を安定させたいと言う気持ちがあっても、アツさんが不在だと家庭内が不安定になる。経済面と精神面の間でどうやって家族を支えていけばいいのか、葛藤があったという。
妻の視点から見てようやく分かった「家族マネジメント」の視点。
人知れず夫婦関係に悩むアツさんと、双子の育児で精一杯のミキさん。同じ屋根の下に暮らしていても、伝えなければ分からないことは多い。アツさんは一人で思い悩み、ひとつの結論に辿り着いた。
「まずは自分が変わろう、と。この頃、家事をしてるとき『これだけやってんのに、なんで妻は認めてくれないんだ』って思う、不貞腐れたような気持ちがあったんですよね。でもそんなこと期待をするのは意味ないからやめようと思いました。
頼まれたからでも褒められたいからでもなく『俺はやりたいから(家事を)やっているんだ!』と自分に言い聞かせながらやるようにしました。そうしたら次第に習慣となって、やるのが当たり前と思えるようになりましたね」(アツさん)
その頃から二人の関係も回復していき、自然とセックスレスも解消。なぜ、ギスギスしていた夫婦関係が回復できたのか──。自分自身でもその理由が気になり、アツさんは夫婦の関係に関する文献を調べ始めた。
「『愛はなぜ終わるのか』(ヘレン・E・フィッシャー著)に始まり、たくさんの本を読みました。女性ホルモンと女性の体の変化についても、この時初めて知りましたね。排卵期以外は性欲を感じるテストステロンが分泌されないことを知り、妻と知識を共有して納得しました。
妻に『触らないで』と言われても、それは決して僕のことを嫌いだからではなく、ホルモンバランスの周期で今はその時じゃないんだなって思えたり。そうやって無駄に傷つくことがなくなっていきました。
もちろん、排卵期に必ずセックスできるのかと言ったらそういうわけではなく、精神的にお互い安心できる存在でないと体も預けられない。きちんと愛着関係を築けていないと受け入れてもらえない、ということも学びました。」(アツさん)
愛着関係をきちんと構築できたのが三男が産まれた後だった、と振り返る。
「三男が生まれるとき、育休を取って初めて双子と3人だけで一週間暮らしました。その時、ようやく妻と同じ視点に立てたと思えたんです。怒りたくないのに子供を叱って悲しくなったり、保育園に1時間も早く着いてしまったり……。
いつも妻が整えてくれていた世界の一部分だけを担当して、すっかりイクメン気取りだったってことに気がつきました」
否が応でも妻の立場を体験する。その経験によって、二人の絆は強固なものとなった。以降も、夫婦が円満でいるためのアイデアを実際に生活に取り入れていく。
「察して」「気づいて」は封印。伝えたいことはきちんと言葉にする。
「まず、週末は「夫婦会議」の時間を設けました。要は夫婦の飲み会。よっぽど疲れていなければ、休みの日に近所で美味しいつまみを買ってきて、お酒を飲みながら2〜3時間二人だけで話をするんです」(アツさん)
そこでの会話の中で、一翼を担っているアイテムがあるという。
「世帯経営ノートっていうのがあるんですけど、これに家事、子育て、仕事、お金、住まい、セックス、自由時間についてお互いがどう思っているかと書いておいて、夫婦会議の時間に読みながら話し合います。『そんなこと考えてたんだ!』という発見があり、家事の役割分担もこれを基に変えました。
あと、出会った時のことやプロポーズのエピソードも書くんですが、それを読むとキュンキュンしますね(笑)」(アツさん)
「『排水溝のヌメリとるのが好き』とか『洗濯物を分けて畳んでしまうのは気が狂いそうになる』とか、このノートで夫に関する意外な発見があったかも」(ミキさん)
同じ目線でものを見れるようになった時、お互いが「運命共同体」と思える存在に。
アツさんは夫婦関係についての話を週に二度Podcastで発信している。背中を押したのは、ミキさんからの一言だった。嬉々として「女性ホルモンが〜」「愛着が〜」と話すアツさんに「せっかくだからブログでも始めてみたら?」と提言したそう。
「夫がブログを始めたことで、彼の気持ちを間接的に目にすることが増えていきました。媒体を通して私への愛情を目にすることは、単純に嬉しかったかな。夫に対してイライラすることはもうなくなりましたね。なんだろう、半分自分みたいな感覚なのかも。運命共同体みたいな」(ミキさん)
アツさんのブログを見た男性から、夫婦関係についての相談も来るようになった。そこでは「『もう家族としか見れないからセックスしたくない』と妻から言われた」という話も多いそう。
「そのようなケースでは、妻を性の消費物と見ていることが多いような気がします。自分も経験があるからわかるんですけど、どこかで家族=お世話する人になっているんじゃないかな。
今僕たちの関係は、鉄砲が飛び交っているような戦場を、同じ目線で同じフィールドで戦っている戦友。妻とお互い背中を預けあって、お互いのスキルを補いながら前に進んでいく、家族であってチームみたいな感じなんです」(アツさん)
危機に直面したことで、夫婦のあり方を振り返り、学び、新たな関係性を築いていったアツさんご夫婦。このお話から、ハードな産後の壁を乗り越えるヒントを考えます。
・苦手な家事育児は「やりたくてやっている」と自分自身に言い聞かせてみる
・「夫婦会議」の時間を設けて、夫婦二人だけの対話の時間を持つ
・言葉で伝えにくい感情や要望は、書き出して交換ノートのように共有してる
・時には強制的に相手の立場を体験するなどし、相手の視点で物を見る
・産前産後の女性ホルモンの変化について、夫婦で知識を共有する