「夫婦生活」と「子育て」、密接に関係するこの二つの関係について、ふたりのスペシャリストに話を聞く対談企画の第3回。

 問題を抱えた夫婦には「子どもさえいなければ離婚している」という人も多いというが、子どもにとっても幸せな夫婦像とはどのようなものなのか。

 新刊『夫は、妻は、わかってない。 夫婦リカバリーの作法』が話題の夫婦カウンセラー安東秀海氏と現役保育士として執筆活動、NHK Eテレ『ハロー!ちびっこモンスター』に出演するなど活躍の場を広げるてぃ先生に語ってもうらう最終回。

 
安東秀海
心理カウンセラー

夫婦カウンセラー。妻とともに夫婦専門のカウンセリングオフィス「LifeDesignLabo」を主宰。東京渋谷のカウンセリングルームには不倫やセックスレス等様々な問題を抱える夫婦が日々訪れ、2023年7月現在サポートしてきた夫婦は2000組に上る。機能不全に陥った夫婦の関係性を読み解き、健全なパートナーシップ構築へと導くことを得意とする。心理カウンセラーとして10年以上臨床に携わってきた実績から多彩なアプローチ手法を持ち、心理療法(セラピー)や心理ワークにも精通する。1973年生まれ。

 
【大反響】『夫は、妻は、わかってない。』
安東秀海・著

長年夫婦で「夫婦カウンセリング」を行い、2000組の話を聞いてきた、LifeDesignLaboの安東秀海先生がその解決策を紹介していく。不倫、セックスレス、借金から「夫が嫌いになった」といった感情の課題まで。9つの代表的なカウンセリング事例とを紹介しながら、自分の人生との向き合い方を提示する、自分を大事にできる一冊。


大切だからこそ「子どものために別れない」はやめよう——夫婦カウンセラーからみた「子育て」

——では、少し見方を変えて「カウンセリングにくる夫婦仲に課題を抱えている夫、妻は、子どもをどんな存在に感じている」のでしょうか? よく「子どもさえいなければ別れている……」という言葉を耳にします。

安東先生:先ほど「「夫婦としてはうまくいっていない、でもお父さんまたはお母さんとしてはうまくやれている」というケースが非常に多い」とお話しましたが、本当にいろんなケースがありますし、夫婦関係の状態によっても随分違いがあると思っています。

 「子どもさえいなかったら別れている」というスタンスの人もいらっしゃるのは確かです。

 でも、その言葉は裏を返すと、お子さんを優先している大切に考えている、ということでもあります。子どもがいなければ……と思うぐらい悩んでいるわけですから、離婚を考えるくらい夫婦仲に問題があっても、子ども優先という立ち位置の方がやはり大多数なんだと思います。

——子どもがきっかけで夫婦関係が改善できるというケースはありますか?

安東先生:もちろんありますよ。何より子どもは「繋がり」になりますから。

 「もう無理かな」と思うような時に、背中を押してくれたり支えてくれる、そういう存在があるって夫婦関係の改善に限らず、頑張る時にはとても重要ですよね。事実、カウンセリングにお越しになるご夫婦で「離婚」を考えている方の多くは「お子さんのためにも」とおっしゃるんですよね。

——そうなんですね。先生はどうアドバイスされますか?

安東先生:だからこそ、なんですが「子どものために別れない」はやめましょうね、といつもお伝えしています。

 子どものため「関係改善の努力」をするのは良いことだと思います。でも、子どものために「別れない」は、気づかないうちに心の負荷が高くなりすぎる場合があります。

 頑張ったけど、それでもやっぱりムリな事もありますよね。そんな時には別れる選択もあって良いと思います。

 大切な存在であるからこそ、子どものために、と考えれば大変な苦労も背負えたりするのですが、「そのせいで」パパやママが笑顔じゃなくなって喜ぶ子どもはいないと思うんです。

まずは自分が幸せに。子どもに見せたい夫婦像

——難しい質問になりますが、どういう夫婦関係だったら、子どもにいい影響を与えることができると思われますか?

安東先生:長期的にはどんな夫婦像を見せてあげるか、ってとても大切だと思っています。そういった観点から言うと共同作業ができる関係であることでしょうか。

 育児に積極的なパパが増えて「お子さんとパパの時間」「お子さんとママの時間」というように、夫婦がそれぞれお子さんと過ごす時間が増えた家庭も多いように思います。子育ての負担を分担する、という意味でも、お子さんとの関わりがバランスよくできる、という点でもメリットが大きいと思いますが、子どもは両親から社会性や他者との関わり方を学ぶ側面もあります。

 共同作業が円滑であるためには、きちんと対話ができたり、お互いを理解できていたり、肯定的な関わり方が前提になりますから、そういうパパとママの姿に触れられることは良い影響があると思います。

——てぃ先生はどう思われますか?

てぃ先生:理想論ですけど、自分自身のことを大事にできることじゃないですかね。

 相手のことよりまず自分たちを幸せにしてあげられるパパさん、ママさんがいるご家庭では、やっぱり子どもも幸せそうにしています。

 安東先生のおっしゃった「共同作業」も大事だと思います。

 そのときに忘れないでほしいのは、共同作業が「我慢」のうえに成り立っていないか、自己犠牲みたいなものがベースになっていないか、ということです。

 やっぱり、どちらかが我慢している状況というのは、結果的に子どもにも良くないんじゃないかなと思うんです。

 特に子育てって、自分よりも子どもを優先しがちですから。

 
てぃ先生
現役保育士 / 顧問保育士 / インフルエンサー

現役の保育士でありながら、フォロワーが160万人を超えるインフルエンサーとして活躍。その超具体的な育児法は斬新なアイディアに溢れていて、世のママパパに圧倒的に支持されている。数多くのテレビにも出演し、「いま一番相談したい保育士」「カリスマ保育士」と紹介される。


安東先生:それは本当にそうですね。

 カウンセリングでは「お子さんにどんな自分を見せたいですか?」と聞くことがあります。パパさん、ママさん、どちらにもお聞きしますが、特にママさんに聞くことが多いのは、頑張っているママさんほど、自分のことは後回しになりやすいからです。

 頑張るのは良い、でも頑張りすぎは、ちょっと心配です。

——てぃ先生はそうしたお話を「シャンパンタワーの法則」としてお話されていますね。ピラミッド型にグラスが並んでいるシャンパンタワー。1番上からシャンパンを注いでいって、下のグラスまで流れていく――よくテレビドラマなどで観るアレです(笑)。

てぃ先生:はい。

 1番上のグラスが満たされて、それが溢れると、2段目、3段目が満たされていって、最後にはキラキラ光るシャンパンタワーになる……。僕がたとえてお話するのは、1番上に置いてあるグラスを自分に、2段目に置いてあるグラスをパートナーや子どもに見立てています。

 家庭の幸せを考えて自分よりも他者を優先してしまう人は、1番上に置いてある自分のグラスではなくて、2段目、3段目のグラスから「シャンパンという、いわゆる幸せのボトル」を注いでいくんですね。

 最初はそれでもいいんです。自分自身も余力があるし、家族のグラスは満たされていて幸せそうに見えますから。

 そうして、家族のために、子どものために、ということばかり考えて、2段目、3段目に注ぎ続けていると、ある日突然、自分のグラスが1ミリも満たされてないことに気づきます。

 この気づいた後が大変で、自分自身は空っぽなのに、周りは幸せそうにしている——と、不満を覚えてしまうわけです。

 最悪のパターンは、子どものために●●を辞めた、□□を諦めたとか、パートナーのためにこうすることにしたとか……それまで感じていたこととまったく逆のベクトルを向いてしまうことです。

 今まで「誰かのために」と思っていたことが、ふと自分に何もないと気づいた瞬間に、全部がひっくり返って、「子どものせいで」「パートナーのせいで」自分は何もできなかった、あれができなくなったという思考に変わってしまう。そうなると一気に「崩壊」してしまう……。

 ですから、シャンパンタワーと同じように、まずは1番上から注いでいって、自分自身が幸せになって、そこから溢れたものを他者にも……という気持ちを持っていた方が、最終的にはいい形になると思います。

安東先生:まず、自分が幸せに。同感です。

 子育ての中心を担うママさん、あるいはパパさんは、無意識に当たり前のように我慢をしてしまいます。

 でも、お子さんはその我慢も見てしまうんですよね。すると、お子さんも我慢しちゃう。

 子どもは大好きなパパやママの真似をします。だとしたら、我慢する姿より、楽しむ姿を見せたいですよね。

無意識の我慢をやめるには

——とてもいいお話ですが、そうしようと思っていても、続かないことはあると思います。つまり、我慢をしてしまう。この方法を長く実践していくためにはどうすればよいでしょうか?

安東先生:「いい話を聞いた」と思っても、それを実践するのは別の話だったりしますよね。カウンセリングなら、セッションが終わって部屋を出た後は、いつもの思考に戻っている……なんてよくあることです。

 だからこそ、思考が戻らないうちに、今の感覚とセットで覚えておくことが大切です

 具体的にできることは、今どういう感覚を持ったのか――例えば「和んだ」なのか、「ホッとした」なのか、「背筋が伸びました」なのか……、人によってそれは違いますが「体感覚」を大事に、覚えておくことです。

 そうすることで今日の気づきを再現しやすくなるのではないかと思います。

——なるほど。ポジティブな感情を持った瞬間を感覚的に記憶するようなイメージですね。

安東先生:加えて、どうやって自分を大切にするのか、具体的な実践方法を考えることが必要ですが、実際はどうしても子どもたちを優先してしまうんです。

 ですから、1日に1回、それも5分でも3分でもいいので、自分のための時間を取るようにしておく。その時間を具体的にスケジュール帳に書く。

 そういうある意味、強制的な行動が大事です。

てぃ先生:それは本当に思います。

 ダイエットって意識だけでは変わらないですよね。「ダイエットを頑張ろう」「やろう」と決めた時点で、痩せるわけではない。

 なにか原因があって太ってしまったわけですから、原因を見つけて、解消していく行動が必要になります。たとえば、帰り道にコンビニで買いすぎてしまうのであれば、コンビニを通らない「帰り道」で帰る。

 それと同じで、夫婦や子育てにイライラしても、「イライラしないようにしよう」としても解決するものではないはずです。

 もちろん意識すること自体はすごく大事なのですが、その意識をどう行動に結びつけるかがむしろ重要だと思います

——確かに、そうですね。

てぃ先生:安東先生の「夫は、妻は、わかってない。」は、その意識だけではなくて行動まで具体的に変えていくアプローチをすごくよく紐解いていて納得感がありました。

 単純にこうしましょう、こういう方法がいいよ、というだけではなくて、なぜそうなってしまったのか、という原因の部分を丁寧にヒアリングしていることが伝わりました。

 そのヒアリングをとおして、相談者の方が自発的に「あ、こういうところが原因だったのか」と気づいていけるから、夫婦関係が前進していくんだな、と思ったんです。

——原因を自分で見つける。

てぃ先生:はい。だから、意識をどう行動に変えるか、という部分をつきつめていくことで、自ずといい方向に向かいやすくなるのだと思います。

 つまり、自分を大事にする、ということも、自分の頭を撫でるだけでは足りないわけで、具体的に行動を入れる。パパや子どもに内緒で、おいしいチョコレートを食べてもいいし、そういう自分でできる行動に移すことが大事かな、と思います。

【前回、前々回の対談を読む】

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載

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