結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、夫のW不倫のフラッシュバックに悩んでいるというご相談。すでに話し合いで決着をつけ、夫婦の関係も割り切っているように見えますが……
スイエンさん(仮名)からのご相談
30代女、既婚、子ども2人。一年前に、夫が職場の20代既婚、子持ち女性とW不倫をしていたことが発覚しました。
相手の家庭とは話し合いで決着がついています。職場にも報告してもらい、勤務地が変わっています。
私も夫と同職のため、まだ職場でフラッシュバックが起こることがあります。最近は2人が愛し合っている場面を夢に見たりもします。
ただ、毎回夢に見るたびに夫に伝えたところでどうにもならない(気持ちも晴れず、夫が暗い顔になるだけ)ので、もう伝えなくなりました。先日から夫が作った料理が喉を通らなくなり、いよいよ限界かと思いこちらに投稿させていただきました。
夫は今回のことを反省していると言っており、GPSをスマホに入れて飲み会には参加せず車での移動もしないように気をつけている様です。
また、今まではお互いの給与は別々に管理しており、子どもにかかるお金が増える中「お金はないよ」の一点張りだったのが、今は毎月食費代としてお金も振り込んでくれています。私が頼み事をすると今までは「無理」の一言でしたが優先的にやってくれてもいます。
そんな中での今回の症状に私自身も困惑しています。
不倫が発覚するまでに夫からモラハラ的な言動も多く浴びせられてきたので、もう夫のことは男性として見ることができなくなってきていました。
愛も情も感じられず、ただ子ども達が独り立ちするまでの協力者としていれたらと考えていたのですが。どうしたら良いのでしょうか。
(妻・スイエン、夫・中さん)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
「傷つき」のサインが今になって表れてきた意味は?
夫が職場の同僚と不倫関係にあったという、スイエンさん。既に相手女性との関係は終わり、話し合いもついているということですが、ここに至るまでにはどれほど苦しい時間であったでしょう。
夫も反省し、行動にも変化が見られるなど、ようやく平和な日常が戻ってくる、そんな期待もあった中での出来事ですから、戸惑ってしまうのもムリはありません。
でも、スイエンさんの心に目を向けてみると、今ここで表れ始めた「症状」にも、ちゃんと意味があるのかもしれません。
不貞を働いた夫を「気持ち悪い」と感じてしまう
不貞発覚後、夫とスキンシップをとれなくなってしまった、という声をよく聞きます。ひどいことをされて許すことができない、というのはもちろんですが、「生理的にムリ」と嫌悪感が出てしまうケースも少なくありません。
夫を「気持ち悪い」なんて、とショックを感じる方もありますが、心の働きから見れば、至って自然な反応ともいえます。
以前のご相談でも触れていますが、嫌悪感というのは傷ついた心を守る免疫システムのような感情です。不倫のように傷つく出来事を経験すると、また同様に傷つくことを避けるため、心は嫌悪感を使って、傷つく恐れのあることから、私たちを遠ざけようとするのです。
彼が作った料理が喉を通らない、というのも、もしかするとスイエンさんの心が、無意識に彼を避けようとしているのかもしれません。もしそうなのであれば、今もまだスイエンさんの心はそれほどまでに「傷ついている」ということなのではないでしょうか?
また、冒頭でもお伝えしましたが、なぜこのタイミングなのか? にも意味があるように思います。
不倫発覚後の時系列が定かではありませんが、スイエンさんはこれまで、お子さんたちの平穏な日常を取り戻すため必死に闘ってきたのではないかと思うのですが、どうでしょう?
夫の「不倫」という非常事態
不倫のように精神的に大きなショックを感じる出来事に直面すると、心は非常事態モードに切り替わることがあります。
そこでは「案外、平気かも」と思えるほど冷静であったり、テキパキといつも以上に日々のルーティンを回すことができたり、まるで傷ついていないかのような感覚になることもあるかもしれませんが、もちろん、そんなことはありません。傷ついていないように思えるのは、問題と向き合うために心が痛みを感じにくくなっているからで、それもまた心を守るための無意識の戦略といえます。
彼の不倫発覚以降、職場で家庭で、守るべきもののために闘ってきたスイエンさんも、そんな心理状態にあったのではないかと思うのです。そして今、ようやく問題にひと区切りがついて、待ち望んだ日常が戻ってきた。そんな安堵とともに、これまで見ないようにしてきた心の痛みがやってきたのかもしれません。
ネガティブな感情が担う働き
嫌悪や怒り、不安、恐れなど、ネガティブと言われる感情の多くは「傷つき」から私たちを守る、心の免疫システムのような働きをしています。
例えば「怒り」は傷つける相手を遠ざける感情で、「不安」はより安全な未来を選択するために必要な感情です。また「恐れ」は傷つく可能性のある行動にブレーキをかけ、「心配」は良くないことが起こらないよう慎重深く、「嫌悪」は有害なものを遠ざけるように作用します。
不倫の発覚後、不安や心配から夫の(妻の)行動を管理したくなるのも、過去を掘り返して怒りをぶつけてしまうのも、「傷つくこと」から心を守る感情の働きと言えます。
いっぽう、どんなにネガティブな感情に大切な役割があったとしても、それを感じている渦中は苦しいものです。また、感情にまかせて、批判的な言葉をぶつけてしまうのは夫婦関係そのものを傷つけてしまう恐れもあります。
「感情」はとても強く大きな影響力も持っていて、傷つくことから私たちを守ってくれると同時に、取り扱いを間違えてしまうと、夫婦の関係はもちろん、結果として自分自身をも傷つけてしまう側面も併せ持っています。
繰り返しになりますが、不倫をした夫に「嫌悪感」を持つのは至って自然な感情です。ただ、彼の作ったものが食べられないほどにまで、それが広がってしまうのは少し心配です。食べられないこと自体辛いことですし、彼から見ても何が起こっているのか不安になってしまうかも知れません。
それでも、ここではまず、食べられないことも嫌悪感を感じることも、決して悪いことではないと認識しておくことが大切です。
身体の声は閉じ込めた心の声
ポジティブな感情もネガティブな感情も、「感じないように」と否認すればするほど、かえって大きく強くなりやすいものです。また、切り離したりフタをしたりして感じられなかった感情は、様々な身体症状となって表出するケースもあります。
「夫の料理が喉を通らない」のも、緊急事態にやむを得ず遠ざけていた感情が、時間をおいて大きく強く膨らんだ結果、「嫌悪」の症状として返ってきたもの、とも考えられます。もしそうであるとしたら「食べられない」ことを良くないものと考えるより、これまでフタをしてきた心の声がようやく聞こえてきた、と受け止めてみることが事態を改善してくれるかもしれません。
もし、これまでスイエンさんが心にしまい込んできた気持ちがあったのだとしたら、それはどんな感情で、どんな言葉なのでしょうか?
感情は感じることで、言葉は声に出したりノートに書き出したりしてみることで、少しずつ消化され、軽くなっていくものです。料理が喉を通らない時には「食べたくない」と、それが苦しい時には「しんどい」と。そして、心の奥深くに潜んでいた声が聞こえてきたら、その声もきちんと彼に伝えてみてはどうでしょう?
今はよくやってくれている夫に、それはどこか申し訳ないように感じたり、やっぱり向き合ってもらえないのではないかと不安になるようなら、まずはスイエンさん自身が、その声に耳を傾けてみるだけでも大丈夫です。
そして、「こんなになるまで、闘ってきたんだね」「苦しいのによく頑張ったね」そんな風に言葉をかけてあげると、胸のつかえも少し軽くなるかもしれません。
過去の出来事に力を持たせない
心にわだかまっている感情は、誰かに聞いてもらったり理解をしてもらうことで緩み、ほどけてやがて消化していきます。それが夫や(妻や)信頼できる他者であるに越したことはありませんが、たとえ自分自身であっても一定の効果はあります。
こうして自分の気持ちに寄り添いながら、心の回復をはかることが大切ですが、最後にもうひとつ、不意にやってくるフラッシュバックへの対策についても触れておきたいと思います。
フラッシュバックは、ふとした時に嫌な記憶が思い起こされ、それを体験した当初の気持ちや感覚が、当時のままに、あるいはそれ以上に増幅されて蘇ってくることを言います。動悸やパニックなどの身体症状が伴うことも多いため、繰り返すと心身ともに疲弊してしまいます。「記憶さえなくなれば」と叶わない願いを抱いてしまうため、どうすることもできず途方に暮れてしまうこともあるかもしれません。でも、ここで大事なことはどんなに辛いことも、それは「今起こっていることではない」と繰り返し認識しなおしていくことです。
過去の出来事を記憶から消し去ることはできません。それでも「過去は過去でしかなく、決して今の自分に手を出すことはできない」。そのことを強く心に留めておいて、過ぎた出来事に、未来を変えるほどの大きな力を持たせないことが大切です。
辛い出来事を乗り越えてきたからこそ、平穏を取り戻しつつある今があって、この先は、めいっぱい幸せになるための未来が待っています。もちろん、夫婦関係の修復には、まだまだ取り組まなければならないこともあるでしょう。でも、それはもう少し先に考えるとして、今は心の回復をはかることが優先なのではないかと思っています。
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