結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。

 さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。

 夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。

 今回は、かつて不倫をしていた夫とのセックスレスに悩まされている、というご相談。改善したくても、夫は問題を直視することを避けているようで……

(写真:PonyWang / iStock / Getty Images Plus)

まゆみさん(仮名)からのご相談

 結婚9年目、40歳既婚・女性です。小学生の子が2人います。

 数か月前に、4歳年下の夫から不倫していたことを謝罪されました。(同時に夫自ら関係を断ってきました)

 その後、私がことあるごとに責めすぎたためか、次第に夫がセックスの途中でうまく反応できなくなるようになり、2カ月半を過ぎた頃から夫から性的な接触を避けるようになりました。一緒に寝たり入浴したりマッサージしたり、手を繋いだりするのは問題ないのですが、今はキス以上の行為が嫌なようです。月1回程度で1人では処理しているようですが、他の女とはしていないと思います。

 私自身、性欲はあるので夫としたい気持ちはありますが、それと同時に他の女を抱いた夫への嫌悪感と悲しみも湧き、例え求められたとしてもしんどくなりそうな気もします。

 私は、セックスへの嫌悪感はセックスを重ねることで忘れたい。でもセックスが嫌悪感も呼び起こす、というような気持ちです。

 夫は家事や育児を積極的に手伝うようにはなりましたが、夫婦カウンセリングへの誘いなどは乗り気ではありません。「いつまでも過去を振り返るな」という感じです。不倫の件にもう触れたくないような。

 セックスレスに関しても、自分の勃ちが悪いことを責められるような気分になるようです。ハードルが高い、やプレッシャー、という発言もあります。

 夫は、夫婦としてこれからもやっていくことには前向きでも、不倫やレスを直視して改善策を考えていくことには協力的ではない感じなのですが、どうしていったらいいのでしょうか。

 私はこのまま夫と体の繋がりがないのは寂しいです。わだかまりなく幸せに繋がれるようになりたいのです。

(妻・まゆみ、夫・裕)

※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。

今の状況を変えたい、自分自身ができることは

 結婚9年目、8ヶ月前に夫から不倫を打ち明けられたというまゆみさん。自ら過ちを打ち明ける夫にどんな思いを抱いたのか、ご相談には記載がありませんが、どれほどショックであったでしょうか。加えてセックスレスという新たな問題も抱え、苦しい日々を送られていることと思います。

 まずは、問題となっていることを見返しながら、絡み合ったもつれを解くところから考えていきたいと思います。

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終わった問題と終わらない問題

 不倫の関係が終わっても、夫婦間に生じた問題が解決したわけではありません。揺らいだ信頼はすぐに回復するわけはなく、時間をかけて少しずつ積み上げていく必要があります。

 ところが、不倫をした側は不適切な関係を清算したことで問題は解決した、と考えやすいものです。罪悪感故に、「早く終わりにしたい」という切実な思いがその考えを後押しするのかもしれません。また、過去は変えられないのだから前を向こう、という過ぎたポジティブ思考が作用している場合もあるでしょう。

 いずれのケースでも開き直っているかのように見える言動の背景には、「もう終わったこと」という認識があるのかもしれません。

 いっぽう不倫をされた側にも、早く問題を終わらせて先に進まなければ、という心理が働く場合があります。「責めてばかりいてもしょうがない」「はやく日常に戻りたい」そんな思いが生まれるのは自然なことですが、「もう大丈夫」と考える時ほど慎重になる必要があります。なぜなら、傷ついた心の回復には多くの時間が必要で、表面的には癒えたように見える心も、奥深いところではまだまだ傷ついている可能性があるからです。

 「セックスへの嫌悪感はセックスを重ねることで忘れたい。でもセックスが嫌悪感も呼び起こす」

 まゆみさんの抱えている気持ちは、複雑で矛盾しているように見えますが、心の動きからみれば何も不思議なことはありません。近づきたい、でも近づきたくない。受け入れたい、でも受け入れるのは怖い。許したい、やっぱり許せない。そんな相反する感情の間を行き来してしまうのもまた、この問題の難しいところです。

 不倫の関係は終わっても、心の傷が癒えるには時間がかかり、傷ついた心は何度も揺れ動きます。

 それは時に、関係修復と逆行するように見えたり、終わったことを蒸し返しているように感じられたりするかもしれません。しかし、だからこそ、ここではまず傷ついた心のケアが重要です。

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相手を責めるのは悪いことではない

 傷ついた心の回復といっても、そのプロセスは人によって異なり、また直線的に進むものでもありません。時に後戻りしたり、停滞したりしながら、徐々に進んでいくものです。

 いただいたご相談からまゆみさんの心の動きを辿ると、当然ではありますが、初めに「怒り」があったようです。

 「怒り」というとネガティブな印象を覚えるかも知れませんが、心の回復プロセスにおいてはとても重要な役割を果たします。

 例えば、嫌なことをされた時に感じる怒りは、「自分はこんな扱いを受けるべき存在ではない」すなわち「自分は大切な存在だ」という自己価値の表れともいえます。それは夫の不倫を前に「これは私の問題ではない」と境界線を引き、自己肯定感を保つ上で重要です。そういった意味で、ひどく傷ついてしまった時に、相手を責めることは悪いことではないと思うのです。

 いっぽう、まゆみさん自身「彼を責めすぎたせいか」と振り返っている通り、強すぎる怒りは相手を傷つけ、それによって自分自身を傷つける場合があります。

 怒りは自分を守る上で大切ですが、それと同時に夫婦関係を傷つける恐れがあります。そこで、怒りを怒りのままにしておくのではなく、その次の感情へとプロセスを進めていくことが大切です。

(写真:mapo / iStock / Getty Images Plus)

怒りに隠れた感情を見つけ、感じ直す

 まゆみさんが裕さんを責め過ぎてしまったのだとしたら、その背景には処理しきれない様々な感情が潜んでいたのかもしれません。

 カウンセリングでは、怒りは「感情のフタ」というお話をすることがあります。それは、怒りが他の感情、特に弱いと感じられる感情を隠すために使われることがあるからなのですが、もしそうであったとして、まゆみさんが感じていた裕さんへの怒りの下には、どんな感情が隠れていたのでしょう。

 大切なものを失ってしまうかもしれない悲しみや、これからどうなってしまうのかという不安、「自分にはどうすることもできない」無力感もあったでしょうか。そんな、心の奥に取り残された感情は、癒されない痛みと共にあって、心の回復を停滞させます。

 心が疲れたり、傷ついて柔軟性を失くした状態では相手にも自分にも優しくすることが難しくなります。

 夫婦関係の修復に感情の回復が重要なのは、感情は感じ直すことで解け、心の痛みと共に消化されるからです。痛みが小さくなれば気持ちにゆとりが生まれ、冷静に気持ちを伝えることも、相手の話を聞くことも、やさしく接することもしやすくなります。

「期待外れ」は責められるよりツラい

 怒りがその強いエネルギーを使って傷つける相手を遠ざけるのに対して、嫌悪は不快感を使って私たちを嫌なもの、危険なものから遠ざけます。

 夫とのセックスに嫌悪感が生じるとしたら、そんな「心の免疫システム」が働いているのかもしれません。

 「セックスへの嫌悪感はセックスを重ねることで……」というのはとても覚悟の必要な取り組みです。それは、罪悪感に押しつぶされそうになっていた裕さんにとってどれだけありがたかったことでしょう。間違いなく、夫婦関係の修復に大きく貢献したはずです。

 ただ、そのいっぽうで、まゆみさんの心理的負担は相当大きかったはずですし、その隣で裕さんもまた、決して小さくないプレッシャーを感じていたのかもしれません。

 自業自得に思えるかもしれませんが、不倫をした側も心の中は嵐が吹き荒れるように混乱しているものです。「悪いことをした」という罪悪感、「期待に応えなければ」というプレッシャー、「今回はうまくできるだろうか?」という不安、そんな気持ちが重なって、心が疲弊してしまっているのかもしれません。

 また、どうすればうまくできるのか? こんなはずじゃないのに、と考え過ぎてしまうのも、心と身体のバランスを損なう要因になっているのかもしれません。心理的EDの原因は様々ですが、精神的なプレッシャーが作用していることは十分に考えられます。

 不倫を責められるのはもちろん辛いことですが、期待通りにできないこともまた辛いことです。

 ただ、いずれのケースも問題の責任者は裕さんであってまゆみさんではありません。キスやハグ、セクシャルなスキンシップも大丈夫そうなら、ここは「一歩下がって見守る」そんな姿勢が大切かもしれません。

(写真:yamasan / iStock / Getty Images Plus)

相手の責任を背負うことはできない

 何とかしたい問題に直面している時に、ただ見守るというのはなかなかできないことです。

 「どうすれば夫は(妻は)変わってくれるでしょうか?」カウンセリングでよくある相談のひとつです。

 ただ、相手は変えられない、と言われる通り、他者から促されることに人は誰でも反発しやすいものです。故に「変わって欲しい」と願うなら、強く行動を迫るのは逆効果、却って頑なな態度を引き出してしまいかねません。

 「変わって欲しい」と感じる時ほど、ただ気持ちを伝えるくらいがちょうどよい、効果的なアプローチと言えます。

 それではとても動いてくれなさそう、と思うかもしれませんが、感じていること、望むことをきちんと落ち着いて話すことができたなら、あとは相手の選択です。

 もし、まゆみさんが今の状況を変えたいと願っていて、そのために夫婦での対話や、カウンセリングを望むとしたら、そのことを伝えるところまでがまゆみさんの責任、それを受けてどうするかは、裕さんの選択であり責任です。そしてまた、裕さんの選択を受けて、次にどうするのかは、まゆみさんの選択です。

 セックスに関する問題はとてもナイーブで、当事者自身が取り組む気持ちがなければ専門家のサポートも届きません。少し厳しく聞こえてしまうかもしれませんが、まゆみさんは彼の選択の責任を負うことはできませんし、またその必要もないと思うのです。

夫の準備が整うまでにできることは?

 夫婦関係を改善するつもりはあるけれど、問題となっていることに向き合う準備がない。そんな相手を前にできることはあるのでしょうか?

 直接的に相手を変えることはできなくても、妻であるまゆみさんには大きな影響力があって、その言葉や行動は、気づかないうちに相手の心を動かすものです。

 「できることは何もないの?」と感じるような時にはただ、自分の気持ちや考えを穏やかに伝え続けておくことが大切です。

  • 夫婦の関係を改善したいと願っていること
  • これからも一緒にいたいと考えていること
  • 心だけでなく、身体の繋がりも必要なこと

 感情的にならないよう気をつけながら、感じている気持ちも併せて、まゆみさんの視点から話しておきましょう。

 もちろん、タイミングによっては伝わらないことも、響かないこともあるでしょう。それでもいつか伝わると信じて待つことが大切です。

 ただ、待つというのはとてももどかしく、不安なことでもありますから、同時にまゆみさんはぜひ、まゆみさん自身の時間を大切に欲しいと思っています。

 大切にしたい自分の時間と言うのは、

  • 友だちとの時間
  • 身体を労わる時間
  • 美味しいものをいただく時間
  • 学びの時間

など、自分にエネルギーを注いでいるな、と感じられる時間です。それは、自分を優先する、自分を大切にする、ということでもあります。

評価すべきは「私」自身

 まゆみさんにとって、彼とのセックスは愛情を確認しあう行為であるとともに、不安な気持ちを遠ざけるものだったのかもしれません。だからこそ、もしこのまま身体のつながりが戻らなれば、また彼は他の女性を求めてしまうのではないか、と不安に胸が押し潰されそうになる時もあるのではないでしょうか。

 ここまでの経緯を見れば、そんな気持ちになってしまうのもムリはありません。それでも、ここは裕さんが自分から不適切な関係を告白してでも戻ってきたことを評価して欲しいと思うのです。

 評価するのはもちろん、戻ってきた彼ではなく、夫が戻ろうと考える「私」であった、ということを、です。

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