結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、妻から別居を望まれているとご相談があった方からの再相談です。夫は関係修復を願っていたものの、妻側の離婚の意思は固く……

京介さん(仮名)からのご相談
以前もこちらに投稿して、回答を頂きました。あれから、現在は離婚調停中です。妻は離婚の意思が固く、僕は修復したいのですが、おそらく不成立で調停は終わります。
妻が僕に対して嫌なところ、不満なところは、自分が一番だと思っているところ、喧嘩しても長引かせるところだそうです。それを改善してもやはり離婚の意思は固く、養育費は●万円でいいから今すぐ離婚して欲しいと調停の中で言われました。
これは非常にショックでした。それほどまでに離婚したいのかと……。併せて婚姻費用調停も申し立てられました。
妻は自分にも悪いところがあったと言っているそうですが、調停が終わるまで娘には会わせないと言われました。これは許せないと思い、僕も面会交流調停を申し立てました。
何だかとても疲れてしまい、離婚の事を想像した時に楽になった自分がいました。次回最後の調停になりますが、離婚を受け入れた方がいいのでしょうか。もちろん家族そろって再度同居出来たら、夢のような話です。アドバイスをよろしくお願いします。
(夫・京介、妻・かほり)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
▼前回のご相談
心が離れてしまった分岐点は? この先できることは……
育休中のストレスから口論になり別居、離婚、と気持ちのすれ違いを重ねてきた京介さんと妻のかほりさん。前回のご相談では、かほりさんが抱えてきた「わだかまり」を理解すること、そして彼女の気持ちを受け入れる姿勢を持ってみることについてお話をしました。今回、あらためてご相談をいただき、状況はさらに厳しくなっているようです。
離婚調停では、修復を願う自身の気持ちと、それを打ち砕くように離婚への固い意志を見せるかほりさんとの狭間で葛藤されていることでしょう。
次回に迫る最終調停に向けて、どのように考えていくべきか? 今回はより具体的なアドバイスをさせていただきたいと思います。

経緯のおさらい
かほりさんは、京介さんの「自分が一番だと思っているところ」や「喧嘩を長引かせるところ」に、長年不満を募らせてきた、とのことです。
もちろんそれが現時点での気持ちではあるのですが、そうであるからといって、結婚生活を通してずっとそんな風に感じていたわけではないと思うのです。
今、目の前にある現実だけを見ると、何がふたりの関係をここまで傷つけてしまったのかが分かりづらくなってしまいますが、ここに至るまでの経緯を見返してみると、かほりさんの気持ちが離れていく分岐点が何度かあったようです。
何が心を離していったのか? その分岐点を探ることは、相手を理解し、これからの関わり方を見出す上で有効なアプローチになる可能性があります。
ここではまず、京介さんとかほりさんの関係が辿ってきた経緯を、前回いただいたご相談内容と併せて再度整理をしてみます。
▼前回のご相談
まず、かほりさんの心が離れ始めたのは、口論から京介さんが家出をしたことがきっかけでした。ただ、家出そのものよりも、関係修復を試みるかほりさんに、「そのつもりはない」と否定的な反応を返してしまったことが大きかったようです。今思えば、ここがひとつめの分岐点だったのでしょう。
こうして始まった別居生活ですが、開始直後は、娘さんの動画をシェアするなどかほりさんにも良好な関係を保とうとする行動が見受けられます。また、別居婚の提案にも、離婚を切り出す京介さんに「ゆっくり進めたい」と話していることからも、家族としての形を守ろうとする意思が見えます。
その後、離婚を回避したいと思い直した京介さんと、離婚調停を申し立てるかほりさんとにふたりの立ち位置は大きく変わるのですが、ここが二つ目の大きな分岐点だったのだろうと思うのです。

分岐点から見えてくるもの
私たちの人生には様々な分岐点があります。「あの時こうしておけば……」と、うまくいかない現状の後悔とともに思い起こすことが多い分岐点ですが、あの時、あの時点でその道を選んだことにもちゃんと理由があって、そこには悩み葛藤していた自分がいます。
分岐点を見つめ直すことは当時の自分を理解することに繋がりますが、夫婦の関係においては「何がふたりの関係を傷つけてしまったのか?」を理解し、関係改善のための対策を考えることに役立ちます。
かほりさんの心が離れていった経緯を振り返ると、大きな分岐点が2つありました。ひとつめは京介さんの家出、ふたつめは別居婚提案後の方向性の相違です。
このふたつの出来事においてかほりさんは「育休開けたら状況は変わるからまた協力し合ってやっていきたい」「(京介さんの離婚提案に)ゆっくりすすめていきたい」と、家族の形を守ろうとしているように見えます。
もちろん、京介さんの視点に立てば、家出にも、離婚の提案の背景には、大きな傷つきと葛藤がありました。ただ、このふたつの出来事について、娘さんのことを第一に考えているかどうかの違いが、京介さんとかほりさんとの間に見られるように思います。

かほりさんの視点から見える景色
産後に衝突が増えるのは珍しいことではありません。睡眠も十分に取れない、自分を労わる余裕もない、そんな日々の中では、お互い些細なことでイライラすることもあるものです。時間が経って少し冷静になれば、積み重なるストレスに口論や喧嘩が増えるのは仕方のないことと、落ち着いて考えることもできるかもしれません。
ただ、喧嘩から家を出て数日戻らない彼に、かほりさんはどのような思いを抱いたのでしょうか。また、それでも精一杯前向きに「また協力してやっていこう」と送ったメッセージに否定的な反応が返ってきたときには、どんな気持ちになったのでしょう。
喧嘩や口論は仕方ないとしても、家出や仲直りの姿勢が見られないことに、心が折れてしまったのではないでしょうか。
2週間の別居から別居婚へと気持ちがシフトしたのは、離れてしまった彼への心と、それでも娘のために家族の形を守りたいという思いとの葛藤から導かれた提案だったのかもしれません。また、時間が経てばまた違った見方ができるかもしれない、そんな期待もあったのではないでしょうか。
夫婦としての気持ちがどんなに離れても、子どものためにできるだけ離婚は避けたい。
もしかするとかほりさんは、こんな風に考えてきたのかもしれません。そうだとすれば、京介さんの行動を自分本位だと感じたのかもしれませんし、子どものことを本当に考えてくれているのか心配な気持ちも生まれたことでしょう。
「あなたは自分がいちばん」というかほりさんの言葉からは、京介さんへの不信感がうかがえるように思うのです。
これからのために今できることを
離れた心を取り戻すのは容易なことではなく、以前のような関係に戻ることは、もうないのかもしれません。また、最終調停を前にできることは多くはありません。
ここまで、京介さんにとっては厳しいことばかりお伝えしていますが、ここに至るまでにはもちろん、京介さんにも言いたいこと、分かって欲しかったこともあるはずです。理不尽に感じることや、誤解されていることもあるのかもしれません。
それでもここは、これからのためにかほりさんの言葉と気持ちを受け止めること、そして今できることにフォーカスをすることが重要です。
「あなたは自分のことがいちばん」
まずはこの言葉を受け止めて、娘さんの健全な成長を最優先に考えながら、かほりさんと協力していく姿勢を示すことが大切なのではないでしょうか。
具体的には、養育費や面会交流について「自分の気持ち」より「娘さんの気持ち」を第一に考えること、また母親であるかほりさんの考えを尊重してそれをサポートする側に回ること、長期的な視野を持ってバックアップ体制を整えること、等が挙げられます。
特に「娘さんの気持ち」を優先することは、かほりさんにとってもっとも重要な要素である可能性が高く、実践できれば信頼の回復に繋がるはずです。逆を言えば、この点に関して更に自分本位と映るような事象が重なれば、信頼の回復は困難になってしまう恐れがあります。

相手を尊重するために必要なこと
娘さんの気持ちを第一に考える、というのは簡単なようでいてとても難しいことかもしれません。
面会交流ひとつとってみても、普段会えないパパとの時間は楽しみであると同時に寂しさと隣り合わせでもあります。約束をした日に会いたくない、ということも、十分起こり得ます。そんな時には京介さん自身も残念な気持ちになってしまうでしょう。それは至って自然な感情ではあるのですが、そんな時にこそ「自分の感情」ではなく、「娘さんの気持ち」に寄り添う姿勢が求められます。
相手を尊重することは時に痛みを伴う場合があって、そうであるからこそ、心の痛みに揺らがない意思が欠かせません。そうして自分の気持ちや要求を引っ込めて、相手のことを第一に考えることができたなら、その時はそんな自分への「承認」と「労い」も必要です。
変わる関係と変わらない関係
ここまで状況の整理と、心が離れてしまったかほりさんを理解することに軸を置いて考えてきました。
改めて大切なポイントを整理しておきます。
最終調停では、かほりさんの離婚の意思が固いことを受け止めつつ、娘さんのための最善の選択を模索する姿勢を示すことが重要です。またそれと同時に、京介さん自身の希望や考えを明確に伝えることも大切です。
特に面会交流については、小学生低学年頃までは娘さんの心情を理解しているかほりさんの意見を尊重すること、それ以降は娘さん自身の考えを一番に考えることを表明した上で、京介さん自身の希望も伝えておくのが良いでしょう。
また養育費については、あらかじめ算定表を調べておいて、もし、かほりさんからの提示額がガイドラインより低いようなら引き上げることも検討してみてください。養育費の相場は養育費・婚姻費用算定表から確認できます。
養育費・婚姻費用算定表
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/index.html
離婚を望む側と婚姻継続を望む側と、離婚調停では対立的な立ち位置に分かれてしまうのは仕方がないことかもしれません。けれどこの先、夫婦関係がどんな形に変わっても、京介さんとかほりさんが娘さんの両親であることに変わりはありません。
良好な関係を維持することは、今後協力して娘さんの成長を支えていく上で欠かすことはできず、そのためには、養育費や面会交流を交渉の材料にするのではなく、歩み寄りと理解を示す機会にできたら素晴らしいことだと思います。
そして、最も重要なことは、一度大きく離れてしまった心は手繰り寄せようとするほどに離れてしまうということです。そしてこれ以上、心が離れてしまうことは避けたいところです。
離婚調停も別居から今日に至るまでの道筋も、京介さんにとっては精神的な負荷が大きく、苦しい時間の連続だったはずです。いま、ここでは十分に休息を取って、支えになってくれる友人や家族に頼ることも必要です。
調停が終われば解決、ということでもないのがこのテーマですから、必要なら専門家のサポートを受けることも検討してください。
一人で抱えてしまうには大きすぎる問題だと認識しておくことも、大切なことです。
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