結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。

 さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。

 夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。

 今回は、夫が風俗へ通っていることに気付いたというご相談。やんわり聞いてみても話し合いにならず、夫と距離を置いてみたものの……

(写真:maruco / iStock / Getty Images Plus)

花さん(仮名)からのご相談

 結婚16年、女性です。夫が風俗通いをしています。

 そのことに気づいたのは、義母との難しい関係を乗り越え、会食をした後でした。

 休日出勤と偽り風俗へ行っている夫への不信感が募り、さらに、家族の幸せを想い、言葉のきつい義母に歩み寄っている私の努力を水に流された心境でした。

 

 1年くらい様子を見ていたのですが、状況が変わらないので、勇気を出して夫に話をしてみました。

 夫が不利になると逆上する恐れもあったので、「気のせいかも知れないけど、浮気してるんじゃないかと思ってる」とやんわり話を持ちかけました。

 しかし「浮気」という言い方も相応しくなかったのか、夫は「何か見たの? 何もしてないよ」と、いずれにしても認めようとはしませんでした。

 今までも建設的な話し合いに至ったことなど一度もなく、私の側の問題だと言われてきました。

 

 夫に誠意を尽くしても裏切られ、話し合いも成立しない二重苦です。

 それならば、裏切られても自分が傷付かない程度に夫や義母と接しようと決め、お正月も義母に会いに行きませんでした。以前は外出の時に夫を誘っていたのも、やめました。

 日常生活は今まで通りですが、夫を見ているだけで辛さや憎しみがこみ上げてきます。

 

 夫や義母と距離を置くことで、自分の心はいくらか平穏になりました。しかし夫からすれば、なぜ妻が以前のようでないのか思い至らず、孤独を深め、夫婦関係が悪化するのではないかと思ってしまいます。

 自分の心が傷んでいるけれど、それが適切に対処されず、今度は夫の心が傷む。負の連鎖です。

 

 自分の心が傷んでいることを夫に伝えたとしても、受け止められることはまず無いです。今私がするべきこと、しない方が良いこと、気づいていないこと……。それを知りたいのです。

 この先も、夫は風俗通いを続けると思います。夫が出かけると、また風俗に行くのではないかと思うようになってしまいました。そんな時、楽に家事や仕事に取り組むには、どんな気持ちの持ち方をしたら良いか、ヒントが欲しいです。

(妻・花、夫・実)

※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。

この先の「幸せ」を考えて、自分自身のことも大切に

 夫の風俗通いに心を痛めているという、花さん。

 ただ、問題となっているのはそれだけではないようです。

 義実家や姑を含む家族への献身と、話し合いに応じない夫への失望など、16年の結婚生活の中で積み重なったいくつもの問題とわだかまりが、「夫の風俗」を機に雪崩を打って押し寄せてきている、そんな印象を受けます。

 変わらない夫を前に「どうすれば楽に家事や仕事に取り組めるでしょうか?」という花さんですが、これからの人生について考える時には、「楽」であることはもちろん、「幸せ」であることも念頭に置いて欲しいと思うのです。

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載

楽になることと幸せであること

 苦しいことを遠ざけ、できるだけ快適に過ごしたいと考えるのは、人間として至って自然なことです。そして花さんが今、夫やお義母さんに気を遣うことより、自分自身が楽に暮らせることを選びたいと考えるのもまた、自然なことです。

 もちろん、これまで家族のことを優先的に考えてきた花さんですから、それが残念に感じられることも、申し訳ない気持ちになってしまうのも理解できます。

 それでもまずは、苦しいことからは逃れることが大切です。なぜなら、苦しい中では幸せな未来を思い描くことは難しいものですし、幸せな未来が思い描けなければ、今ある問題と向き合う力も生まれないと考えているからです。

 自身の平穏を望めば、彼の心は痛む。花さんはそれを「負の連鎖」と呼んでいますが、彼を傷つけないために花さんが傷つき、花さんが傷つくことでふたりの幸せな未来を思い描けなくなる、それこそ「負の連鎖」なのではないかと思うのです。

書籍『夫は、妻は、わかってない。 夫婦リカバリーの作法』好評発売中

苦しい状況から心を守る

 苦しい中では幸せな未来を思い描くことは難しく、幸せな未来を思い描くことができなければ、目の前の問題と向き合う気力も生まれません。だからこそ、苦しい時にはまず自分の心を守ることが大切で、そのためにはストレスになっている事象や人間関係から一旦距離を置くことも必要です。

 花さんの心が今、夫や義母との関わりを最小限に留めることで守られているなら、まずはそれをネガティブに評価するのではなく「よくできている」と捉えておくことが大切です。

 そして、心を守る枠組みができたら次は、疲れた心に栄養を届けるように「楽しいこと」「やりがいのあること」「気分よく過ごせること」を生活の中に取り入れて心の回復を図ります。

 ひとり時間での外出も効果的ですが、趣味や友人との時間を作ることも有効でしょう。スポーツ等、新しい楽しみや習い事を始めるのも良いと思います。

 ただ、ここでももし、夫に寂しい思いをさせて自分ばかりが……と、申し訳ない気持ちや、後ろめたさが出てくるようなら、一度立ち止まって、これからの夫婦のあり方を見直してみる必要があるのかもしれません。

(写真:Maki Nakamura / DigitalVision / Getty Images)

夫婦関係が人生の基盤ではない

 夫婦関係は人生における重要な要素のひとつではありますが、もちろんそれが人生の全てではありません。

 また、良好な夫婦の関係が人生を豊かにしてくれることに疑いはありませんが、だからといってうまくいかない夫婦関係が、人生を台無しにするわけでもありません。

 ところが時に私たちは、夫婦関係の痛みに囚われてしまうあまり、やりがいのある仕事や友人との交流、趣味を楽しむこと等、人生を彩る様々な要素に目を向けるゆとりさえ失くしてしまう場合があります。

 夫の風俗通いや義母との関係によって深く傷ついてしまった花さんにとっても、夫との関係がまるで人生の全てであるかのように映っているのかもしれません。

 繰り返しになりますが、苦しい時にはまずはその苦しみから逃れることを、苦しみが和らいだならその先に幸せな未来を、ひとつなぎの線上に据えておくことが大切です。

 花さんの人生は夫や家族のためにあるのではなく、花さん自身のためにこそあって、夫との関係を円満に保つために花さんが自身の大切なものを蔑ろにしていては意味がないと思うのです。

大切にするリストに自分を入れる

 自分にとって本当に大切なものは何か? そんな視点を持っておくことは誰にとっても重要なことですが、悩みや苦しみを抱えている時にはそれが、困難から抜け出す近道になる場合があります。

 花さんはこれまで、夫や家族、お義母さんのために自分のことを後回しにしてきました。それは、自分をカウントせず、周りにばかりケアを注いできたようなものです。

 ここではまず、花さんにとっての「大切な人リスト」に自分を入れることから始めていきましょう。

 こうして、自分を大切にする準備を整えたら次は、傷ついた「わたし」をどんな風に大切にしてあげたいかを想像してみます。自分を大切にする、がピンと来ない時には、「わたし」を花さんの「親友」に置き換えてみるとイメージがしやすいかもしれません。

 そして、大切にしたい対象としてのイメージが固まってきたら、そこにいる「わたし」に「あなたは夫にどんな風に扱って貰いたいですか?」と、問いかけてみます。

 答えは返ってきたでしょうか?

(写真:daruma46 / E+ / Getty Images)

私はどんな風に扱ってもらいたいのか?

 夫にどんな風に扱ってもらいたいのか? という問いかけは、花さん自身が本当に求めているものを知る上で有効なアプローチになります。

 夫の行動で「つらい」と感じるのはどんな時か? どんな言動に傷ついているのかを思い出しながら、「こうしてほしい」と思うのはどんなことか? 「こうしてくれたら嬉しい」と感じるのは何か? を具体的にリストアップしてみます。

 例えば、

  • 「私の気持ちに寄り添ってほしい」
  • 「話を聞いてほしい」
  • 「誠実に向き合ってほしい」
  • 「感謝の言葉を伝えてほしい」

など、些細なことでも構いません。

 こうして「夫にどんな風に扱われたいか」を考えることは、同時に「自分はどんな人間でありたいか」「どんな価値観を大切にしたいか」を考えることにも繋がります。

 例えば、「私の気持ちに寄り添ってほしい」ということは、「私は相手の気持ちに寄り添える人間でありたい」という価値観を表しているかもしれません。また、「誠実に向き合って欲しい」ということは、「私も誠実で正直な人間でありたい」という価値観を表しているかもしれません。

 このように、夫にどんな風に扱われたいかを考えることで、自分自身の価値観や本当に求めているものが明確になり、それが「自分の価値」を認識することに繋がります。

自分の価値を守るのは自分

 つらい状況にある時には誰でも、「相手に変わってほしい」「分かってほしい」という気持ちが強くなってしまうものです。

 しかし、相手は自分の思い通りにはならないものですし、相手に期待してばかりでは、状況は変わらず、却って失望感が深まる可能性もあります。

 ましてそれが夫婦の間でのことなら「分かってくれないのは私のせい?」と問題の責任を全部引き受けてしまうことさえあるでしょう。ですが、変わらないのも、分かってくれないのも、相手の問題であって、花さんの責任ではありません。

 大切なのは、花さん自身が自分の気持ちに正直であること。「つらい」「悲しい」「許せない」など、どんな気持ちであっても、それをただ受け止め感じてみます。

 夫にこんな言葉をかけて欲しい、というイメージがあれば、その言葉を花さん自身が傷ついた自分に向けて掛けてあげても良いと思います。感情はそれがどんなものであっても否定せず、押さえ込まず、その存在を認めてあげることで癒されていくものです。

 

 傷ついた気持ちを受け止めてあげることができたら、次は、「ここまでは許せる」「これ以上は無理」という境界線を明確にしていきます。例えば「『これまでの風俗通いは仕方ない』でも『これからはやめて欲しい』」といったようにです。

 そうやって境界線がはっきりしたら、受け入れ難いことには勇気を持って「ノー」と表明することも、自分を守ることに繋がります。

 また、境界線は引けたけれど、今はまだ「ノー」を伝える準備ができていないということもあるかもしれません。そんな時には、何も言わないこともまた、心の平穏を保つうえで有効な選択と捉えておきましょう。

 沈黙は悪いことではなく、今を守るための賢明なアプローチとも言えます。深く傷ついた心では、その痛みによって幸せな未来を思い描くことなどできないように思えるものです。

 

 どんなに今が辛くても、この状況がずっと続くわけではありませんし、花さんは花さん自身の人生をどう生きるかを選択することもできます。

 まずはそのことを念頭に、これまで花さんが大切にしてきた、たくさんの人たちと同様に、花さん自身を大切にしてあげて欲しいと願っています。

【過去の相談を読む】教えて!夫婦のお悩みQ&A 記事一覧

夫婦関係の悩みや疑問を募集中!

夫婦関係の改善をサポートするQ&A企画夫婦リカバリー相談室では、皆さまから寄せられた悩みや疑問に、夫婦関係専門カウンセラー・安東秀海先生がお答えします。

相談はこちらから

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載
『夫は、妻は、わかってない。』安東秀海・著。本連載からスタートした「カウンセリング」事例からみるあたらしい夫婦の在り方。7月21日発売。
こちらの記事は以下の商品の中に含まれております。
ご購入いただくと過去記事含むすべてのコンテンツがご覧になれます。
夫婦リカバリー相談室
月額:550円(税込)
商品の詳細をみる

夫婦カウンセラー・安東秀海先生による、夫婦関係改善のヒント。不仲、不倫、離婚…… 皆さまから寄せられたご相談にお答えします!

ログインしてコンテンツをお楽しみください
会員登録済みの方は商品を購入してお楽しみください。
会員登録がまだの方は会員登録後に商品をご購入ください。