広島東洋カープ入団1年目から鈴木誠也選手の取材を続けてきた前原淳氏のレポート「データと誠也」の第七回。

第一回 「33.5インチ」/秘められた2023シーズンの思い
第二回 「178打席」/吐露した苦悩……「振れたらいいのに」
第三回   「31人→176人」/メジャー2年目の覚醒に不可避な対応とは?
第四回 メジャー屈指「大谷超え」のスピード、ホームランが増え始めた秘密
第五回 鈴木誠也、なぜ打撃に浮き沈みが生まれるのか?​
第六回   若かりし鈴木誠也が語っていた「四球に興味はない」、メジャーに来てどう変わったか?​

SEIYAS PICK UP DATA→「.620」

 8、9月とカブスは快調に白星を積み重ね、ワイルドカード出場圏内をキープ。首位とも1.5ゲーム差(9月8日時点)とナ・リーグ中地区優勝も見えてきた。

 6月に10あった「借金」は「貯金」12まで増やした。破竹の勢いと言える。

 チームの戦績とともに、鈴木誠也の打撃成績も上向いている。

 7月末時点で.250を下回っていた打率は、.275まで上昇。8月上旬はスタメン落ちする試合もあったものの、1カ月で2分も上げた。さらにOPSも.812にまで上げ、定着した6番は相手に脅威になっている。

 復調を印象づける鈴木が、球団3年ぶりポストシーズン出場のキーマンの1人に挙げられる数字がある。

「.620」だ。

 これは今季鈴木が安打を記録した試合の勝率で、シーズン勝率.543を上回っている。さらにマルチ安打を記録した試合は勝率.719(23勝9敗)にまで跳ね上がる。

 シーズン前半こそ苦しい打撃が続いたが、そんな中にあっても「鈴木が打てば、勝つ確率が上がる」チーム状態だった。

 これは昨シーズンと比較すると興味深い。

 昨シーズンは安打を記録した試合でも勝率.493(36勝37敗)、マルチ安打を記録しても勝率は5割を大きく下回る.400(10勝15敗)だった。

 MLBの投低打高の傾向もあり、今シーズンは得点力の高いチームが上位にいる。カブスの716点はナ・リーグ中地区最多。1試合平均5.1得点をマークし、すでに昨シーズンの657得点を超える。

 厚みのある打線が、防御率4.07の投手陣を支えた躍進と言えた。

 そして鈴木。

 8月は23試合出場で打率.305、5本塁打、14打点、9月は7試合で打率.448、3本塁打、10打点と大きな得点源となっている。また、得点も24得点(8月17、9月6)と、返すだけでなく、チャンスメークの役割も担った。...