日本バスケ界を牽引した2人が、クラブの改革に挑む──。
一流企業の社員選手という安定した立場を捨て、37歳で初めてプロバスケットボール選手になり、運営会社の倒産を経て41歳でクラブ社長兼選手に就任。
レバンガ北海道の折茂武彦は唯一無二のキャリアをもって、変革期の日本バスケ界を切り開いたパイオニアだ。
7月20日、佐古賢一がヘッドコーチとしてレバンガ北海道に加わることが発表された。トップリーグ優勝9度、MVP3度、ベスト5に9度選出された「ミスター・バスケットボール」と、「レジェンド」折茂武彦社長がコンビを組むのは現役時代の日本代表以来。
8月5日の会見で「勝負の時が来たと感じている。変えられるのは彼だと思って選んだ。僕も本気で上を目指すクラブにする責任がある」と語った折茂は、どんなクラブづくりを描いているのか。
本企画では、昨年3月に上梓した初の著書『99%が後悔でも。』をもとに、北海道のバスケットボール文化向上に身を捧げる折茂の半生やマインドを全5回で掲載する。
第1回は、選手ではなくなって初めてのシーズンで見えた景色、今後の展望を聞いた。
(青木 美帆:スポーツライター)
「勝ち」に舵を切る
──コロナ禍という大変な状況の中で、Bリーグの2020-21シーズンが終了しました。改めて、どのような一年でしたか?
19-20シーズンが途中で中止になってしまったことを考えれば、リーグとしては全日程を終了できてよかったと思います。
ただクラブとしては、観客収容人数に「最大50パーセント」という制限がかかり、収入の大きな柱になっているチケット収入が減少し、非常に厳しい状況であったのも事実です。
──レバンガはリーグ屈指の観客動員数を誇るクラブ。ダメージの大きさも想像できます。
我々は会場に足を運んでいただき、コートと近い距離でバスケットボールのエンターテインメント性や一体感、熱量を感じていただくことをコンセプトにしていますから、苦しい状況ではありました。
ただ、今はコロナが収束した時に向けて気持ちを切り替え、応援してくださる方々を万全の状態で迎えられる体制づくりを進めていかなければと考えています。
──社長に専念して2季目のシーズンになります。何か挑戦したいことはありますか?
さまざまな方のご協力により経営が軌道に乗り始めたので、「本気で優勝を目指せるチーム」へと舵を切ろうと考えています。
これまでレバンガは、成績に関係なく応援し続けてくれるたくさんのファンに支えられてきました。ただ、昨年に選手を引退してコートの外からチームとクラブを見るようになり、これからの10年はそれだけでは厳しいと感じたんです。
私は選手兼任だった昨年まではチームや選手の評価に一切関わりませんでしたが(※1)、今後はそこも踏まえた上で、チーム強化に力を注いでいきたいと考えています。
文化の定着とマインドの転換
──近年のBリーグは、大きな資本を持つクラブの参入により移籍が活発化し、レバンガからも主要プレーヤーが移籍しました。このような状況をどう思われますか?
現行のルールに、移籍元のクラブへの移籍金などのメリットがないのは苦しいですが、選手が自分を高く評価してくれるクラブに移るのは当たり前のことだと思っています。
我々はビッグクラブではないので、大きなお金をかけてたくさんいい選手を獲得するというやり方はできませんが、クラブとして文化を築き、目指すべきマインドを設定し、育成と強化をしっかり進めて基盤を作りたいです。
──クラブが目指す文化とマインドについて、具体的に教えていただけますか?
文化としては、地域に密着し、愛されるチームを作っていくことを非常に重要視しています(※2)。
マインドは、「相手がどこであろうとも勝利を信じて試合に挑む」という勝者のメンタリティでしょうか(※3)。このマインドをセットするために一番重要なのは、敗者のメンタリティから脱却することです。
レバンガ北海道はBリーグ開幕以来一度もプレーオフに進出したことがなく、選手はこのメンタリティにとらわれつつあります。私も若い頃に同じ経験をしていますが、これが染み付いていると、いくらいい選手がいてもチームはなかなか上向きになりません。
勝者のメンタリティを備えている選手を育てる、もしくは外部から連れてくる…そういったところもしっかり固めていきたいです。
──社長としての第二章のスタートです。
そうですね。幕開けです。これまでは経営が安定せず人件費にお金をかけられなかったので「
チームとフロントが一枚岩になり、覚悟を持って進みたいです。
(第2回に続く)