(平石洋介、聞き手:シンクロナス編集部/写真:GettyImages)
プロ選手に必要な資質は「継続できる能力」である
――倉野さん、現場から離れて感じられることはありますか?
倉野 25年間ホークスにいたんで、もっと気になるかな、と思ったら意外と、気にならなかったかな(笑)。もちろん、気にはしているんですけど、もっと気になるかなと思っていたんで、自分でも驚いています(笑)。
――(前編動画で)「今の若い選手は、量をこなす、基礎体力をつけるといったベースが小さくなっている」が指導者界の共通理解だとご指摘されました。
倉野 僕はそう思うんですね。今の子(若い選手)と言ったら失礼かもしれないですけど、間違いなく言えるのは単純なことをコツコツとする体力はないですよね。
合理的な練習をやって、うまくなったような気がするんですよ。で、一瞬、うまくなるんですよ。
うまくなっても、それが継続できるか、続くかどうか。続かなかったら自分のものではない。でも、「はい、できた」と言って、そのままやらないでおくと、自分のものにならない。だから試合でできない。
試合で出し「続ける」ためにも、「継続」っていうのがすごく必要で、これをみんな忘れてしまっている。そういう人も多いんじゃないかな、と。
合理的な練習もすごくいいんですけど、平石も言ったように例えば走り込みだとか、昔でいう千本ノックであるとか、昔ながらの練習というのは確かに無駄もあるかもしれない。効率的という意味においては。
無駄もあるかもしれないけど、それによって強くなる部分って結構あるんですよね、体力面であったり、メンタル面ももちろんありますし。
昨今の選手は結構、メンタル的にもろいというか……合理的なトレーニングをしている人はうまいんですけど、じゃあ何が弱いか、というと自分のペースを乱されたときに、すごくもろい。
じゃあ、自分のペースを乱されるときって何か、っていうと、大一番とか、大ピンチとか、ピッチャーで言うと。
そういうところで昔で言う、火事場のくそ力みたいなもの。今まで出てなかったようなパフォーマンスをいきなり、こんな試合で見せてくる、っていう選手が少なくなった。
それって、やっぱり自分のペースでできないものですから、当然プレッシャーがかかって、大きな試合になると自分のペースでできないですよね。そういう、耐性、耐える力というのがすごく弱くなってると思うので。
僕はそういうところに着目して、合理的なトレーニングと一緒に、そういう根性論みたいな部分というのは絶対に不可欠だ、と。勝負の世界においては不可欠だと思っているので、そういうものを引き出せるようなアプローチをしていました。
――平石さん、笑顔で頷かれていました。
平石 もう、倉野さんとしゃべるともう、本当に「ごもっとも、わかる!」というのが多くて。そういう、昔からの大事な部分、その大事さも倉野さんは分かっているし、だからといって「ほら、あれやれ」「ええからやれ!」じゃないんですよね。だからこれがね……うれしいんですよね(笑)
――今のご指摘のような「火事場のくそ力だ」「千本ノックをやれ」と言われると、否定的に捉えられて、端から受け入れてもらえない、ともするとパワハラ的になりかねない現状があります。
上達のヒントだと思っているのに、それができないもどかしさもあると思うのですが、倉野さんはそのあたりをどうお考えですか。プロだったら「やって当たり前」という側面もあると思いますが。
倉野 僕はですね、自分がそういうものを現役のときに経験してきて、確かにこれ何の意味があるんだろうとかって、多々あったんですね。でも、自分なりに経験をしてきて、「これはこういう意味があったんだ」っていうのが後々にわかって。
もちろん、無理やり上から、「これやれ!」って言うと、パワハラだという時代になっていますけど、僕は頭ごなしに「やれ!」と言う前に、これはどういう意図があるのかっていうのをまず説明するんですね。その意図を説明したうえで、やってもらうときは、僕はパワハラのようにはならないと思っています。
説明してもまだ納得せずに、やる気がないような選手に対して僕は強制はしないです、正直。ただ、今の子って、頭いいので、理解してくれたらちゃんとやってくれるんですよ。
だから僕は、いちいちって言い方はおかしいかもしれないですけど、説明しながらやっていますので、頭ごなしに「なんの意味があるんだろう」っていう練習はあんまりさせないですね。それはたぶん、平石も同じ考えだと思うんですよね。
平石 うん、僕もいちいち説明します。倉野さんがおっしゃったように、ちゃんと説明したらやりますね。やってくれます、ほとんどの選手が。
倉野 昔の人ってそれでもやらない人、結構いましたよね(笑)。
平石 そうそう、これなんの意味があんねん!みたいなね(笑)。
倉野 だから今のほうがすごく真面目なんですよね。
平石 そうなんです。本当に真面目です、今のほうが。
倉野 だって昔みたいに二日酔いで出てくる人なんてほとんどいないですもんね。
平石 ほとんどいないですね。
倉野 昔は、チラホラありましたけど、まず今はない。自己管理もしっかりしてるし、それだけ技術のレベルが上がって、そういう生活で勝負できるようなレベルではなくなったっていうのが背景にあると思うんですけどね。
――今の若い選手たちの弱さみたいなところが目立つ、という話にフォーカス(前編)していましたが、それが単純に悪いことではなくて、(育ってきた)環境的にそういうことが起きてしまっているから、彼らに対してはそこで(逆に)培ってきた頭の良さがあって説明すれば納得する、と。説明するということが現代のキーワードになるっていうことですか?
倉野・平石 はい。
倉野 でも、その説明をするためにも指導者が勉強して、知識を増やさないと、説明する根拠もないですし、説明できないと思うんですよ。言葉で。だから僕らは説明するために、たくさんの知識を今でも得て、自分の引き出し、幅を広げないといけないと思うんですね。
今の時代は、もう指導者が選手に合わせられないといけない時代、だと思っているんです。もちろん、選手に「よしよし、ほめてほめて」っていう意味ではなくて、ですよ。
選手にゴマをするという意味ではまったくなくて、選手に対して選手に合わせられるようなコーチングをしないと、今は通用しないというふうに思っています。それは選手が悪いわけではまったくなくて、育ってきた時代、環境だと思いますので、その時代に僕ら指導者が乗り遅れたら、いけないと思うんですよね。それが一番大事なんじゃないかな、と思います。
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