シカゴ・カブスに入団した鈴木誠也は素晴らしいスタートを切った――。そう見える。開幕戦でメジャー初ヒットを放つと、翌日には初打点。3試合目に初ホームランを記録し、翌日は2打席連続ホームランを記録して見せた。
4試合で3本塁打8打点、打率.417、OPS1.696は圧巻だ。
それでも試合後の取材で「(適応できているか)わからない」と話す言葉に、鈴木誠也の打撃スタイルが見え隠れする。
広島東洋カープ入団時から鈴木誠也を取材するスポーツライターの前原淳氏に、鈴木誠也が配信する打撃理論コンテンツ「オンラインBaseballPARK」内での本人証言をもとにしながら、メジャーデビューの現在地を探ってもらう。
執筆:前原淳
鈴木誠也の打撃フォームは変わったのか?
地元ファンからスタンディングオベーションで迎えられたアメリカでのデビュー戦。鈴木誠也は第2打席でメジャーリーグ初安打を記録した。1打席目は1度もバットを振らずに四球を選び、この打席では1ストライクからスライダーにうまくバットを合わせる。
アメリカでのファーストスイングで、自身の新たなページを切り開いた。
開幕2戦目には初打点に初タイムリーヒット、開幕3戦目には初ホームランを記録した。
好発進した鈴木のフォームは、広島時代と大きく変わったようには見えない。ただ、カープに入団した新人時代はもちろんのこと、NPBを代表するスラッガーになってからも、現状維持を望まず、変化を求めて「より高いレベルの打撃」を追究し続けてきたように、アメリカの地でもきっと目に見えない変化があるはずだ。
わずかに目に見えた変化は、構えたときのグリップ位置にあった。昨年よりも低くなっているように映る。
昨シーズンの途中から取り入れた体幹トレーニングの成果がさらに上がっている証しではないだろうか。
鈴木誠也が打撃論を語る「オンラインBaseball Park」で、「【PICK UP PLAY/動画】あの選手に触発されて見つけた新打法」として、18.44mある投手と打者との「距離と時間が重要」と語っている。
強調したのは、「股関節と尻」を土台とする感覚だった。
昨シーズン途中、とあるきっかけで体幹を強化した鈴木誠也。それによって「土台への意識が変わった」と明かす。
それまでの両足を土台とするのではなく、股関節と尻で支える感覚を覚えた。軸足に溜めたパワーを鈴木いわく“ぶっ放す”ことでバットに力を伝え、さらに踏み込んだ左足の股関節で“ぶっ放したパワーを止める”ことで、体の中心に支点ができ、インパクト時に最大限の力が出せるというのだ。
そうすることで、インパクト時の体が「逆くの字」に見えるように、「ポイントがひとつ呼び込めるようになった」。
股関節の強化だけでなく、尻周り、背中などの柔軟性を高めることで可能となったフォームでもある。
感覚的に自ら投手との距離を長く取れたことに加え「打球の角度が上がるようになった」とも話す。昨年キャリアハイのホームラン数、長打率を残した打撃の裏には、この変化があった。
メジャーリーグ開幕戦でグリップ位置が低くなったことは、股関節中心に始動する打撃の完成度が上がったことを意味するのではないだろうか。しっかりと土台ができて、距離と時間が取れるようになったことで、大きくテイクバックを取らずとも“ぶっ放せる”。
オープン戦で見て取れた“変わらない”試行錯誤
好発進は限られた調整期間で、見事にアジャストした結果とも言える。
ロックアウトが長期化したことで、カブス移籍から開幕までの時間は1カ月もなかった。使用球やストライクゾーン、試合までの調整法など環境がガラッと変わった。
大柄な投手が多いメジャーリーグでは、鈴木が重要だと話していた「投手との距離感」も大きく異なるだろう。実際、オープン戦序盤は、打席の中で間合いやタイミングが合わず、思案する表情が目立った。
オープン戦初出場となった3月25日のロッキーズ戦の2打席目、右腕マルケスの初球、胸元へのボール球をよけた後、鈴木の視線は遠くを見つめていた。配球を読んでいるのではなく、まだ整理されていない頭の中の中に思いを巡らせているようだった。
2打席連続三振を喫した打席では、見逃す姿も、スイングする形も、まだ自分の間合いではなかったように感じられた。自分のことに気が回り、投手と勝負できていなかったのかもしれない。
11打席目に生まれた初安打はノーステップ打法からの本塁打だった。「タイミングを消す」と本人が表現するこの打ち方はカープ時代に見られた対応策であり、引き出しのひとつだけに驚きはない。オープン戦という調整期間で本人にしか分からない何かを測っていたのだろう。
オープン戦、2安打目となる中越え本塁打を放った4月1日ダイヤモンドバックス戦後、インタビューに答える鈴木の表情には光が差したように晴れやかだった。
オープン戦最後の出場となった3日ホワイトソックス戦の2回、ベラスケスの3球目は体をのけぞらせるほどの内角ボール球となった。鈴木の表情には怒りがにじんだ。続く4球目も内角へのボール球。一度マウンドのベラスケスに向けた視線は怒りを放っていた。
開幕を前に自分自身との戦いから脱し、相手としっかり勝負できている。戦いの舞台に立つ準備は整った。そう感じた。
オープン戦の20打席で14投手(右投手9人、左投手5人)と対戦。
初打席から10打席連続無安打も、初安打となる本塁打以降の10打席は4安打(2本塁打)と、数字にも表れていた。
カープで常に試行錯誤しながら上積みしてきた精神力と技術が、限られた中での適応につながったように感じる。新天地での第1歩に、またひとつ理想の打撃に近づいたのではないだろうか。
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