2021年10月のオーストラリア戦後。写真:新井賢一/アフロ

不可能を可能にするために、疑う。

 繰り返し「勝負の月」と話していた3月シリーズを、シュツットガルトは2勝1分けで終え、日本代表においてはオーストラリア戦でワールドカップ出場を決めることができました。

 ワールドカップは組み合わせも決まり、ドイツとスペインと同組です。ワールドカップ優勝を経験する強国が並ぶことで「最悪な組み合わせだ」と言われることも多いですが、個人的には、楽しみが増えたという感覚しかありません。

 実際、抽選を見ながら、「E組に入るだろうなー」なんて話していました。強い相手と憧れの舞台で戦える。それこそワールドカップだろう、と。

 もちろん、まだメンバーに選ばれたわけではありません。

 これから約8カ月、コンディションを維持し、より個人的にもレベルアップしなければいけません。強いグループに入り、そして自身がプレーをするブンデスリーガーたちとやり合えるという事実は、その思いをより強くしてくれます。

 目標が定まることで、やるべきことがはっきりする。自分がたどってきたサッカー人生で体感してきたことでした。

 それがたとえ不可能にみえることでも、目標がはっきりしているのであれば、その目標から逆算したやるべきことを一つひとつ、着実にこなし、進化をするだけです。

 振り返ってみると、僕は数年前まで多くの人にとってどんな選手かわからない存在だったと思います。あえて良いように言えば「ポリバレント」。センターバックやボランチ、右サイドバックなど、いろいろなポジションをそつなくできる選手というイメージだったのだろうと思います。

 それが、ブンデスリーガに来て以来「ボランチ」として周囲も認めてくれるようになりました。特に守備の面「1対1」においては、これまでより多くの人にそのイメージを持ってもらえるようになったと実感しています。

 ここまで来られた、最初の一歩は「固定概念を取っ払う」ことにあったと思います。

 日本人はフィジカルで勝てない。そう言われている中で、僕自身は「それって本当?」と疑うところから始めました。

 勝つためにはどうすればいいか。フィジカルトレーニングが必要です。クレバーさが大事になります。戦術理解を深めなければいけません。フィジカルトレーニングにしても、ただウエイトを大きくすればいい、というわけではありません。サッカーのピッチ上で勝てるフィジカルでなければいけない。自分の持っている筋力を最も効率的に、ピッチ上のパフォーマンスに生かすための体つくりが必要だと考えました。

 このコンテンツで対談もさせていただいたパーソナルトレーナーの小林さんは、その姿を実現するために最適な方だと思いました。ボブスレー出身の選手でサッカー界に縁がある方ではありませんでしたが、そのトレーニングは確実に身になったと思います。

 結果的に、ブンデスで「デュエルキング」と言ってもらえるようになりました。不可能だと思われたことも、目標を定めたことで実現できたのです。

いつだって「最適解」を探し続ける

 自分がやってきたこと、それを誰にでも当てはまる正解だとは思いません。

 ここで何度も話をしているように、すべては「最適解」を探すこと。そのための小さなステップを積み重ねること。重要なことは、はっきりとした目標を定めることです。

 だから、今回のがけっぷちと言われたワールドカップ出場も、強豪国と並んだグループも、目標を作り、やるべきことを定めてくれるという点で、――あくまで自分にとっては、ですが――メリットしかありません。

 最適解を探すことはピッチ上でも同じです。

 二度と同じシーンはないけれど、似通ったシーンが起こるサッカーにおいて、経験、戦術、メンタルをうまくオーガナイズしてその都度、最適解を探す。もちろん成功することばかりではありませんが、しっかりと根拠を持って判断ができれば、後悔することはありません。

 まずメンバーに選ばれて、そして再び、不可能を可能にしてやる。そんな気持ちでいっぱいです。

 その前に、まず目の前にある目標は、ブンデス1部残留です。厳しい戦いが続きますが、やるべきことは同じです。必ず、一つずつ前進したいと思います。

 と、ちょっと真面目な話が続いたので、あのワールドカップ予選のことを少しだけ。

 これ、書いていいのかわからないですけど……0対0のまま試合が進み、80分を迎えた頃だったか……、「ああ、引き分けかもな」そんなことが頭をよぎった瞬間がありました。

喜びを抑えた理由と、もっとも嬉しかった岳とのハイタッチ

 得点チャンスが何度もあり、決してみんな悪いプレーをしているわけではない。こういう試合、あるよな、と。...