「思考習慣を入れ替えるワーク」で自己肯定感が回復。ダメな自分を受け入れる方法

　日々自分なりに頑張り、欲しいものもある程度は手に入れている。なのに自己肯定感が低く、モヤモヤを抱えるエディター澤田が「私のままでいい」「今が幸せ」と言えるようになるべく、自己肯定感を回復させることに成功した人々の話を聞く本連載。
　幼少期から「自分が嫌い」と自覚していたという心理カウンセラーのきいさん。インタビュー後編では、そこからどのように自己肯定感を回復させるのか？実践したワークとそれによって起こった周りや自分の変化について伺いました。

文＝松倉和華子

 

ダメなことも「○○でいいよ」に変換

エディター澤田：前編では自己肯定感が低くなった原因や当時の状況を聞きましたが、そこからどのように改善していったんでしょうか？

きいさん（以下、きい）：まずはどんな自分でも受け入れられるようになるために、自分のダメなところ、失敗したことなどの語尾を「○○でいいよ」に変えてノートに書き出していきました。

ワーク１　「～あるべき」「～してはいけない」を「～でいいよ」に変換

きい：最初から本当にそう思えなくても無心でもいいので、「太っていいよ」「優しくなくていいよ」「謝らなくていいよ」「間違ってもいいよ」「親孝行しなくてもいいよ」「休んでもいいよ」「頑張らなくてもいいよ」って。そうやって50個くらい心に引っかかっていたことを書き換えていきました。

ワーク２　自分の本当の気持ちを書き出す

きい：それと同時に、自分の本心に目を向け、それもノートに書き出しました。「これが嫌いだった、あれが嫌だった、悲しかった、怖かった」とか、過去のことも遡って「あのとき、○○さんにこう言われたけど、本当は謝って欲しかった」とか、母のことも「テストを見せたとき、本当は喜んで欲しかった」とか。

　私の場合は、子どもの頃から感情を抑圧していたので、ネガティブなことはダメなことだと思っていたんです。でも人間ですからマイナスな感情が湧いてくるのは当たり前だし、思考は自由。そこから向き合いました。

エディター澤田：人の悪口や愚痴は言わない方がベターではあるけど、そう感じることすら禁じられるのは辛いですね。

きい：そう、それを全部紙の上に解放して吐き出して、過去も含めて自分の感情と向き合い、自分がどう考えていたか、どう感じたかに集中する。

　そうすることで、日常生活でも「あ、今嫌だったのに、周りに合わせたな」「合わせるべきって義務になっていたな」って気付けるようになっていきました。そして「でもそんな時もあるよね」「合わせなくてもよかったんだよ」と受け入れて、流せるようになったんです。

　これによってネガティブな思考回路が徐々に整理整頓され、思考習慣の入れ替えができるようになりました。

エディター澤田：書き出すワークは、いつ、どんな時にやっていたんですか？

きい：気付いたときにですね。１日の終わりにやることもあれば、ふと感情に気付いたときにやったり。外で書きたいと思ったときは、携帯のメモやメールのフォーマットに書き残したり。それに加えて、「あること探し」と「好きなもの集め」もしました。

ワーク３　「あること探し」でポジティブ思考に

きい：それまでは自分ができないこと、自分が持っていないものばかり探して自分を責めていましたが、その逆ですね。その日できたこと、今の私自身が持っているものを探す習慣付けです。

　「〇〇はできなかったけど、あれはできた」「〇〇はわからなかったけど、これはわかった」「〇〇はないけど、私にはこれがある」と。これも１日を振り返る時や、ネガティブな思考に気付いたときにやっていました。

　もともと１日を振り返って自分にダメ出しをする癖があったので、同じようにポジティブな部分にも光を当てるイメージです。それによってネガティブな部分がなくなったわけではないんですけど、だんだん心のバランスが取れ始めたと思います。

ワーク４　好きなものを集める

きい：自分を好きじゃない時は、自分のことなんてどうでもいい。だから身の回りに置くものも、ただ安いから選んだ茶碗とか、「嫌じゃなきゃ、なんでもいい」になってしまっていたんです。そうするとどうでもいいものばかりに囲まれて、自分がなく、気分も落ち込む一方。

　でもハンカチ一枚、下着１セットなど、小さなものから「損得や人に見られることが基準ではなく自分が本当に好きと思えるもの」を選ぶようにしました。好きなものが身の回りにあると嬉しい気持ちになるし、そこに身を置く自分のこともいいなって思えるようになることが狙いでした。結果、次第に自分基準を取り戻していき、“自分が自分であること”を大切に思えていきました。

ネガティブな自分も受け入れられるように

エディター澤田：こういった行動を続けることで自分を嫌ったり、落ち込むことはなくなりましたか？

きい：いえ、落ち込んだりネガティブになることは今でもあります。でもそうなる時の自分もいいやって思えるようになりました。

エディター澤田：おぉ！それは大きな変化ですね。

きい：そうなんです。おかげでしんどさはだいぶ減ったし、幸福感を感じられるようになりました。個人差があると思いますが、私は自分を解放していくことやワークを試して半年くらいで変化を感じましたね。

エディター澤田：周りから「変わったね」と言う声もあったんじゃないですか？

きい：それが全くなかったんですよ(笑)。自分の中では革命が起こったくらいの大変化だったんですが、周りからは特になにも言われず。「こんなことをしたらダメじゃないか」「いい人だと思われなくなってしまう」と今まで否定していたことを実行しても、我慢して溜めていた悩みを打ち明けても、嫌われないしなんともない感じ。

　それもそのはず、周りの友達や信頼関係のある人たちは、ずっと前からありのままの私を受け入れて付き合っていたから「そのままの私（きい）で大丈夫だよ？」と言うことだったんです。

エディター澤田：そうなんですね。お母さんとの関係はどうですか？

きい：それは変わりました、結論から言うと今は仲良しです。

　でもその前に一度、私が今まで溜め込んでいたものを吐き出してバトルになりました。そのときに、今まで嫌だったこと、辛かったこと、認めて欲しかったことなどをぶちまけて。本心から感情的に伝えるのはこれが初めてでした。同時に、「お母さんが好きだから言うね」とか「大切に思ってくれてることはわかっている」ということも伝えました。

　あとは、母にインタビューをしました。生い立ちはもちろん、「どうして教師になりたかったの？」とか「お母さんの時代はどんなことが常識とされてきたの？」とか。色々と聞くことで、母自身も完璧主義で、ときに辛い思いをしてきたんだなとわかったんです。

　結局、「テストで10点間違えたんだ」って言ってしまった母というのは、自分でもそこに×をつけてしまう人だからなんですよね。母自身を理解することが、自己肯定感の回復にも影響しました。

エディター澤田：お母さんのことを客観的に見えるようになったんですね。

きい：はい。私自身が母を神格化し過ぎて、何をしても頭ごなしに否定されていると思っていただけだったということに気が付きました。今は「母も一人の人間であり、さまざまな事情がある中で熱心に子育てしていただけなんだ」と理解できるようになりました。

　今でもときどき厳しく接してくる時がありますが、人と人とは違うものだと思えるようになったので、母のそんな性格も受け入れつつ、ほどよく流しています（笑）。今はお互いに一人の人間として尊重し合っている感覚があり、心地よい距離感やコミュニケーションを築けています。

何事も自分主体で選べるようになり、心地よさを手に入れた

エディター澤田：自己肯定感が回復してから、ご自身では具体的にどう変わったと思いますか？

きい：そうですね、荒れていた心が落ち着き、めちゃめちゃ幸福感を感じられるようになりました。子ども時代からの高くなりすぎたハードルは下がり、他者と自分を分けて考えられようになったので、他者の言動にも過剰反応しなくなりましたね。

　人にどう思われるかより、「私はこう思います」と発言するようになったし、人の意見も「あなたはそう考えるんですね」ときちんと客観的に捉えられるようになっていき、心が軽くなりました。

エディター澤田：すごい！体感としては別人になったようなイメージ？

きい：いえ、別人になると言うより自分の安心なテリトリーが広がって、満たされている感覚です。急に「私、自分が大好き！」となったわけではなく、今回お話ししたこと以外にも幅広く心理学を学ぶことやワークを試し始めてから徐々に「自分も悪くないかも」、そこから「まあ普通だな」、最終的には「今の私、結構良いかも」という段階を経て満足できるようになってきた感じです。

エディター澤田：自己肯定感が回復するって、魔法にかかったみたいにポジティブな自分になることかと思っていたんですが、そうではないんですね。

きい：個人的な体感としては「私調子のいい日が増えたな～♪」「笑えるの気持ちいいな～！」という感じです（笑）。強く頑丈になったというより柔らかくしなやかになった。

　でもそれによって他者のことも受け入れられるし、失敗する時があっても「そう言う時もある」って優しく考えられるようになりました。今では人と比べず、自分なりの心地よさを得られました。

エディター澤田：素敵です！今こうしてお話しされているきいさんの軽快さ、柔和さこそが自己肯定感回復の答えという感じですね。ありがとうございます。