折茂武彦(おりも・たけひこ)B.LEAGUE(B1)レバンガ北海道の代表取締役社長。1993年にトヨタ自動車(現アルバルク東京)でキャリアをスタートし、2007年にレラカムイ北海道へ移籍、その後経営難によりチーム消滅。2011年にレバンガ北海道を創設し、選手兼代表を務める。2019−20シーズンで引退した。190センチ77キロ。(写真:アフロスポーツ)

 B1リーグレバンガ北海道の創設者であり社長としてもバスケットボール界を牽引し続けた折茂武彦。

 どうすれば人から信頼を得ることができるのか。コントロールできない結果ではないものとはーー?

 トップリーグでプレーした日本人選手で初めて10000得点を記録した(※帰化選手を除く)折茂武彦。現役27年、得点に対する考え方が興味深い。

 昨年10月に上梓し話題となった初の著者99%が後悔でも。に記された名将との出会いからひも解く「結果」と「信頼」の関係。

ジャック・シャローとの出会い

「折茂が外して負けたんだから、しょうがない」

 チームメイトやヘッドコーチ(バスケットボールでは監督をヘッドコーチ/HCという)、 観ているブースターにそう思ってもらえる。それが信頼だ。

 多くの場合、信頼には「結果」が必要だと考える。

 1試合平均で20点を取れば、チームの勝利はぐっと近づくだろう。あいつは決めてくれる、という信頼は絶大だ。

 ただし、それは結果論でもある。 指からボールが離れた瞬間、それが得点になるかどうかはコントロールができない。空中にあるボールを軌道修正することはできない。

 それがマイケル・ジョーダンのような世界的なスーパースターであれば、「結果」で信頼を得ることは可能だろうが、実際のところジョーダンですら「結果」を保証はできない。 では、どうすれば信頼を得られるか。わたしにとって必要だったのは「打ち切る」ことだった。

 トヨタ自動車に入ってすぐ、大きな出会いがあった。

 ジャック・シャロー。NBAでも指導をしていたヘッドコーチだ。20代前半で、そもそも生意気盛りだったわたしはずいぶんと反論をしたし、シャローもシャローですごく独特だった。普段は優しいのに、バスケットボールとなると急に熱が入る。うまくいかないと ボールを蹴飛ばして、練習中に帰ってしまうこともあった。

『99%が後悔でも。』折茂武彦・著

 彼は、多くのことを教えてくれた。

 先に書いたスクリーンについても、それまで知り得なかった方法や技術を細かく指示してくれたし、メンタル面においても適切なアドバイスをくれた。

「折茂はオフ中にバスケットをするな。ボールにも触るな」と言われたことは印象的だ。

 長いシーズンを戦ったあとはバスケットを忘れろ、ボールに触りたくなる時期はおのずとやってくるのだから、といった意味合いだったように思うが、以来25年近く、オフにバスケットボールをしたことがない。それどころか、トレーニングすらしていない(だからキャンプの練習はついていくのに必死で、地獄である)。

 「ディフェンスをしなかったら試合に出さない」 と言われたこともある。わたしは、反発しながらも彼に学んだ。

「打ち切る」哲学、結果ではない

 そんなシャローの教えの中でも、もっとも大事にした考え方が「打ち切る」だった。 当然のことではあるが、シュートは外れることがある。

 2019シーズンの得点ランキング1位のダバンテ・ガードナー選手は1試合平均23.4得点を記録したが、フィールド・ゴール(FG/2ポイントシュート)成功率は56%で、3ポイント成功率は28.2%。得点ランキング2位の日本代表ニック・ファジーカス選手は1試合平均23.2得点、FG成功率が51.4%、3ポイント成功率は41.9%(リーグ3位の記録)である。

 つまり、どんなトップランカーでも、シュートが決まる確率は半分程度なのだ。

 トヨタ自動車に入りたてで若いわたしはそれを受け入れることができなかった。試合でシュートを外せば落ち込み、あるときは「もう入らないんじゃないだろうか」とか「もうシュートを打ちたくない」などと思った。
前半に調子が悪いとそのまま一試合をとおして崩れてしまう。

「何本外そうがいい」の真意

 そんなわたしにシャローは言った。

「何本外そうがいいんだ。10本連続で外しても、お前には10本連続で入れられる力がある。だから、打ち続けろ。下を向くな。その必要はない」

 心がすっと軽くなった感覚だった。この言葉をもらって以来、シュートを外しても大きく引きずらなくなった。

 前半に調子が悪くとも強いメンタルをキープできるようになった。 わたしはこの言葉を「打ち切る」と理解している。 コントロールできないものに頼るのではなく、自分自身でやれることをやり切ること。

 スコアラーであるわたしにとっては、シュートを打ち切ること。

 10本外そうが、20本外そうが、とにかく打つ。わたしの仕事はシュートを打つこと、そ の自覚を持つ。

 だからシュートを躊躇することは、仕事を放棄するのと一緒だ。相手の脅威になれないし、そもそもわたしがコートにいる意味がなくなる。だから何があろうと「打ち切る」の だ。

 30歳手前頃だろうか。「打ち切れてるな」と実感できるようになった。シャローの言葉をようやく本当の意味で実践できている感覚だ。「折茂が外して負けたんだから、しょうがない」――その「信頼」を獲得できた。

 その実は、「あいつなら、打ち切ってくれる」。 大事な局面、苦しい時間、ボールを回そう。

 それこそが信頼なのだと思う。 周囲からの信頼は、よりわたしに責任感を植え付けてくれたし、その責任感はさらにわたしを「打ち切らせ」た。
バスケットボールだけに限らない話である。

 結果は人を判断する重要な材料だが、自分の仕事をまっとうしているかどうか。そこに ある責任感こそが「信頼」を生み、人を動かすことを肝に銘じている。

99%が後悔でも。折茂武彦・著より再構成)