2024年2月26日、日本サッカー界に2つのニュースが舞い込んだ。
1つは、シント=トロイデン(ベルギー)の元日本代表FW岡崎慎司の今シーズン限りでの現役引退発表。
もう1つは、リバプールFC(イングランド)の日本代表MF遠藤航の欧州初タイトル、カラバオカップ(イングランド・リーグカップ)優勝だ。
ロシアワールドカップでは日本代表として戦ったふたりは、ともにシュツットガルト(ドイツ)そしてシント=トロイデンでプレーをした経験があり、またシンクロナスにおいて定期的にコンテンツを配信し続ける「メッセンジャー」でもある。(岡崎慎司Dialogue w/・月刊 遠藤航)
そんなふたりが一度だけ、Liveで対談をしたことがある。2021-2022シーズン終了直後のこと。そのサッカー談義は多岐にわたり実に100分を超えた。
今回は、その対談の一部を特別に公開する。
岡崎慎司、忘れられない「日本食屋」でのエピソード
岡崎 (ロシア・)ワールドカップの事前キャンプ期間中に、(遠藤)航たちと日本食屋に食べに行ったよね? オーストリアかな。
遠藤 行きましたね。
岡崎 日本食屋に5人ぐらいで行って。俺と(本田)圭佑の会話の中に、(浅野)拓磨とか航たちが巻き込まれてしまった(笑)。
遠藤 ありました。めっちゃ懐かしい(笑)。
岡崎 会話のテーマが「何のためにサッカーしてるか?」みたいな……。
遠藤 それ、よく覚えています。
岡崎 「やっぱりサッカー選手はこうあるべき」とか「俺はこうしたほうがいい」とか、みんなが色々なことを話す中、航は「シンプルにお金(仕事)ですね」って(笑)。
「お金は(選手の)評価につながる一つの指標」って言うところ、あの食事会で一番、現実的な話をしていたのが航だった。
航は意外と現実的に物事を捉えてるなって印象深かった(笑)。
遠藤 それを覚えてるのがすごいですね(笑)。
岡崎 覚えてるよ。ああいうのでキャラクターがなんとなくわかるやん、サッカーに対しての。それは別に「お金のためにサッカーをやってる」とかじゃなくて、「お金=評価」という部分でもあるから。
遠藤 確かに。
岡崎 そういう考えを持ちながら航は「目の前」を切り開いていった。(今回話すってなって)それをなんか思い出した。
遠藤 「なんでサッカー選手になりたいと思ったか」みたいなことでしたよね、確か。「なぜ海外にそもそも行きたいか」とか、そういう話もしてましたよね。
最初は本当に「稼いで、サッカー選手をやりきって、あとはもう何もしたくないぐらいな感覚でいます」みたいなことを言ったのを覚えてます。
遠藤「移籍するとしても、あと1回ビッグクラブからオファーがあったら考えたい」
岡崎 今はどうなの? 海外に来てみて、そういう価値観は(変わった)?
遠藤 ちょっと変わりましたね。
シュツットガルトでキャプテンをやっていてチームに対する愛着はもちろんある。個人的には「チャンピオンズリーグに出たい」「もっとステップアップしたい」「プレミア(リーグ)に行きたい」っていう思いもあります。
でも、やっぱり同じチームで長くやっていくことは、キャリアとしてはアリなのかなと思います。正直、今の状況(編集部注:残留を決める劇的なゴールを決めた直後だった)だと移籍はしづらいですよね(笑)。
岡崎 それ(移籍)は自由だとは思うけど、全然(笑)。
俺もやっぱりプレミアに行きたいという思いで、ブンデス(リーガ)でやっていたから。マインツにいるとき、メングラ(ボルシア・メンヒェングラートバッハ:ドイツ)かレスター(イングランド)のどちらに行くか?となったけど、レスターに行くことしか頭になかったしね。
遠藤 そうなんですね。
岡崎 でも、航の「どこのポジションでやるか」という視点は、すごく重要だと思う。
今は、ある程度「プレミアリーグはこんな感じ」というのが、テレビ以外でもわかっているから、「どう評価されてどう使われるか」というのも考えるべきだと思う。 年齢的にも(それは)あると思う。
そういうのも加味したうえで、「チャレンジしたい」という気持ちが上回ったら、行ったほうがいいと思う。
遠藤 そうですね。
岡崎 でも、やっぱり航のなかで、世界的なボランチを目指すのなら、シュツットガルトで(ブンデスの)上位を狙うのもアリだろうし。
ヨーロッパは全部つながっている。あえてリーグを変えることも、もちろん刺激になるし楽しい。
でも、一つのポジションで有名になる、評価を得るのは可能かな。ブンデスでもチャンピオンズ・リーグやヨーロッパリーグがあるから。俺は、それを色々リーグを回って経験できたのかな、と思うから。
遠藤 そうですよね。
岡崎 だから、航は一つの答えを、もうすでに(シュツットガルトで)掴んでるなと思って。
遠藤 理想を言えば、このチーム(シュツットガルト)を自分がチャンピオンズ・リーグとかに出られるチームにしたら……それはそれで理想だなとは思います。
岡崎 家族もいるしね。
遠藤 環境をまた変えてっていうのはすごい大変だな、というのはあります。移籍は、するとしても、あと1回ビッグクラブからオファーがあったら考えたいなって思っていますね。
遠藤「岡崎さんは、プレミアとブンデスを比較してどう思います?」
遠藤 プレミアとブンデスを比較して、「フィジカル的にはこっちのほうが高い」とかありますか? プレミアはフィジカルのイメージがすごくあるんですけど。
岡崎 今のブンデスは、フランス人選手とかも多くなってきて、俺がいた頃よりもさらにフィジカルがベースになってる部分もあるかなって、見てて思うけど。
例えば、ヨーロッパリーグでフランクフルト(ドイツ)とウェストハム(イングランド)が対戦してるのを見ると、前線のアントニオ(注:ウェストハム所属のFW)とかは結構フィジカルが強いなって思った。
でも、これがプレミアリーグになると、より顕著にプレミアらしいサッカーになる。試合をしたときは、一つひとつの体の当たりを強く感じる。
あと、組織で戦っているようでけっこう組織的ではなかったりする。
間延びしたりとか。 ポジションとかチーム戦術にもよるけど、フォワードとしては、単純によーいドン!では勝てないし、ぶつかり合いでは負けるし。かなりプッシングしてもファウルにならない。ブンデスから行くと最初はビックリする。
遠藤 ブンデスでもあんまりファウルを取らないイメージはありますけど、プレミアだとより取らないんですね。
岡崎 マジで最初ビックリする。もうラグビーやんっていうぐらい(笑)。
遠藤 ははは。
岡崎 でも、前線の強い選手とかは押されてても動かない。俺は掴まれただけで前に行けない。ドイツもそういう止め方するけれどーー(ディフェンダーの)足が遅くても、体でちょっとぶつかるみたいな止め方をする。
プレミアだと、それがさらに顕著に出る。ターンして抜いたと思っても、ちょっと掴まれただけで、スピードを遅らせられる。そういう強さが(プレミアには)あって、苦労はしたけど、観ていても思うけど楽しい。
遠藤 やっぱりそうですよね。しかもオカさん、そこで優勝してるのはマジですごいです。
岡崎 いや、今回はこの残留でキャプテンでっていうのも含めて、全然航のほうがすごい。
(注:この対談は、2022年5月シュツットガルトが最終節ホーム・ケルン戦で残留を決めた直後に行なわれた。この試合、遠藤航選手は終了間際に決勝点を決めて、15位で逆転での1部残留に導いた)
遠藤 それはないです(笑)。
岡崎 いや、本当にそう思うよ。もちろん残留争いする状況になった、っていう部分でキャプテンとして責任を感じたりはすると思うけど。
遠藤 はい、そうですね。
岡崎 でも選手個人としての満足感でいったらすごいこと。俺は優勝してホッとぐらいはしたけど、チームにすごい貢献したっていう、目に見えるものがなかった。
残留決定後、観客がわーって(ピッチに)入ってきて……。(遠藤航の)認められ方は、もう英雄やん。あんなの(笑)。
たぶん人生でも一度あるかないか……。
遠藤 あの経験はなかなかできないですね、確かに。
岡崎 あの場面で(決勝)ゴールを決めるのはすごい。ヨーロッパの人に認められるとやっぱり気持ちいいよね、なんか。
岡崎「20回ぐらいは45分で交代させられた。ヨーロッパでポジションを掴むのは、簡単なことじゃない」
遠藤 確かになかなかできることではないかもしれないですけど。でも、岡さんはレスターのときもコンスタントに試合は出てましたもんね。
岡崎 11人のなかには入ってたから貢献はしたと思うけど。
遠藤 オカさんの記事で見たのが、「スタメンで出ても90分使われなくて絶対に最初で交代される」みたいなやつです。
岡崎 45分で交代させられる回数、たぶん一番多かったと思う(笑)。数えるだけでも20回ぐらいは45分で交代させられた。サッカー選手だったらわかると思うけど、あのときのぶつけようのない思いは、たぶん俺が一番持ってた。
どの監督も俺に近づいてきて「お前は悪くなかった」って。「いや、悪くないなら交代させるなよ」って毎回突っ込んでたから(笑)。
遠藤 そこは難しいですよね。特に前線の選手が最初に交代されがちというか。すごいフォワードの選手は(交代させるのは)難しい。
僕みたいな守備的な選手は、最後に攻撃に行くときに交代させられたりもしますけど。
岡崎 逆に、ボランチとかで出場できていない選手はなかなか出場機会が来ないのもあるし。
遠藤 確かにチャンスを掴むまでは、けっこう大変な気はします。オカさんも、確かシュツットガルトで残留ゴールを決めてますよね?
岡崎 いちおう残留ゴールというか、最終節から1試合前の俺らが勝った試合で、ブンデス初ゴールを決めたんかな。
(注:岡崎慎司はシュツットガルト所属時のブンデスリーガ2010-2011シーズン、第33節ハノーファー戦で決勝点となる初ゴールを決め、最終節を待たずにチームの1部残留に貢献した)
半年前の1月に俺がドイツに移籍してきたとき、シュツットガルトが降格圏にいて最終的になんとか残留したって感じだね。俺がレギュラーを取るとき、やっぱりドイツの選手にはない部分ーーバランスを取るとかも考えて入ったのは覚えている。
でも、そうやって入ったから、結局そういうタイプの選手だと思われてしまった。だから、それはそれで次の年はそのイメージを払拭するのがまた大変だったけど。やっぱりヨーロッパでポジションを掴むのは、そんな簡単なことじゃないよね。