プロ・アマ問わずさまざまな人が「自分が〈文学〉と信じるもの」を販売する、文学作品の展示即売会「文学フリマ」。一般の出版流通には乗らない作品が集まり、新たな才能の発掘の場ともなっています。

 2024年5月19日(日)に開催された「文学フリマ東京38」にて、プロの作家が集まって作られたアンソロジー「編集に怒られる!」が話題になりました。このアンソロジーに参加した作家の一人である額賀澪さんに、小説家の目から見た「文学フリマ」をレポートしていただきました。

小説家が集まって「文学フリマ」に初参加!

「額賀さん、同人誌作らへん?」

 親交のある小説家・最東対地さんからそんな誘いをいただいたのは、2023年の秋でした。

 最東対地さんは第23回日本ホラー小説大賞「読者賞」を受賞してデビューしており、主にホラー小説のジャンルで活躍されている作家です。大阪在住の方なのですが、私は何かと仲良くさせてもらっています。

 そんな最東さんから、「同人誌を作って文学フリマに出るから、ぜひ作品を寄稿してほしい」という依頼を受けました。

「文学フリマ」とは?

 文学フリマ(通称・文フリ)とは、文学作品をメインとした展示即売会です。

 小説はもちろん、短歌・俳句、評論、ノンフィクション、エッセイといった、さまざまな文学作品を自分のブースで来場者に直接販売することができるイベントなのです。

 私も大学時代にお客さんとして何度か行ったことがあるのですが(大学の友人がサークル参加していた気がします)、実は売る側で参加したことはありませんでした。

 私が学生だった十数年前の時点で大規模イベントでしたが、現在ではその規模はさらに大きくなり、東京・大阪・福岡などの大都市圏はもちろん、香川や岩手など、全国各地で開催されるイベントとなりました。

 

 実はこのイベント、プロの小説家も結構出店しています。

 商業出版しているものとは毛色の違う作品で同人誌を作ったり、複数人の作家が集まってアンソロジー同人誌を作ったり。出版社との仕事ではできないようなことをやる場所としてとても人気です。

 この文学フリマにアンソロジー同人誌を作って参加しようというのが、最東対地さんからのお誘いだったわけです。

担当編集に100%怒られる?

 アンソロジーとは、特定のテーマやジャンルに基づいて複数の作家が作品を寄稿した短編集のことを指します。

 最東対地さんが今回アンソロジーのテーマとして設定したのは「編集に怒られる!」でした。のちに、このテーマがそのままアンソロジーのタイトルにもなります。

 要するに、「自分の担当編集に提案したら100%怒られるような作品をあえて書こう」という試みです。

 

「怒られる」の理由は、執筆陣が自由に設定してOK。

 例えば、単純に「こんなの出せないでしょ!」と担当に言われそうなものでもいいし、企画の段階で「これは売れないのでは……」と弾かれてしまいそうな尖った内容のもの、コンプライアンス的に問題ありそうなもの、自分の作家としてのイメージと違うジャンルのもの、「私の読者には合わなそう」と思えるようなものなど、とにかく今の自分が商業出版できなさそうなもの――というルールでした。

 小説だけでなく、エッセイなどでも可。文量は8000字~1万6000字(400字詰原稿用紙20~40枚程度)。

 

 このテーマを聞いて真っ先に「面白そう!」と思った私は、二つ返事でアンソロジーへの参加をOKしました。

 仕事ではなく、あくまで作家同士で集まって作る、いわばお遊びの同人誌。でも、そこに面白そうな企画があれば参加したくなるのが物書きというものです。

 この企画に惹かれ、以下のような執筆陣が集まりました。

●アンソロジー「編集に怒られる!」執筆陣(敬称略)

  • 最東対地(主催者)
  • 尼野ゆたか
  • 和泉桂
  • 逸木裕
  • 川越宗一
  • 寺地はるな
  • 水沢秋生
  • 額賀澪

 各作家渾身の「担当編集に100%怒られる作品」が集まり、アンソロジー「編集に怒られる!」は無事完成しました。

「編集に怒られる!」の表紙。題字と手タレは直木賞作家・川越宗一さん。

「文学フリマ」初出店!

 アンソロジーの主催者である最東対地さんと共に「編集に怒られる!」チームが参加したのは、2024年5月19日(日)に東京流通センターで開催された「文学フリマ東京38」です。

 せっかくの東京開催だったので、私も売り子として当日は会場に足を運びました。

ブースの様子。写っているのは尼野ゆたかさん(撮影・最東対地)

 当日の私達のブースは上記のような感じ。完成した「編集に怒られる!」以外に、最東対地さん、尼野ゆたかさんの著作も並んでいます。

 12時に開場した文フリ東京でしたが、「編集に怒られる!」は開場直後から大盛況で長蛇の列。購入者には当日会場に駆けつけた執筆者のサインをプレゼントさせていただいたのですが、あまりの盛況ぶりにサインペンのインクが速攻で切れるというハプニングも。

 ちなみに私は悠長にも14時に会場についたので、ブースに来た頃には嵐のあとでした。最東さんから「売れすぎてパニック! サインペン買ってきて!」というヘルプが届いていたのですが、到着してみると最東対地さん、尼野ゆたかさん、逸木裕さんがヘロヘロになっていました。

ブースに飾っていた執筆陣のサイン(撮影・最東対地)

 その後もお客さんが途切れることはなく、「編集に怒られる!」の在庫はどんどん減っていきます。

 ちなみにこの日用意していた部数は180部。同人誌即売会、それも初参加のブースとしてはかなり多い方です。最東さん曰く「やる気満々で大量に作っちゃったみたいで恥ずかしかった」だそうです。

 しかし、SNSで刊行情報を知ったお客さんが次から次へとお越しくださり、180部の在庫はイベント終了までに無事完売となりました。

箱に入りきらなくなってしまったお金(撮影・額賀澪)

読者に本を手渡しできる経験

 無事はじめての文学フリマを終えてまず思ったことは、読者に直接本を手渡しできる経験は、とても楽しいということです。

 実は小説家というのは、自分の本が買われていく瞬間を見るということがほとんどありません。新刊の発売日に書店でいくら見張っていようと、「あ、私の本を買っていってくれた!」なんて瞬間に巡り合えることは稀です。

 SNSなどで自分の本の感想を見かけることはあるけれど、実際に自分の本を手渡しで売ることはまずない。しかし、文学フリマではそれが体験できるのです。

 

「いつも読んでます!」「刊行を楽しみにしてました」「次の新刊も買いますね」

 そんな声をかけてもらいながら、自分達の手で作った本を売るというのは、とてもいい経験でした。

 一見すると「プロ作家のお遊び」に見えるだろうけれど、プロとしての仕事のモチベーションを上げてくれる、そんな機会だったと思います。プロ作家達がわざわざ同人誌を作って参加する理由が、自分で参加してみてよくわかりました。

アンソロジーのために書いた「小説家デビュー1年目の教科書」の扉ページ。

🖊️「文学フリマ」開催情報

次回開催「文学フリマ香川1」
開催:2024/7/28(日) 11:00〜16:00 (最終入場15:55)
会場:高松シンボルタワー展示場
入場無料
イベント詳細

出店受付中「文学フリマ東京39」
開催:2024年12月1日(日) 12:00〜17:00 (最終入場16:55)
会場:東京ビッグサイト 西3・4ホール
出店受付:2024/8/27(火) 23:59 まで
イベント詳細

 シンクロナスでは、額賀澪さんによるコンテンツパック「拝啓、小説を書いてみませんか」を配信中です。小説を1本書き上げるまでをアシストする動画講座に加えて、小説家の仕事の舞台裏が覗けるコンテンツなどを毎週更新。小説家志望者はもちろん、本に関わる仕事に興味がある人にもお勧めです!

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