対談をとおして、日本スポーツやサッカーの価値を上げていくヒントを探し、できる限り実践していく。岡崎慎司の始めた「Dialogue w/ 世界への挑戦状」は、そんな思いを持って立ち上げられた。

 開始に当たって3月30日にlive「いま、コンテンツを始めようと思った理由」を配信。そのときの模様をアーカイブでお届けする。

「サッカー選手」という立場で“何か”をしたくなかった

――今回新しいコンテンツを始めるにあたってお話をいただければと思います。「岡崎慎司 Dialogue w/世界への挑戦状」というテーマについてお願いします。

岡崎 まず(前提として)、すごい壮大なテーマに見えるかもしれないですけど、やることっていうのはすごくコツコツやっていこうと思っています。

 もともと僕自身、いろいろやってきてはいて、それをサッカー選手という立場を利用して、あんまりやりたくなかったっていう(思いが)ありました。

 ただ、最初(からそう思っていたわけではなくて)サッカー選手という立場で「発信していこう」っていう思いがあった時期もあって、みんな知らないかもしれないですけど、僕、YouTubeを始めるの早かったんですよ(笑)。

 それこそマインツでプレーしてたときに(2013-14、14-15シーズン)、試合ごとに僕が1分間ぐらい反省を述べたりとか、フェイスブックで。

――知りませんでした。

岡崎 そうなんですよね。YouTubeでも企画をメディアの人と一緒に考えて、サポートしてもらって、佐藤由紀彦さん(清水エスパルス、FC東京、柏レイソルなどでプレーし14年に現役引退。現在FC東京コーチ)という僕の尊敬する先輩と対談とかしてみたり。

 結構、自分でも動いてみたり、(他にも)バラエティに出たりとか、若い頃はそういうことも大事だなと思ってやってきたんですけど、やっぱり何だろう……疑問に思うことが結構あった。

 それは自分がこう……、サッカー選手としての立場を使ってやることっていうのが「僕の評価」にしか繋がらないっていうことがある程度わかってくる。

 例えば記事とかにしても、もっと自分がやったことをデータにしたり、フィードバックしてくれたら、っていう思いの方が僕は強くて。もちろんメディアとして「ダメだった」か「よかった」かっていうのを(評論)してもらうのは正当だと思うし、それがメディアの価値だと思っています。

 そうなんですけど、何か違ったところで僕らを分析して、「じゃあこう考えてるんだったら、こうしないように次の選手たちはこうしていった方がいいんじゃないのか」っていう議論とかがされているのかなっていうのがちょっと疑問に思ったりしていました。

(だから)選手として発信することの限界っていうのはあった。

 要は自分の立場から言うことはなかなか伝わりにくいことがあるのかなっていうのは、何か肌感覚では理解していて、だからこうあんまり言わないようにしていたんですね。

――なるほど。

岡崎 そのサッカーの中で自分のアカデミーを立ち上げて。後で話したいんですけど、同級生の相方と一緒に会社始めたりとか、サッカーのアカデミーを作ったりしたのも、そういう「背景を出さずに」やることによって、そこを理解できるなと思って始めたんですけど、そういうのを含めてこっそりやっていこうっていうのがあって。

 僕は現役引退したら、表の舞台に出るんじゃなくて、どっちかっていうと、地域のサッカークラブとか、いろんな現地に行って(いきたい)っていうのは頭にあったんですけど。そういうのを考えていて、今回シンクロナスで、メディアの新しい価値だったりとかという話を聞いたときに、これは自分も同じように考えて、ここで何か新しい価値を「自分」じゃなくて、他の人にアイデアだったり、何かそういうものを掘り下げて生み出していけたら、もっといろんなものにつながるんじゃないかっていうのが(あった)。

 要は自分の経験がいろんなヒントになっていくっていう場になるんじゃないかっていうのは、このコンテンツの話していくと、可能性があるなっていうのをすごく感じたんですよね。

「人と人」がかかわっていかないと、価値は生まれない

――ありがとうございます。めちゃくちゃ(プレッシャーで)胃がキュッってなりました(笑)。

岡崎 いやいや(笑)。結局人と人が関わってないと何かやろうっていうのは生まれないっていうのは、自分の中で絶対的なところがあったんで、そこの僕の立場とかっていうよりは、いろんな立場の人と話し合って、じゃあなんでだろうとか、こうしたらいいんじゃないかっていう議論みたいなコミュニティー的なものは、何かできたらいいなというのは感じましたね、一緒に話してて。

――ありがたい限りです。話がそれちゃうかもしれないですけど、僕が岡崎さんを一番最初に取材したのは、実はエスパルスの頃で、それ以降で長くお話させていただいたのは、『未踏』というレスターが優勝したときの本を作らせていただいた時です。

 そのときに岡崎さんがレスターであれだけ強いチーム、ミラクルレスターって呼ばれたチームで軌道に乗っているから「ポジティブなモチベーション」であふれているのかと思いきや、とにかく日々悔しくてたまらないっていうオーラが出ていました。「これが本当のアスリートなのか」っていう姿を見た気がしたんですけど、チームが良くてもやっぱりFW、ストライカーとして結果を残したい、みたいなそういう気持ちっていうのは、(自身のプレーの)原動力や、今回の伝えたいっていうことも含めて力になっていたりするんですか?

岡崎 それはあのときの原動力がってことですか?

――あのときも今も含めて。そういう「悔しさ」「満足しない」っていう部分ですね。(当時から)思っていたんです、岡崎さんっていつ満足するのかなって。ある程度アスリートの方も何かを達成したとき――たとえば今回のワールドカップ出場決定もそうですけど、達成感はあると思うんですよね。

 プレミアリーグで優勝するっていうあの経験をもってしてもまだまだ(というのは)……。(優勝が決まった)あのチェルシー戦の後の顔が忘れられないんですけど。

岡崎 あれは新記録、――「途中交代する新記録」を作れるはずだったんですけど、ラニエリのおかげであれは(笑)※。

2015-16シーズン、岡崎慎司は途中交代25試合を記録。リーグ最多に並んでいた。最終戦のチェルシー戦で途中交代をすれば26試合となり新記録となるはずだったが、ベンチスタートとなり記録更新はならなかった。岡崎が「笑い話」として振り返っている。

 まあ、でもあの立場っていうのはいい経験だったというか、要は「いろんな選手たちの動きを見てサポートして、守備にも貢献して、でも最後は点を取りに行く」っていうのは自分のためにやっていて。

 自分のためにやるからこそ、人のために走れるっていうのは、「人のためにやっていたらできないこと」なんだなって、あれで理解できたというか感じたんです。

 結局、僕はあのすごい選手たちの中でこいつらのために動いたら最後自分においしいところまわってくると思えたから頑張れたっていう部分があるんですよね。だから結局それって自分のためにやったからだと思うんですけど、その感覚で今にも影響してくるんですけど。

 あのときは「未到」で、今も当然「未到」なんですけど、それは変わらないんですけど、あのときのように、それが成功体験っていうか、どっちかというとそれって1つの答えだと思ってやっていて。

 プレミアリーグはそれでやって、スペインに来てもどこかであのときの、これで自分は答えを見つけたっていうのは僕の中ではあったので、結構、受け入れていた。その中でどうゴールを取っていくかっていうのをスペインでもやって今に至るんですけど……それが、このカルタヘナっていうチームに来て、(シーズン前半は)FWをやりたいけどサイドとか、トップ下を任されていて。それでも最後どうやったら自分がゴールを取れるかっていうイメージはついていたので、レスターのときと同じようにそうやってやっていた。

 でもそれで例えば60分で交代させられたりとか、ボールを受けてはたいて最後ゴール前に入っても、(自分のところに)ボールが入ってこなかったっていうのが何度も続いて。

 プレミアのときはプレミアのときでそこでおいしい思いができたっていうのはあったけど、じゃあそれが最終的にそこで自分が貢献できて、最後自分がゴールっていうことにつながらなかったときに、そこでやることのモチベーションがなくなっちゃったんですよね、一回。

 それがこの冬というか、去年の冬ぐらいで。

 やりがいって何だろうっていうことを考えてしまって1回。何をしに俺は(カルタヘナに)来たんだろうってスペインで。やっぱりワールドカップに出たいし、みたいな。

 もう1回リセットしようと思ったんですよね、ちょっとウィンターブレイクがあったので。そのときに1回リセットして自分の中で整理して、どうやったら自分が楽しめるのかっていうことを1回考えたんですよ。

 それって今まであんまりなかったんですけど、「チームのためにっていうのを受け入れてどうやったら活躍するのか」っていうことは今までやってきたんだけど、「すべて自分のために動こう」っていうか、自分のために動こうっていうか……。

「自分がどうしたら楽しめるのか」っていう状況を作って、それを監督と話して、「僕はFWとして競争したいです」っていう話をしたりとか。今までやったことないことを始めたんですけど、そうした後に練習していくと今までにない充実感というか、監督には自分のやりたいこと伝えているから自分が本当にやりたい動きをやれる。

 サイドでやっていてもじゃっかんFWの位置寄りにいながら。もちろん求められることはやるんだけど、サイドのところでゴールを取ろうと思う力は残しておくとか、そういったちょっと自分が、感覚なので言いずらいですけど、なんとなく余力を残して自分のためにやれる力を蓄えておくというか。

 動き回って疲れた状態でゴール前に行くとしんどかったりするし、年齢的にも、それが成長につながると思って、シュツットガルトからレスターのときもやれたんですけど、やっぱりそうしてると最後力がなくなって、この状態でどうやってゴールを取るのかって思ったりするとやっぱりある程度本当に少ない動きで動き出してみたいな。

 そこらへんは一緒にプレーしている40歳のFWのルベン・カストロっていう選手がいるんですけどそういった選手もみながら、こうやればゴール前で力が発揮できるのかとか。

 そういうことばっか考えていると本当に周りのこととかどうでもよくなるんですよ。

 やっぱり自分の技術とか、自分の動きを極めようとする。これってなんか新しい感覚だなって思って、今は充実、サッカーを充実させようというかができてて。

『未到』のときみたいに苦しい先にゴールがあるっていうよりは、楽しくやってゴールを目指すみたいな、新たな気持ちが芽生えて、これって自分の成長してきたことを全部、受け入れて自分が生き残るためにやってきたっていう自信があるんですけど。

 でもそれって日本人っぽくて自分の中ではそれが自分の良さだと思ってやっていたんですけど、そういったものを疑ってみるっていうのを今はやっていて、逆に(自分のキャリアの中で)それがなかったらっていう逆算で考えると、今、海外にいる選手たちがぶつかっているところは絶対そこだったり、今、活躍していてもまた違うチームに行ったらぶつかるところがそこだったりするんだったら、もっと早くから伝えられていたらとか。

 もっと育成の段階で「こういうことになるよ」って、指示だけを与えてこうやれ、ああやれとか、チームのために戦えっていうのが結果、僕のようになるっていうふうにつながるんだったら、もっとポテンシャル、個人に焦点をあてられるようになったらいいなとか。

 そういったことも時間があるから考えてしまうようになったというか。

 そういったところもあって育成のところにはもともと興味はあったんですけど、そこから結構いろんな記事を読みながら、日本の人たちもすごい良い記事があったりとか、良いことチャレンジしている指導者の方もたくさんいて、だからそういったことがあるのにヨーロッパのサッカーっていうものをどうやったら日本の人たちに浸透していくかとか、そういったことを考えたときに、このコンテンツでもそういったことを話していけるなって。

 僕の目線で話すんじゃなくて日本はどうなっているのかっていう話を自分が聞いたときに、また自分がどう感じるのかとか、みんなで作り上げていくっていうのがこういうものなのかなっていう感覚だけですけど、今はそこにいますね。(live配信の13:38~28:54を再編集したもの)

続きは【動画】からお楽しみください。

動画内容/ヘッドライン

総再生時間:1時間32分18秒
  • 「Dialogue w/~世界への挑戦状」について
  • 日本代表ワールドカップ出場決定の報を聞いて
  • 代表メンバーで一緒にプレーすることを想像できる選手は?
  • FCカルタヘナと日本の関係
  • 海外でプレーするうえで必要な「環境」とは
  • サッカー選手という立場で発信したくなかった理由 ☜以下・記事掲載中!
  • レスター優勝の瞬間にあった「悔しさ」
  • 自分のために「人のため」にプレーできた
  • FCカルタヘナで変えた「楽しくやってゴールを目指す」
  • トゥヘル、ラニエリ……選手にとっての当たり外れがある
  • 「チームのために」やれる選手がそれ以上を求められない問題
  • 成長のために「何を大事にしなければいけないのか」
  • ヨーロッパのサッカーはなぜうまくいけたのかを考える
  • 「世界への挑戦状」に込めた意味
  • 【質問】
    Q1.
    こんばんは。岡崎選手の大ファンでもう10年以上推しています!私は大学で女子サッカーをしているのですが、なでしこジャパンが優勝したことによって女子サッカーが有名になったのですが、やはりまだまだ環境が整っていないのが現状です。私もサッカーが大好きでずっとやりたかったのですが、中高と女子サッカーができる環境がなく、サッカーから離れてしまいました。岡崎選手のように男子サッカーで有名な方が男の子だけでなく、女の子にもサッカーを教えたり、チームを作っていただけたりすると、またそれによって女子サッカーというものが広がるのではないかと思っています。
  • グラウンドを地元・兵庫に作っている理由
  • 【質問】
    Q2.先程ヨーロッパではスポーツがなくてはならないものに感じるとのお話がありましたが、これまでドイツ、イギリス、スペインでご活躍をされて、どの国が一番スポーツが身近に感じられましたでしょうか。
  • 【質問】
    Q3.日本人指導者と外国人指導者でどこに違いを感じますか?
  • 【質問】
    Q4.
    イングランド、ドイツ、スペインと日本。スポーツの社会的地位の違いを感じますか?
  • 「チームの中で団結する」の内実
  • レスター時代の「ウジョアごめん!」
  • マインツ時代の15得点後、自動車教習所で誰にも気づかれなかった
  • 【質問】
    Q5.
    トーマストゥヘルはどんな監督でしたか?

👇動画はこちら👇

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