遠藤航W杯レポート 1.揺れた脳とギブス
アルゼンチンの優勝で幕を閉じたカタールワールドカップ。日本代表は戦前の予想を覆しグループステージを首位で突破するも、決勝トーナメントでクロアチア代表に敗れ目標としていた「ベスト8」には届かなかった。
グループステージ(結果と遠藤航の出場状況)
11月23日 vsドイツ(〇2対1)※先発フル出場
11月27日 vsコスタリカ(●1対0)※先発フル出場
12月3日 vsスペイン(〇2対1)※後半87分から出場
決勝トーナメント(結果と遠藤航の出場状況)
12月6日 vsクロアチア(△1対1 PK戦の末敗退)※先発フル出場
遠藤航にとってこのビッグコンペティションはどんなものだったのか――。知られざる「事実」とともに、シンクロナス編集部が書く「遠藤航の22日」。
1-1「コスタリカ戦後の+2秒」
+2秒……? 嫌な予感がした。
ワールドカップ・グループEの第二戦。日本代表はコスタリカに0対1で敗れた。
スタジアムから引き上げる道中。
初戦でドイツに「ジャイアントキリング」を演じた反動もあってグループリーグ突破へ悲観的な言葉がそこかしこから聞こえた。
「ドイツとスペインが引き分けたらやばいよね」
「スペインに勝つのは難しい、引き分けすら……」
「なんでコスタリカに負けるんだよ」
「まあ、でもよくやったよね」
試合会場となったアハマド・ビン・アリ競技場は、日本が戦うグループステージのスタジアムのなかで、最もドーハ(※カタールの首都)から離れている。訪れた日本人サポーターの失意の帰途は、その分だけ長かった。
試合後の選手たちも同じだったはずだ。危機感といったほうがいいかもしれない。
それはバスから降りてホテルに入るまでの10秒足らずの表情からうかがい知れた。
選手たちを鼓舞しようとホテルの前に集まったサポーターに、いつものように笑顔を向けるものはいない。軽く会釈をする選手、だまって前を向いて歩く選手、うつむき加減に歩を速める選手……。
バスがホテルに到着したのは16時40分。15時前に終わった試合、その2時間弱で消化しきれる「敗北」ではなかった。
遠藤航の表情はどうだったか。
姿を現したのは、ほとんどの選手が降りた後だったと思う。
思う、と書いたのはそのときの姿に気持ちが“もっていかれ”、その後どのくらいの選手が出てきたか、記録し忘れたためだ。
遠藤は右足を引きずっていた。
冒頭の「嫌な予感」は、バスを降りて地面に足をつけた、最初の瞬間に訪れる。堅い表情で、他の選手より明らかにゆっくりとホテルの入り口へと向かった。
その長さ、+2秒。ほかの選手が10秒程度でたどり着く入り口に遠藤は12秒かかった。
「ケガ……?」
思わず声が出た。
長い間、遠藤の取材をしているが、彼は何より体が強い選手であり、海外でプレーするようになって以降は、そのレベルが一段上がっている。事実、2019-20シーズン、20-21シーズン、ブンデスリーガを欠場したのは2試合(累積とコロナ罹患による欠場)。それ以外はすべて先発で出場し、ほぼ90分を戦っている。
加えて、東京五輪、カタールワールドカップアジア最終予選も先発出場を続けた。それでも、この2年でケガに関する報道は一度あったきりだ(それも股関節の違和感で、結局休むことなく試合に出ている)。
体が強いことに加え、痛みや疲労を人前では決して見せないタイプでもある。
そんな遠藤が明らかに足を引きずり、歩くペースを落としていた。
果たして、遠藤航はそれから三日間、スペイン戦まで一度も全体練習に参加していない――。
※ ※
翌日。...