小説家・額賀澪が教えるオンライン動画講座「「書き上げる力」が身につく小説の書き方」。動画でお送りしている講義内容を、編集部による書き起こし記事でお送りします。
今回は、第5回「物語を実感させるには」の内容をお届けします。復習としてもお役立てください!
【内容】
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物語は説明するのではなく実感させる
- 説明をエピソードに落とし込む
- 説明セリフに逃げないためには
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描写の役割は読者に実感を届けること
- よい描写のために考えるべきこと
- 小説家は描写から逃げられない
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主人公は物語のナビゲーター
- ナビゲーターとして優れた主人公を作るコツ
- 読者との理解度の差を埋めてくれる主人公
- メディアとしての視点の違い
- 物語の最適な形とは
- 描写が説明的になっていないかチェックする方法
▼動画で見る
【小説の書き方5】退屈な設定羅列や説明セリフ… どうしたら面白くなる?
▼9月の講義内容を読む
【編集部より】物語のセットアップ、視点と人称など 9月の講座内容を総復習
>>「書き上げる力」が身につく小説の書き方〈講義編〉全16回 要約を読む
物語は説明するのではなく実感させる
小説を書く際に頭に入れておきたいことは、小説は読んでいる人に物語を実感させるために書くものである、ということです。
ファンタジー小説を読む場面を想像してみてください。表紙をめくり、冒頭を読み始めたところで、そのファンタジー小説の世界観について長々と説明されていたら、続きを読みたいと思いますか?
物語を説明するということは、物語を実感させることと対照的なことなのです。
例えば、ファンタジー小説の設定を作るとします。王様が治める国があり、その国は隣の国と長年戦争をしている。戦争が多かったせいで、国全体が荒廃し、疫病も流行っている。そういう世界観があるとします。
今説明したようなことを、書き出しの1行目からやってしまうことは結構ありがちです。なぜなら、物語を説明することはとても楽だからです。このように小説の世界観について説明すれば、読者に必要な情報を与えてそこからお話を始める、ということができるからです。
しかし、書き手としては楽なのですが、おそらく皆さんは、私の言った話を物語として実感できていないと思います。ただ説明文を頭に入れたという状態なのではないでしょうか。
そうではなく、読者に物語を実感させるためには、エピソードが必要なのです。
説明をエピソードに落とし込む
「王様が治める国があり、隣の国と戦争しているため国全体が荒廃し、多くの人が貧困にあえいでおり、疫病も流行っている。あまり平和な国ではなく、荒んだ光景が広がっている。」この情報から、読者に実感させることができるエピソードを作るにはどうしたらいいでしょうか。
わかりやすく伝えるために、今の説明をエピソードに落とし込んでみます。
先ほどは「王様が治めている国があります」という説明から入りました。
これを「名前もわからない主人公である少年が、王都に続く街道を歩いている。その街道はかつて綺麗だったかもしれないが、今はボロボロで、道端に物乞いをしている子どもがいたり、生き倒れて死んでしまった人の遺体がそのまま放置されていたりする。そこを歩いていく主人公は、物乞いをしている子どもや行き倒れてしまった遺体に特に心を痛めることなく、ただ歩いていく」というシーンとして書いてみましょう。
こうすると、この国が王様によって治められていて、隣の国と戦争をしていたり、疫病が流行っていたりすることは一切説明していません。
しかし、あまり平和とはいえない荒廃した国で、主人公は、そういった状況にいちいち怒りや悲しみを感じることがないほど、その環境や光景が当たり前になってしまっているということが、読者に伝わるのではないかと思います。
物語の導入で伝えるべき、どのような場所で主人公が生きているかという情報は、このエピソードによって読者にしっかりと伝えられています。
これが、物語を実感させること説明することの大きな違いです。
そのためには、導入で読者に何を実感させるべきかの優先順位をつける必要があります。そして、物語の中で読者に優先的に伝えるべき要素を抜き出し、それを説明するのではなく、エピソードとして見せるべきなのです。このことを書き手が理解することが、小説を書く上で特に重要なポイントです。
説明セリフに逃げないためには
物語の設定を冗長に説明するのはよくないと話しましたが、同じようにやってしまいがちなこととして、「説明セリフ」があります。
説明セリフとは、読者に説明しなければならない要素を、すべて登場人物にセリフとして語らせてしまうということです。なぜ説明セリフを多用してしまうかというと、これがとても楽だからです。もちろん、必ずしも説明セリフを使ってはいけないということではありません。必要な場面もあります。ただ必要以上に説明セリフを使うのではなく、それをエピソードに落とし込む方法を考えることが大事です。
説明セリフを描写やエピソードに変換する例をあげます。
不良の生徒で、他校の不良とよく喧嘩をしていて、学校でも問題児といった主人公を書くとします。物語の書き出しで、その主人公が放課後の教室で担任の先生と面談しています。ここで担任の先生が、「お前は今日も他校の生徒と喧嘩をしたらしいな。いくら小学校の時にお母さんが亡くなったからといって、そういう生き方をするのはよくないぞ。お母さんも天国で泣いているんじゃないのか」と言ったとします。
これは、主人公のことを、全部先生に説明させていますよね。これが説明セリフです。これを違う方法で見せるとしたら、どうしたらよいでしょうか。全く同じシーンで書いてみましょう。...