世の中にあふれるたくさんのデータに注目し、正しい意味や活用方法を、ジャーナリストの長野智子さんとともに検証していくコンテンツ『データの裏側』。
今回は、よく目にすることも多い「No.1」表示についてフォーカス。第1回では、日本マーケティング・リサーチ協会事務局長の小林恵一さんに、現在氾濫している「No.1」調査の実態について伺いました。
文=シンクロナス編集部
長野智子さん(以下、敬称略) 世の中には、ランキングがあふれていますよね。例えば、学生に人気のある企業ランキング、音楽・映画のランキング、住みたい街ランキング…etc. 私はアンチエイジングや美白などNo.1という表示が、とても気になってしまいます。
中には「そんなランキングあるのか?」といった調査もありますよね。そこで今回は、ランキング1位やNo.1表示の裏側に迫っていきたいと思います。
お話を伺いますのは、商品やサービスのいわゆるNo.1表示の問題に詳しい「日本マーケティング・リサーチ協会」事務局長・小林恵一さんです。よろしくお願いいたします。
小林恵一さん(以下、敬称略) よろしくお願いいたします。
世の中に「No.1」があふれている!?
長野 まずはこちらをご覧いただきたいと思います。インターネットなどで目にするランキングNo.1を強調する商品広告です。「オンライン家庭教師 利用者満足度第1位」とか「サプリメント市場売上No.1」など、私なんかも気になって仕方ない感じの文言です。
マーケティング・リサーチ協会では、こうした「No.1表示」というものが氾濫しているこの状態を、大変危惧されていると伺ったのですが──。
小林 こういう形で強調されていることの根拠が正しいものかどうか、問題視しています。恣意的にNo.1にするような調査をすることで、No.1に仕立てられているものが実はたくさんあることが分かってきました。
長野 No.1ありきのような、怪しい調査もあるんですか?
小林 No.1に関しては、消費者の皆さん飛びつきはするんですけれども、本当に正しいものかどうかというところまでは見ていない。つまり、騙されてしまっているケースがかなり多いんですね。
中身を見ると、「あれ、おかしいな?」「なんかこれ変じゃないの?」というものがたくさんあるはずなんですが、「○○No.1」だけを見て「これだったら私は安心して買えるわ」と買ってしまって、よくよく見ると「なにこれ?」という注釈が入っているんですよ。
長野 細かい注釈がついていれば、ちょっと怪しくても追及されないわけですね。美白でNo.1のものを買って、別の商品を見たらそれにもNo.1とついていて、「No.1だらけじゃん!」という時、ありますよね(笑)
「No.1」を作り上げる裏側とは?
長野 過剰広告が注意されたようなニュースはよく見ますけれども、マーケティング・リサーチ協会では去年、非公正な「No.1調査」への抗議状を出しました。この抗議状を出すことになったきっかけは、なんだったんでしょうか?
小林 以前は我々も対岸の火事だと思っていたんですよ。しかし2021年の秋ごろから、「No.1調査」についての問い合わせが来るようになったんです。
どこどこの会社から「No.1調査をやりませんか? これくらいの金額でできますよ」と話を持ちかけられたところから具体的に話を聞くに従って、「とてもじゃないけど、このまま放置しておいたらまずい」と抗議状を出すに至ったんです。
長野 ちょっと待ってくださいよ。ということは「お金を出したらNo.1調査をします」っと言って来るということですか?
小林 そうなんです。
お金を出せばNo.1になれる? その構造は……
長野 では、細かな構造について伺っていきたいと思います。
小林 関係するところ調査をする調査会社と、広告を出す広告主の2つあって、最近はその間に広告代理店が入っていることもあると分かっています。本当に一方通行です。
言葉選びますけれど、悪さをする調査会社のことを私自身は「調査もどきの会社」と呼んでいるのですが、調査もどきの会社の方がまず広告主に対して「No.1調査やりませんか? No.1取れますよ」と営業活動をしているんですね。
特に多いのが、地方なんです。調査もどきの会社も情報を得ているのか、慎重になっているのかわからないんですけど、広告主はできるだけ規模が小さなところ、いわゆるコンプライアンスの部門がないようなところを狙っているんです。
首都圏ではある程度の規模になるとコンプライアンスが広まっていて、アプローチをかけても「何を言っているんだ」となりますが、地方に行くとなかなかその情報が行き届いていないことがあるんですね。
そこで、地方の企業に向けて話を持ちかけて、地方の人も「このエリアだったらNo.1と言いたいよね」と受けてしまう構図があります。
長野 1位になるための調査があるんですか?
小林 あります。1位になるまでの調査というのは、まず最初に普通に調査をしてみます。すると広告主の商品が3番目になりました。これではNo.1でないので、一旦この調査をやめます。
そしてもう一度、同じ調査をするんですね。その時には上位だったAとBの商品をアンケートから外します。その時にCの商品が1位になればいいのですが、AとBの代替商品が上位に来てしまったら、またその商品を外して3回目の調査をやるんです。というような形で、広告主の商品が1位になるまで調査を繰り返します。
長野 なるほどね。その瞬間は1位になっているから、正統的に1位なんですね。
小林 そう言ってしまうんです。ただ、そこには商品を外すという恣意性が入っているわけですよね。これは公正な調査とは言えないわけです。
長野 他にも1位調査のやり方はあるんですか?
小林 わかりやすい商品の特徴を挙げて調査をかけて、その中で広告主の商品が1位になる項目があるかどうかを見ていくやり方もあります。
「毎朝飲みたいものは?」では1位にはなれなかった。「飲みやすいものは?」も1位にはなれなかった。しかし「友人に勧めたいものは?」では、ほかよりも有利だったのでその部分だけを取り上げて、「友人に勧めたい野菜ジュースNo.1」と言う。
1回目はいくつかの項目を出すと思うんですけれども、2回目以降は項目を絞ってくるんです。絞った項目の中で1位が取れれば、その時点で「No.1取れました」とするやり方です。
長野 なるほどね〜。
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