世の中にあふれるたくさんのデータに注目し、正しい意味や活用方法を、ジャーナリストの長野智子さんとともに検証していくコンテンツ『データの裏側』。

 第1回第2回では、No.1を仕立てていく「もどき調査」の実態を日本マーケティング・リサーチ協会の小林恵一さんに伺いました。今回は、「なぜ日本人はNo.1に踊らされてしまうのか?」。 日本人の習性や取り締まりの現状について、教えていただきました。

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文=シンクロナス編集部

調査会社は処分なし!? 怪しいNo.1取り締まりの限界

長野智子さん(以下、敬称略) 取り締まりの現状として、最近こんなことがありました。今年1月消費者庁が家庭教師大手に対して、裏付けがないのに「利用者満足度第1位」「口コミ人気の第1位」という宣伝をしたことが、景品表示法違反に当たるとして、再発防止を求める措置命令を出したというものです。

 

 調査は実際に行っていたということですが、小林さんがおっしゃっていた実際には利用していない人も回答可能な形式で調査したということで、利用者満足度第1位と宣伝したということです。

 処分されたのは家庭教師大手と書いてあるんですけど、調査もどきの会社は処分されないんですか?

小林恵一さん(以下、敬称略) されないです。

 

長野 えっ! なぜ?

小林 今の法律上では、処分されるのはあくまでも広告主なんです。このNo.1表示もそうなんですけれども、基本的には景品表示法という法律があるのですが、そこでは調査の詳しいところまでは言及していないんですね。

 あくまでも公正な調査という言い方をしているんですが、もどきの会社が公正な調査をしていると主張してしまえば、それ以上のことは言えなくなってしまう。

 

長野 これ、どうにかならないんですかね?

小林 やはり今の法律を変えてもらわないといけないのかなと思ってます。

長野 今までの話をまとめると、調査もどきの会社が「これだけお金出していただけたらNo.1にしますよ」と言って、ついつい乗っちゃう。

小林 悪質だと思います。もう数年前になりますけれど、実際に行政処分を受けたある広告主は、倒産をしました。まあいろんな投資をしたこともあったというのは後で聞いていますけれども、やはり悪評が広がったことで資金繰りが上手くいかなくなって、倒産したというケースはありました。

長野 調査もどきの会社が処分されないということは、そのまままだあるってことですよね。

小林 あります。

長野 ということは、そうなってしまう広告主がこれからも増える可能性もありますよね?

小林 そこをなんとかしたいんですけれども、我々も手出しはできないんですよね。

長野 消費者庁はこれに関しては何か言っているんですか?

小林 消費者庁も監督官庁と言いつつも、法律に則ったことしかできないですよ。それを超えることができないので、法律を変えてもらうしかないとなってしまうんですね。

長野 そこを急がないとダメってことですよね。

「イメージ調査」は要注意!

長野 マーケティング・リサーチ協会さんがまとめられた資料による「怪しげなNo.1調査会社」の最近の特徴を説明していただけますか?

小林 「一番満足度が高いのはどこですか?」のようなイメージ調査なんですけれども、イメージで答えたものが、実感しなければいけない言葉に置き換わっているかなんです。

 No.1に注釈のようなところで「イメージ調査」と書かれているものが結構あるんですね。「イメージ調査」で「満足度No.1」と出てきたら、怪しいと思ったほうが絶対にいいです。

 

長野 「イメージ調査」というワードですね。それをちゃんと確認しなきゃいけない。

小林 イメージはイメージですよね。「顧客満足度No.1」はありえないです。

長野 そうですよね。こんな簡単なことに引っかかっちゃうんだよな……。

小林 これがよくあるNo.1のチラシなんですが、ここに小さく──。

 

長野 本当だ! 「イメージ調査」とありますね。ちょっと待って、私の目はもう老眼で見えないぐらい小さい(笑)!

小林 No.1が大きくて、調査した機関がそこそこの大きさになり、イメージ調査はこの小ささ。そこまでみんな見ないので、ついつい「No.1だ」と思ってしまう。

長野 いや、これはわからないですよ。

小林 今の景品法はそこまでがセットにならないと表示上マズいんですよ。

長野 ちなみにこれは「買取査定の満足度が高いブランド買取専門店第1位」のイメージ調査ですね。

 

小林 企業名を一番上に持ってきて、そこ選べるように仕向けているパターンだと思います。

長野 本当に簡単に物を買おうとしすぎ、私もそうだけど消費者もね。昔は自分で店に行って手に取ってから買っていましたよ。今はもうネットだと、とりあえず皆が使っていて良さそうなものをポチっと。何でも手を抜きすぎですね……。

小林 そこが日本人の特性で、No.1に弱いというところなんです。これだけNo.1表示が世の中に広まっているのは日本しかないんですよ。世界各国を見ても、そんな国はないんです。

 やはりこれは日本人の特性だと思うんですけれど、自己主張が弱いじゃないですか。どちらかというと「長いものに巻かれろ」的なところがあるので、どうしても迎合しやすい。

 よくあるのはスーパーに行って、今日の食事をカレーにしようと思ってルーを選びに行った時、No.1とあれば、ついついNo.1を手に取っちゃうんですよ。なぜかというと「失敗したくはない。みんなが支持しているものがこっちなら、冒険するよりはこっちの方が安心だよね」と購入するんですね。

長野 なんとなく、分かるなぁ。海外の人はスパイスをなんとかとか、人によって味の好みが違うから自分はとなるけど、日本人はある程度一定みたいな。

 

小林 失敗したくないから、みんなが使ってみんな支持しているものが安全だよねとなる。それでNo.1がこれだけ広まっているんです。

長野 ランキング大国みたいな……。他に特徴的なパターンと言うと?

小林 調査機関名です。これを明示せず、アンケートモニター提供元という書き方をしてたんですね。アンケートモニター提供元というのは、調査をかけているのは別の会社なんだけど、アンケートモニターの会社のモニターさんを使っているだけで、あたかもそのモニター提供元になってしまっているんです。

 基本的に景品法では調査機関名を書かなければいけなくなっているんです。ただ、中身まで追及されるわけではないので……。

 また、「No.1が取れなければ費用返金します」ですね。実際にある企業さんから「No.1取れなかったら返金すると言われてるんだけど、本当にそれ信用できるの?」と問い合わせがありました。

公正なNo.1調査をどうやって広める?

小林 今、私は悪いことばかり話をしているんですけど、真っ当な調査会社がやっているNo.1はあるんです。そこを見極めていただきたいんですよね。

長野 真っ当なところはどこを見ればわかるんですか?

小林 例えば企業さんのホームページ上で、このNo.1はこういう調査の結果でNo.1もらえていることを明示してもらう。そうすれば、疑っている人たちもそのホームページを見て納得してもらえればいいんですけど、そこがまだできていないんですよね。

 我々の方は企業さんに「できるだけホームページ上に載せてください。そうしないと、いいものも悪いものも一緒くたにされてしまいますよ」と働きかけをしていかなければいけないと思っています。

 No.1の根拠「何をもってNo.1と言っているのか」まで、一般消費者の皆さんも追求してほしいですね。抗議状を出したことによって、いろんなメディアの皆さんが取り上げてくださり、いろんな形で広まってきているような気はしているんです。

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