世の中にあふれるたくさんのデータに注目し、正しい意味や活用方法を、ジャーナリストの長野智子さんとともに検証していくコンテンツ『データの裏側』。

 今回のテーマは「幸せ」について。果たして、「幸せ」をデータ化すことはできるのか?” 幸せ研究の第一人者・ハピネスプラネットCEOの矢野和夫さんを迎えて、データに基づいた「人の幸福」について掘り下げます。

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この記事は【動画】データが示した幸福度が高い人と低い人、何が違う?の内容を抜粋、再編集したものです。

文=シンクロナス編集部

「幸福度が低い」日本人に足りないことは?

長野智子さん(以下、敬称略) 先日あるシンクタンクが、日本、アメリカ、中国、フィンランド、タイの5カ国で、人生100年時代に関する意識調査を行ないました。こちらがその結果です。

 

「人生100年時代において、あなたは100歳まで生きたいと思いますか?」という質問で4つの選択肢があるんですけれども、「とてもそう思う」と答えた人は、日本が一番低かった、と。

 これはよく言われることですね。日本人に聞くと幸福度低めに答える。日本人は長生きすることにも消極的で、幸福度も低い。この傾向、やはりそう思われますか?

矢野和夫さん(以下、敬称略) こういうアンケートのデータの解釈というのは丁寧にやらなくてはいけなくて、特に今の聞き方は色んな受け取り方があると思います。ただ“日本の幸福度が全体に低くなっている”。これは間違いなく、データにも出ていることなんですね。

 

 幸福度というのは、極めて主観的な現象なんです。主観というのは何かというと、「根拠がなく、未来を信じられるか」とか「根拠がなく、いろいろ経験したことを繋ぎ合わせて、ポジティブなストーリーがつくれるか」とか。そのような能力、スキルなんですね。

 

長野 性格ですよね。

矢野 いや、それをまた性格と誤解している人が多いんです。

長野 マジですか! 私はそういう性格だと自分で思っていたんですよ。

 

「幸せ」はスキル。練習すれば身につけられる

矢野 まったく違うんです。100%違うんです。(前向きな)性格と幸せをつくるスキルを誤解している。幸せというのは実はスキルで、車の運転のように誰でも練習すれば身につけられるものなんですよ。だから幸福度が下がっているのは、練習していないだけなんです。

 

長野 私はすごく前向きなんですけど──。

矢野 それはどこかの経験で練習している、あるいは人生や仕事の中で、練習の機会を得ているということなんです。

長野 うわぁ、そうなんだ。今聞きたいんですけど、ちょっとあとにします(笑) 要するに何が聞きたいかというと、『世界幸福度ランキング』ってしばしば出るんですけど、「これって本当にこうなの?」というのがいつも疑問なんです。他の国の人はスキルが高いってことですか?

矢野 スキルが高いってことなんです、実は。これ、シンプルなたった1つの質問で決まるんです。

「人生や生活が、10段のはしごだったときあなたは何番目ですか?」「最高の人生や最高の生活を10、最低が0としたときに、11段の中でどこにいますか?」この質問だけで決めているんですね。

 

 どんなに厳しい経済状態や境遇の中にあっても「ここが自分の人生だ」と思えば10点なんですよ。逆に、どんなに恵まれていても「自分はこんなもんじゃない」と思ったら0点なんです。つまり、主観的なストーリーの問題なんですね。ストーリーというのは、ストーリーづくりのスキルの問題なんです。

性格は変えるものではなく、活かすもの

長野 性格じゃなくて?

矢野 性格というのは、また別にあるんです。性格というのは心理学の方では100年研究されていまして、“ビッグファイブ”という5つの因子の組み合わせで表現されます。これと、先程の前向きなストーリー作りのスキルとは完全に独立しているんですね。

 

長野 なるほど。

矢野 性格というのは、先程のビッグファイブという要因のひとつが『外向性』なんですね。逆に言うと、それが低いのは内向的ってことです。これは外向性が高いのは良いことかというと……。

長野 良くないんですか?

矢野 必ずしも、そんなことないんですよ。外向的ということは、人に社交的で外で活動的だったりするわけですね。でもそれは、自分ひとりで乗り越えられないから、人に会いに行くんですね。

 内向的な人は、逆に言えば自分で乗り越えられると思うから、わざわざ人に会いに行かないわけです。どっちがいいという問題ではないんですね。

 あるいは、『誠実性』という指標があります。その言葉尻だけ取れば、誠実なのは良いことじゃないですか。ルールをきちっと守る、これもいいことですよね。でも、融通が利かない、頭が固い、と表裏一体なんです。両面あるわけです。

 性格は変えようとしてもダメなんですね、活かすものなんです。内向的なら内向的に。精神安定性が低いんなら低いということは、人の気持ちにすごく寄り添える、という特徴を持っているってことなんです。

長野 自分が欠点だと思っていることが、もしかしたらそのスキルによって圧倒的に個性や強みになる──。

標準に揃えた20世紀後半、多様性を活かす21世紀

矢野 自分も変えようとしていけないし、周りに対しても変えようとしてはいけないんです。それを活かすことが大事なんですけど、20世紀の後半には、大量生産・大量サービスの提供をそこそこの品質で、そこそこの値段でいろんな人に普及させていた。これがみんなにとっても幸せ生活の基盤を上げることになったわけですね。

長野 みんな欲しいものが割と似ていたしね。

矢野 そういう時代には、多少違いはあるかもしれないけれど、標準的な働き方、標準的な家族、標準的なキャリアパターンに「合わせてくれ」とされていた。「ちょっとそこで我慢しなきゃいけないかもしれないけど、その結果世の中は豊かになって、あなたも幸せになるんだから、そこは我慢してもいいよね」と。

長野 中流が幸せになる、みたいな。

矢野 一律なものに合わせていくという圧力があっても、そこに我慢してもしょうがないということが合理的に成り立っていたわけですね。

 ところが、今はそんなことないです。まず需要の方も多様だし変化しているし、同じものをいつまでも提供するなんてことをやっていると、すぐ赤字になってしまう。まさにダイバーシティーとかジェンダーなんかもそうなんですけど、性格も含めて人の多様性を活かして、お客さんだって本来は多様なんですから。そこにちゃんと応えていく。

 そのためには、性格や違いを活かすことが必要なんですが、そこの転換がまだまだ20世紀後半でなまじ日本はうまくいっていたために、その習慣や制度が今も残っているんです。

 だいぶコロナや経済力が落ちたこともあって、変えなきゃという機運も高まってきたとは思うんですが──。

長野 時代の変化に対して対応力というのも、一人ひとりの幸福度に大きく関わってくるってことですか?

矢野 それがかなり重要なところですよね。

長野 時代とともに、そういう風に一人ひとりが幸せになるように変えていく責任者は誰なんだろう?

矢野 一人ひとりですよ。

長野 一人ひとりが昭和のままきてしまったから、もうそこのギャップを埋められなくて、今なんとなく47位になっているみたいな──。

矢野 一人ひとりもあるし、色んなリーダーもあれば政治もあるし、企業の仕組みもそうですし、色んなところに埋め込まれているので、みんなで変えていかなきゃいけないでしょうね。

長野 経営者や職場環境づくりも極めて関わってくる話ですよね。今、いわゆるニュースに上がってくる企業あるじゃないですか。ブラックのような、昔から変わらないまま来ちゃっているから。もしかしたら他の国は職場の労働環境整備とかが進んでいるから、こういう結果になっているのでしょうか。

 

矢野 私は、その要因があると思います。

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