夏休み期間、子どもと接する時間が増えることで、子どもためを思って注意したくなる機会も多くなる。

しかし「親のよかれ」が、必ずしも子どもに良い影響を与えるわけではない。親の接し方によっては、犯罪に巻き込まれたり、夏休み明けの不登校につながる可能性もある。

今回は犯罪心理学者・出口保行氏が、非行少年との対話や心理学の知識をもとに、親がつい言ってしまう言葉が、子どもにどんな影響を与えるのかを指摘したベストセラー『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』から、その一部を再構成し紹介する。(第1回/全2回)

(文・出口保行)

 

「よかれと思って」が犯罪につながるのはなぜなのか

 まずはじめに子育てで大事な前提をお伝えします。

 親は子どものためを思って、「ああしなさい」「これはしてはダメ」とさまざまな声かけをするものです。

 人間は社会の一員として生活することが求められ、ひとりでは生きていけませんから、社会性を身につける必要があります。「人の物を盗とってはいけない」「暴力をふるって人を傷つけてはいけない」といったことも、親が教えなければならない社会のルールのひとつでしょう。社会に出て困らないよう最低限のルールを教えるのは親の務めです。

 私が見てきた非行少年の親の中には、あまりにも放任主義で親としての責任を放棄しているように感じる人が一定数いました。子どもが何か問題行動を起こしたとき、「子どものしたことであって自分には関係ない」「自分の責任ではない」という態度をとり続けるのです。こうした態度が子どもにいい影響をおよぼすわけがありません。

 少年院に収容された非行少年の親について、少年院の先生(法務教官といいます)が問題だと感じていることを調査したデータがあります。これによれば、もっとも問題とされているのは「子供の行動に対する責任感がない」(62・5%)。次いで「子供の言いなりになっている」(50・2%)、「子供の行動に無関心である」(49・1%)となっており、親の責任感の乏しさを問題として認識している先生が多いことがうかがえます。

 子どもに対して社会のルールを教えることもせず、問題を起こしたときに「子どもが勝手にやったことだから知らない」という親のもとでは、子どもは責任について考えることができません。当然ながら更生への道も険しいものとなります。

 一方で、「ああしなさい」「これをしてはダメ」といった、社会性を身につけさせるために言った言葉の数々が子どもをがんじがらめにし、非行へ向かわせていることがあります。

「よかれと思って」

 非行少年の保護者から何度聞いたかわかりません。

 子育てを放棄しているわけでもない、虐待をしているわけでもない、自分なりに一生懸命やってきた。子どものためを思って、よかれと思っていろいろな言葉をかけてきた。そう思っている親も多いのです。

「うちの子がまさかそんなことをするなんて……」

 よかれと思ってしたこと・言ったことがいったいなぜ、非行・犯罪につながってしまうのでしょうか。

親が陥りがちな確証バイアス

 そもそも親は「確証バイアス」によって、子育ての方針を修正するのが難しくなります。「確証バイアス」とは心理学の用語で、自分に都合のいい情報ばかりを無意識に集めてしまうことを言います。自分が正しいと思うことを支持する情報に目が行き、否定するような情報は無視する。その結果、思い込みが強固になり、偏った判断をするようになるというものです。

 これは子育ての方針に限らず、あらゆる情報について起こることです。普通にしていると誰もが陥りやすいものですから、バランスのとれた考え方をするためには、意識して自分とは別の考え方を知る努力が必要になります。

 ただ、子育てに関してはとくに確証バイアスが働きがちになります。子育てや家族の中のことは、まわりが口出ししにくいからです。

「お子さんの話をもうちょっと聞いてあげたらいいんじゃない?」などと周囲の人が思ったとしても、口に出せば「余計なお世話」と言われるでしょう。「うちにはうちの方針があるから」と言われたら、何も言えません。虐待などよほどのことがない限り、外からの介入が難しいのです。虐待にしても、「これはしつけだ」と言い張られたら、簡単に介入できるものでもありません。

 こうして、家族というある意味閉鎖的な空間の中で「うちの子にはこれがいい」と確信を持ってしまうと、他の情報が入ってこなくなります。

 すると、どうなるか。子どもの発するSOSにも気づかなくなります。

 子どもは、「もっと自分を見てほしい」「認めてほしい」というときもそれをストレートに伝えることはなかなかできません。ちょっとした口答えや、やるべきことをやらなくなるなど、小さな変化で表現します。SOSはわかりにくいものなのです。確証バイアスが機能すると、こういった変化の意味を理解することなく、そのまま突っ走ってしまいます。そして、何かのきっかけで子どもは不満を爆発させます。

 親の「よかれと思って」が非行・犯罪まで行き着くことになるのです。

 もちろん、いまの子育て方針でうまくいくこともあるでしょう。問題ないのであればいいのです。ただ、確証バイアスが働きやすいことは知っておいてほしいと思います。

出口保行氏のLIVE配信を開催!

 

「シンクロLive」に犯罪心理学者の出口保行さんが登場。

夏休み期間ということで、「子どもが犯罪に巻き込まれないためには?」「夏休み明けに不登校」「つい怒鳴ってしまったあとのフォローをどうすればいいか」など、多くの非行少年少女とその親に接してきた経験と心理学の視点から、親子関係の悩みについてヒントをいただきます。

LIVE配信終了まで出口さんへの質問も受け付けております。質問への回答はLive配信中に行います。