結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、実家に2週間帰るはずだった妻からそのまま「別居婚」を言い渡されてしまった……という京介さんからのご相談です。
京介さん(仮名)からのご相談
昨年6月から1年間、僕は育休を取っていました。その中での出来事です。
今年の4月に、内容は忘れてしまいましたが喧嘩をして、僕が3日間の家出をしました。
その時に妻からLINEで「育休中でお互い一緒にいすぎたから。育休が開けたら状況は変わるから、また協力し合ってやっていきたいよ」とメッセージが入ってきました。
それに対して僕が意地を張ってしまい、「おれはそのつもりはない」と言ったら、妻は「もういい。新潟の実家にしばらく帰るよ」と言ってきました。
その時は「2週間帰る」ということだったのですが、2週間後にLINEで「実家の新潟に永住するよ」と言われました。妻は別居婚を望んでいました。
その2日後に僕は妻の実家へ行き、土下座をして謝り、これからは改心していくとひたすら謝りましたが、妻の意思は固く状況は変わりませんでした。
娘と別れるときは嗚咽が止まらず、現実をしばらく受け止める事が出来ませんでした。ちょうどGW明けに育休後の初出社だったので、とても辛かったです。
仕事に復帰して1か月経つと、辛かった気持ちが少しずつ落ち着いてきました。妻とは娘の写真と動画を毎週送ってくれる約束をしていたので、それが唯一の楽しみでした。
気持ちが落ち着いたところで決心し、妻に離婚の話をしました。妻はゆっくり進めていきたいと言っていましたが、僕はすぐにも離婚届を出したいと要望しました。
ですが、いざ離婚の話をすると、これで家族と離れ離れになってしまっていいのか? と複雑な気持ちになってきました。精神も不安定になり、妻に嫌なことを言ってしまいました。
これで本当にいいのか、色々な人に相談もしました。結局、離婚を決意したものの、家族への愛情がどうしても捨てきれないというのが、僕の本当の気持ちだとわかりました。
僕が悪かった点について、改善方法を箇条書きにした手紙を妻に送りました。しかし、妻の気持ちは、変わらないのが現状です。
父として、やはり家族にしてあげたい、やりたい事が沢山あります。
僕は復縁を望んでいます、妻は別居婚を望んでいます。真逆の考えなので、どうしても話し合いの決着がつきません。
この様な状況ですが、何とか復縁できますようアドバイスをお願い致します。
(夫・京介、妻・かほり)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
別居婚と復縁は対立するのか?
ケンカをきっかけに家出から別居、ついには離婚話にまで発展してしまったという京介さん。話し合いが具体的になるにつれ、家族の大切さにあらためて気づかされたということですが、妻・かほりさんの態度は頑ななままのようです。
別居婚を望む妻と、どうすれば復縁できるのか?というご相談ですが、京介さんが希望されている「復縁」と、妻であるかほりさんが希望している「別居婚」は果たして、対立するものなのでしょうか?
別居にいたる背景を見直してみる
妻が子どもを連れて出て行ってしまった。一緒に暮らしていた自宅にひとり取り残された京介さんの不安や寂しさはいかほどのものでしょう。この先また家族一緒に暮らせるのだろうか? と将来のことを考えれば辛い気持ちになるのも自然なことです。
けれど、ここから夫婦関係の改善を目指すなら、まずは別居に至るまでの背景を、かほりさんのアングルから見直してみることが欠かせません。
今一度いただいた情報から整理をすると、
となります。
直接的なきっかけとなった夫婦ケンカは、お互いに気持ちのゆとりがなくなってしまった結果なのかもしれません。どちらが悪い、ということではなく、それぞれ感情的になってしまったということでしょう。
京介さんの家出についても、場合によってはヒートアップしてしまった気持ちの冷却期間としては一定の効果はあったのかもしれません。とはいえ、かほりさんにとっての3日間は、ワンオペの負担もあり、決して小さくはない不安な時間だったのではないでしょうか。
それでも、「協力しあってやっていこう」というLINEメッセージからは、なんとかこの関係を守ろうという意思が伺えますが、そんな中での「おれにはそのつもりはない」という反応に、ついに心が挫けてしまったのかもしれません。
もちろん、京介さんにもそう反応してしまうだけの理由や背景があるはずです。けれどここは、かほりさんの心情を理解することが大切です。
2週間の期限がついていたことから見ても、当初は少し距離を置いて気持ちを整理したかった、ということなのかもしれません。ところが実際は、この2週間を経て一時的な別居は「別居婚」へと変わってしまったのですが、そこにどんな心の動きがあったのでしょう。
未来に投影されるわだかまり
京介さんにとっては、初めから戻る気もなく実家に帰ったのではないか? 居心地が良すぎて戻る気がなくなったのではないか? と、不安な気持ちが疑いを呼び、何を信じてよいか分からなくなってしまうかもしれません。
けれど、かほりさんの心の動きを想像してみるなら、お互いにストレスを掛け合う生活から離れて、少し気持ちにゆとりができたからこそ、それまで心に溜め込んできたわだかまりが溢れてきた、ということもあり得ると思うのです。
わだかまりは、未消化のままになっているネガティブな感情で、自覚の有無によらず様々な作用を私たちに及ぼします。とりわけ、未来に与える影響が顕著で、わだかまりを抱えてこれからのことを考えれば自ずとネガティブ思考で不安な気持ちが強くなります。
未消化な感情は未来に投影され、さらにネガティブな思考と感情を生み、これから先、良いことなんて起こらないのではないか? と私たちを暗い気分に沈ませてしまうのです。
かほりさんが2週間の実家暮らしを経て、「別居婚」を提案するに至った背景にも、そんな未消化なわだかまりがあるのかもしれません。
わだかまりの種を見つける
未消化な感情が投影された未来を前提に、これからの事を考えない。カウンセリングでいつもお伝えしている考え方のひとつです。
かほりさんに、どんなわだかまりがあるのかは分かりませんが、少なくとも別居のきっかけとなったケンカより以前に「わだかまりの種」になる出来事があったはずです。一緒には暮らせそうもない、そんな風に思い至った「わだかまりの種」を見つけ、取り除いていくことが、関係修復には欠かせません。
そうでなければ、どんなにこれからの改善を誓っても、これまでの失敗を謝っても、かほりさんから見れば何を改善するのか、何を悪いと思っているのかがわからないのではないでしょうか。
いただいた情報からはこれ以上掘り下げることはできませんが、関係修復に向けて、ここは京介さんの踏ん張りどころなのだと思います。
悲しみに浸りこまず、自分にエールを
子どもを連れて妻が実家に……。残された側に立てば、京介さんの心がどんなに乱れてしまうか、どれほど不安になるかは想像に難くありません。
繰り返しになりますが、それでも今ここから夫婦の関係を修復していくには、妻であるかほりさんのアングルから彼女が抱えてきたわだかまりを理解し、解いていく取り組みが必要です。
それでも、つらい、寂しい、不安。そんなネガティブな感情に押しつぶされそうになる時には、どうして自分ばかりこんな思いをしなければならないんだ、と自分が憐れに思えてしまうことさえあるかもしれません。
でもだからこそ、京介さんには今の自分を誇りに思ってもらいたいと思うのです。
いっそのこと離婚をしてしまおうか、と考えるほど、苦しかった日々を越えて、子どものためにも関係を修復しようとこうして取り組んでいる。それほどタフで、困難な道を進もうとしている自分にぜひ、エールを送ってあげてください。
最後にもうひとつ。冒頭で「別居婚」と復縁は対立するのだろうか? という問いを立てました。
確かに、いますぐにでも同居を再開したい京介さんから見れば、別居婚なんて到底受け入れ難い提案でしょう。
けれど今、こうして別々に暮らすことをかほりさんが望んでいるのなら、そんな彼女の気持ちに寄り添ってあげることは、ふたりの関係にとって決してマイナスではないとも思うのです。
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