失敗して落ち込んでいる我が子になんて声をかければいいのか?

犯罪心理学者として多くの非行少年少女と向き合い、近年は子育てに関する著書を通して、子どもや親が抱える悩みに答えている出口保行氏。

8月7日に行われたLIVE配信では、子どもが健全に成長するために、また非行や不登校の当事者にならないために、親がとるべきコミュニケーションについて具体的な方法をお話いただいた。

今回はその中から、子どもだけでなく大人にとって重要な「レジリエンス」を育むために、親はどのように接していけばいいのかについて紹介する。

 

今の時代に求められるレジリエンスの強さをどう育むか

 ここ数年、「レジリエンス」という言葉をよく耳にするようになりました。

 レジリエンスとは“しなやかな回復力”とでも言いましょうか、失敗してもすぐに立ち直るのではなく、ふわっと戻ってくるような柔軟な回復力のことです。

 なにか困難なことに直面した時、落ち込んだ状態から瞬時に回復できるかよりも、結果的にちゃんともとの状態に戻ってこられるかどうか。それが子どもにレジリエンスを身につけさせるうえで、もっとも重要なポイントだと考えています。

 今の社会を生きていくには、このレジリエンスの強さが、大切なキーワードになってくる。しかし、最近の若い人を見ていると、心がすぐに折れてしまう人が多い。特に、大学の教員として学生を指導していると、レジリエンスの弱さを感じることがよくあります。

 以前、プロやオリンピックに出場経験のあるスポーツ選手たちを心理分析したことがありまして。みなさん競技や種目が異なるので、技術的な面ではそれぞれ違いがあったのですが、全員に共通している点、それはやはりレジリエンスの強さでした。

 どんなトップアスリートであっても、ずっと成績が1位の人なんていませんよね。いきなり10位に下がることもあるし、ランク圏外になってしまうこともある。でも、そこからどうやって復活するかを柔軟に考えられるからこそ、プロのアスリートたちはレジリエンスが強いんです。

子どものレジリエンスの鍵は「親がどれだけ選択肢を提供できるか」

データを基に現代の若者が抱える心の課題を考察。レジリエンスとの関係は?

 レジリエンスが強い人の特徴は、回復するための方法をいくつも考えられることです。なにか失敗や挫折をして落ち込んでしまっても、二者択一で解決策を探すのではなく、選択肢を2つ以上持つようにすることで、「これがダメならこれ」と、さまざまなパターンを思いつくことができる。

 しかし、この考える力は自分で身につけることはできません。親がいくつも選択肢を提供することで、子どもは少しずつ回復するための道筋を覚えていくのです。この時に、親が少ない選択肢だけを提示してしまうと、子どもはうまく立ち直ることができないことがあります。

 たとえば、子どもがなにか習い事をしていて、その習い事をやめたいと言い出した時、親は「子どもが嫌ならやめさせよう」か「子どもが嫌でも続けさせよう」の二択で考えてしまうケースが非常に多い。また、なかには「なにがなんでも続けさせる」というスタンスの親もいます。

 ここで重要なことは、子どもが考えていることをどこまで引き出せるか、そして引き出したことをもとに親がどう判断するかです。子どもがなぜやめたいと思っているのか、子どもが本当にしたいことはなにか、をじっくりと話し合ったうえで、どのような解決策があるかをお互いに出し合ってみる。

 逆に、落ち込んでいる子どもに対して、「選択肢はこれしかないよ」と言ってしまうと、その方法がうまくいかなかった時、子どもはもう立ち直れなくなってしまう。なので、「こういう方法もあるよ!」とか「こんな方法はどう?」と、選択肢をいくつも指し示すことで、子どもにより広い視野を持たせてあげしょう。

 もちろん、すぐにレジリエンスを身につけさせるのは難しいですが、親がしっかりとケアしながら選択肢を提供することで、着実に回復する力が養われてくるはずです。ぜひ親の課題として取り組んでみてください。

子どもに自信を持たせるためのスモールステップ

8月7日のLIVE配信では、犯罪心理学者の視点から子どもの成長と親の接し方の関係、どのような親子コミュニケーションが必要なのかについてお話いただきました。

 最後に、子どもたちにレジリエンスを身につけさせる時に、一番大切なことをひとつお教えします。それは“スモールステップ”から始めるということです。

 たとえば、いきなり親から大きな階段を登れと言われても、子どもには登りようがありませんよね。なので、最初は小さいステップを示してあげることで、一歩ずつ上がっていける状態を作っていく必要があります。

 子どもは一度でも挫折を経験すると、またすぐ戻らないといけないと思い込んでしまう。だから、すぐに立ち直れない自分に焦りを感じるんです。そこで、親が小さなステップを示して、ひとつずつ問題を解決させることで、少しずつ上がっている感覚を覚えさせてあげる。

 この小さなステップの積み重ねが、最終的に大きなステップに繋がります。そして、子どもが立ち直ることができた時、親は子どもにレジリエンスが身についたことを実感することができるし、子どもも自然と自信を持てるようになる。

 どんな人でも失敗することはあるのだから、そこからどう動いていくべきか教えてあげる。それが子どもたちの成長に繋がっていきます。親の一言で子供の人生は大きく変わってしまう。だからこそ、自分の“良かれと思って”と投げかけている言葉を、もう一度じっくり見直してみてください。

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