犯罪心理学者として多くの非行少年少女と向き合い、近年は子育てに関する著書を通して、子どもや親が抱える悩みに答えている出口保行氏。
8月7日に行われたLIVE配信では、子どもが健全に成長するために、また非行や不登校の当事者にならないために、親がとるべきコミュニケーションについて具体的な方法をお話いただいた。
今回はその中から、近年問題視されている「トー横問題」の原因について紹介する。
なぜ居場所のない子どもたちは「トー横」に集まるのか?
最近、メディアでよく取り上げられている“トー横キッズ”の問題。私もよく新聞やニュース番組などから取材を受けるようになりました。
いじめや虐待から逃れるための居場所を探して、新宿の歌舞伎町に子どもたちが集まり、性暴力や薬物依存などのトラブルが発生しています。
この現象は今に始まったことではありません。
私は、かつて日本各地の少年鑑別所に勤務していましたが、どこの地域にも“トー横”的な場所が必ずありました。
家庭や学校に自分の居場所がない子どもたちが、自分にとって居心地のいい場所を求めて、ひとつのエリアに自然と集まってくる。そして、みんなで肩を寄せ合って生きていくという現象は、いつの時代のどんな地域でもあることなんです。
では、なぜ彼らはトー横に居心地の良さを感じるのか。
それは、匿名性が担保されているからです。
学校などのコミュニティでは、自分の名前とか学力といった情報が、他の生徒や教員にすべて知られてしまいます。
一方で、トー横のような場所では、自分がどんな人でなにをしているのかを他人に伝える必要がないので、自分が誰か知られてしまうリスクはありません。
仮に自分の名前を言ったとしても、それが嘘か本当か他人が知る術は限られています。そこに、子どもたちは気楽さを感じているのだと思います。
家庭や学校のように、自分という人間をさらけ出さなくても、どこかに自分の居場所がある。だからこそ、行く場所を失った子どもたちは、トー横に集まるのではないでしょうか。
オーバードーズや違法薬物に手を染めてしまう若者たち
トー横問題に関連する問題として、若者たちの市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)が挙げられています。
これも昔からあった問題ではあるんです。市販薬を大量に摂取すれば今の状態を忘れることができ、気軽に現実逃避ができてしまう。だから、若者たちはオーバードーズに走るんです。
また、もうひとつの理由として、自分なんて価値のない人間だと思っている人が、「どうなっても構わない」と投げやりな気持ちで、過量服薬をしているケースもあります。
オーバードーズと違法薬物の違いは、一般に売られている市販薬を使っている点です。「市販薬だから違法じゃない」と、簡単に自己正当化をできてしまうことです。
お腹が痛ければ薬を飲むように、私も薬を飲んでいるだけで悪いことはしていない。ただ、他の人よりも飲む量が多いだけと合理化できてしまう。
そうやって自分の中で理由づけをできることが、オーバードーズにのめり込みやすい要因になっています。
また、最近では10代の若者が大麻などの違法薬物に手を出してしまう事件が増えていますが、これも彼らにとっては合理化ができてしまうものなのです。
大麻というものは毒性がさほど強くないという情報が、巷でまことしやかに囁かれ、さらに、大麻が合法になっている国もあるので、身体に及ぼす害が少ないと考える人も少なくありません。なので、自生しているものを採ってくれば簡単に入手することができる大麻は、彼らにとって身近な存在なんです。
一方、大麻はよく“ゲートウェイドラッグ”と呼ばれていて、違法薬物の入り口になることが多くあります。大麻だけでやめられる人はほぼいなくて、さらに刺激の強い薬物を求めて、他の違法薬物にまで手を出してしまう。そうやって違法薬物に依存してしまうケースが後を絶たないんです。
これまで1万人を超える犯罪者や非行少年の心理分析をやってきましたが、違法薬物に手を染めたことがある人は圧倒的に多い。彼らは「1回だけ」や「3日やったら手放す」と言いながら気軽にはじめて、最終的には薬物依存をやめられなくなってしまいます。
だからこそ、きちんと違法薬物の危険性を啓蒙していかないといけません。
間違った“常識”がひとり歩きしてしまうと、薬物依存に陥ってしまう人がどんどん増えてしまいます。そうならないためにも、社会全体で薬物に対する認識を考え直す必要があるんです。