9月9日に発売される栗山英樹(前北海道日本ハムファイターズ、侍ジャパン監督)の新刊『監督の財産』。

 848ページ、束幅約5センチに及ぶ1冊について、その内容や魅力について、制作を進めた編集部の視点から綴っておきたい。

594,164文字に込められた意味

 プロ野球監督はどんな仕事をしているのか?

 そう考えた時、どんな答えが思いつくだろうか。レギュラーメンバーを決める、選手を変える、練習メニューを考案し、技術を教え、選手やスタッフのモチベーションを維持して……。なんだかあまりに膨大で、途方もない作業に思える。

 では実際のところ、野球監督はどんな仕事をしているのか。いや、するべきなのか――。ファイターズの監督を10年、野球日本代表(侍ジャパン)の監督を2年務め、世界の頂点にも立った著者・栗山英樹さんは、在任中、常にそれを自問自答してきた。

 現場で指揮を執り、結果に喜び、悩みながら、人から、本から学ぶことで「監督とは」を考え続けていたのだ。

 端的に言えば、本書はその思考の過程と、それらを現場に落とし込んだことから得た「経験知」を表現した一冊だ、と言える。

 まず848ページに及ぶ本書の構成を簡単に記しておきたい。

 本書『監督の財産』は、新たな原稿となる約10万字に加え、「栗山監督」として過去に刊行した(既刊)5つの書籍が収録される。

 本文だけで59万4164字。

 よくある単行本でいえば7冊ぶんくらいだろうか。

 収録された既刊は、2012年に発売された『覚悟』(初めてプロ野球監督になりいきなりパ・リーグ制覇を果たした)、大谷翔平選手をドラフトで獲得した直後の『伝える。』、貯金17を稼ぎながらソフトバンクホークスに12ゲーム差をつけられて2位に終わった2015年シーズン後の『未徹在』、大谷翔平の二刀流が花開き日本一に上り詰めた『最高のチームの作り方』(2016年)、そして「栗山監督」最後のクライマックスシリーズ進出となった2018年後の思いを綴った『稚心を去る』。

  本書は、この5冊の既刊本の前後に「新たな原稿」が収録される形で構成されている。

 「新たな原稿」の中心となるのはファイターズの監督退任、野球日本代表「侍ジャパン」の監督就任とWBCを制覇を経て、監督業から一線を引いた今に至る「栗山英樹の監督論」だ。

 例えば、冒頭には『監督のカタチ』として、選手との関係、人事(コーチやフロント)と監督の在り方などが記され、最後はこれから監督やリーダーを目指す人が、もし悩んだらこの人の言葉を当たるといい、という5人とその理由が紹介される。

 正直に言うと、この新たな原稿だけでもじゅうぶんな文量、メッセージがあった。話を聞き、原稿を読み進めながら、なんども納得した。

 プロアマ問わず野球監督や指導者は絶対に読んだ方がいい。そのくらい「明日の自分」の立ち位置がはっきりする。

 いままで読んだ栗山英樹さんの本とは一味違った言葉がそこにはあった。

既刊本を収録して見えた新しい意味

 ではなぜ、そこに既刊を収録したのか。累計で15万部を超えた書籍だから読んだことがある人も多いかもしれないのに、である。

 今回収録した既刊本5冊には共通点がある。

 それは監督としての記憶が新しい「シーズン終了後」に出版されたものであり、生々しいその年の振り返りが綴られているということだ(ちなみにこれらはいずれも本書『監督の財産』と同じスタッフ・編集がかかわって刊行されている)。

 斎藤佑樹を開幕投手にしたこと、大谷翔平を獲得した日、二刀流挑戦の過程、中田翔との監督室での会話、宮西尚生とのやり取り、勝った日、負けた日、その試合で何を考え、どう実行をしていたのか。

「あの時、栗山英樹が感じていたこと」がそこにはあった。

「今」振り返った「監督とは」、と「あの時」振り返っていた「監督とは」――自問自答を繰り返した「問」への「解」はそのふたつがあってこそ、真理に近づくのではないか。

 本書の「はじめに」にはこう記されている。

「過去の言葉」は発した瞬間に見せた色と違う色になっている。
 本書が手に取ってくれたみなさんに価値をもたらすことができるとしたら、ここがひとつのポイントかもしれない。
 監督として「記憶が鮮明な時期」と「今」で、何が同じで、何が違うのか。本書はそれを知ってもらうことに挑戦している。


 結果として束幅4.7センチ、848ページという分厚い一冊となったわけだが、その厚みは決して物質的なものにとどまらない。本1冊では知り得ることのできないリアルな監督の思考を体感することができるはずだ。

 話は逸れるが、「紙の本」はめっきり読まれなくなった。ウェブ上のテキストは日々の生活をうまくやりくりするのにじゅうぶんだ。「紙の本」が遠い存在になるのも必然だとも思う。

 ただ「紙の本」でしか得られない感覚、モノもある。本書を読んだあとに、そんなふうにも感じてもらえるのではないか、とも思っている。

 最後にカバーについて。

 本書のカバーは「木」がベースになっている。これは栗山英樹さんが作った「栗の樹ファーム」(北海道栗山町にある手作りの少年野球場、一流選手たちのバットやグローブなどが展示されたログハウスがある)の「木」をオマージュしたものになる。

 

 年輪を重ねて長く残っていく「木」のように本書が、読み続けられ未来の監督たちに光を届けてくれれば、うれしい。

一部読みあり「監督の財産」の詳細はこちらから