結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、夫の不倫が発覚したという、はなさんからのご相談。再構築を試みているものの、夫はあまり乗り気ではないようで……
はなさん(仮名)からのご相談
今年で結婚10年目になる夫の不倫が2ヶ月前に発覚しました。
8歳の長女と6歳の長男がいますが、長男を産んでから女として見れなくなったと言われました。
また色々調べたところ、6年前から既婚者向けのマッチングアプリに登録して女遊びをしていたようです。今回の相手は本気で好きだから別れられないと言って、今も不倫を継続しています。
証拠は掴んだので慰謝料を請求して離婚も可能ですが、私自身どうしたらいいかまだ迷っています。
まず子供達の環境が変わってしまう事、私1人で育てていけるか不安である事、まだ夫の事を嫌いではない事が原因で、前に進めず現状維持を続けています。
夫からは恋愛感情は無いけど家族としては大事に思うし、子供を一緒に育てていく夫婦としてはやっていけるよと言われました。
またこの10年間の不満をぶつけられ、私にも至らぬ部分があったと反省して謝り、まずは夫婦として再構築できるかやってみようという事になりました。しかし、正直私ばかりが頑張っていて、夫は再構築にはあまり乗り気では無いのかなと感じています。
周りに相談すると、子供の事も大事だけど自分の幸せも考えないとダメだよと言われますが、今の自分にとって何が1番幸せかまだ明確になっていません。
もちろん今まで通りに家族4人で暮らせるのがベストですが、夫から愛されない人生でいいのかなと思う自分もいます。
子供達の面倒はよく見てくれるし子供達も夫の事が好きなので、尚更離婚となったら悲しませてしまうという気持ちもあり、なかなか決断ができません。
何かアドバイスがあれば頂きたいです。宜しくお願いします。
(妻・はな、夫・まる)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
決断の前に、不倫によって被った痛みに寄り添って
浮気が発覚した時にどんな反応を返すのか? それは時に浮気の事実そのものより、ふたりの関係を傷つけてしまう場合があります。
ご相談のケースでは、不倫が発覚してなお関係を継続しつつ「家族としてはやっていける」というスタンスを取っている夫のまるさんですが、残念ながらこのままでは夫婦関係の修復は難しいと言わざるを得ません。
ただ、もしかすると彼は、まだこの状況をきちんと理解できていないのかもしれません。
「家族としてはやっていける」が表していること
勘違いされることも少なくないのですが、不倫を罰する法律は、現在の日本にはありません。それでも、不倫(不貞行為)が離婚事由に当たる事を知らない人はいないでしょう。
つまり不倫というのは、婚姻関係の継続が困難になる程の精神的苦痛を与える「悪いこと」である、と法的に認められている、ということです。
夫である、まるさんは「家族としてはやっていける」と言いますが、それはあまりに身勝手な発言です。これからも夫婦の関係を継続できるかどうかは、はなさんが夫の不倫によって被った痛みから立ち直れるかにこそ掛かっています。
ですから、もし本当にまるさんが家族を大切に思うのであれば、何より今は、はなさんのケアに注力する必要があるはずです。
ところが実際は、不倫相手との関係を続け、夫婦関係の再構築にも前向きではないようですから、これでは夫婦関係はもとより、大切な家族のかたちを守ることも困難になってしまうかもしれません。
繰り返しになりますが、「家族としてはやっていける」という彼は、このことをきちんと理解できていないのかもしれません。
「離婚はされないだろう」という甘え
はなさんとまるさんの馴れ初めは分かりませんが、ひょっとするとふたりは、元はとても仲の良いカップルだったのではないでしょうか? あるいは、はなさんの方が彼を大好きだったのでしょうか?
というのも、まるさんの言動からはどこか「嫌われることはないだろう」という感覚があるように見えていて、そこには「永く良い時間」を過ごしてきたカップル特有の関係性のようなものを感じるのです。
「他に好きな人ができてしまった僕のことも、君はきっと受け入れてくれるよね?」
そんな、「甘え」とも言えるような感覚が無ければ、不倫相手とは別れないけど家族としてはやっていけるよ、なんて言葉は出てこないのではないかと思います。
なんだかおかしな話に聞こえるかもしれませんが、彼の身勝手で無責任な言動からは、はなさんへの「甘え」が見えてきて、それはある種の信頼感とも言えるのではないでしょうか。
また、はなさんがどこかで彼への気持ちを切れないのも、もしかするとそんな信頼感をはなさんも共有しているからなのかもしれません。
もしそうであるとしたら、まるさんもそしてはなさんにも抜け落ちている大切な視点があります。
それは、この事でどれだけはなさんが傷ついているのか? という視点です。
選択をしないという選択もある
はなさんは今、夫の不倫も、その事でバラバラになってしまうかもしれない家族のことも、傷ついた自分自身の心のケアも、全てひとりで背負ってはいないでしょうか? もし自分が離婚を選択したら、子どもたちから父親を奪ってしまうことになる、と苦しい選択を迫られている様子がそれを表しているように思うのです。
でも今、家族をバラバラにしてしまうかもしれない行動をとっているのは、夫のまるさんであって、はなさんではありません。
自分の幸せも考えないと、というお友達からのアドバイスはもっともで、私も同意見です。
けれど、自分の選択で大切な人を不幸せにしてしまうとしたら、そんな選択を容易にできる人はいないでしょう。まして傷ついた心の状態なら、なおのこと、です。
そんな時には、まだ今はこれからのことを決める時ではないのかもしれません。
どうしたら良いかわからない、という時に、選択をしないという「選択」があっても良いと思うのです。
親密な関係ほど離れる時もある
今はまだ「選択」の時ではないと考える理由は他にもあります。
少し苦しい話をしますが許してください。
既にお伝えした通り、まるさんの言動からは、はなさんへの甘えが感じられますが、同時に冷静な判断や、家族への配慮ができなくなるほど、不倫相手との関係にのめり込んでいる様子も伺えます。
それはもちろん、はなさんにとって歓迎できることでは無いのですが、一歩下がって見てみると、また違う風景が見えてきます。それは、周りが見えなくなるほどのめり込んでしまう不倫の関係が、この先もずっと続くとは考えられないということです。
どんな関係性においても、人と人の関わりが常に良好ということはないものです。親しく近づくこともあれば、離れて交わらない時期も訪れるのが私たちの関係で、それが親密な間柄であればなおのこと。恋人同士であっても、夫婦であっても、多くの時間を過ごすほど、離れたくなる気持ちが強くなるのは潮の満ち引きのように自然なことだと思うのです。
はなさんとまるさんは今、長い時間を経て気持ちが離れる時期にあって、離れる心と、近づく心が作用し合うことで今は、不倫相手の方に心が近付いている、そんな状態にまるさんはあるのかもしれません。
そばにあった気持ちが離れていくと言うのは、とても寂しいことです。だからこそ私たちは離れていく相手を引き止めようとするし、責めてしまいたくもなるのですが、そうすることでより、離れる心を加速させてしまいます。
まるさんの離れていく心を引き止めることはできませんが、離れた心がこの先もずっと戻ってこないとは限りません。人と人との関わりは、近づいて離れてを繰り返しています。今は不倫相手のそばにあるまるさんの気持ちも、いずれその場所から離れる時期が訪れるかもしれません。
もちろん、そうだからといって、彼の気持ちが還ってくるのを待ちましょう、と言いたいわけではありません。
これからのことを決めることができない時は、まだ選択の時ではないし、これからのことはまだ誰にもわからない。だからこそ「今はまだ決めなくても良い」、そう捉えておくことが大切です。
そして今はなさんが担うべき「責任」は、少し先の未来に前向きな「選択」ができるように、まずは気持ちを整えておくことではないでしょうか。
妻としてふさわしくないのでは?という観念
夫や妻の不倫が残す深刻なダメージのひとつは、自分はパートナーとして必要とされていないのではないか? 相応しくないのではないか? という観念が生まれてしまうことです。そしてその観念は、未来を選択する上でネガティブな作用を及ぼします。
例えばそれは「夫から愛されない人生でいいのかな」という、はなさんの言葉にも表れているようにも思えるのです。というのも、仮に彼がはなさんを愛してくれないとして、そんな夫をはなさんはこれからも人生のパートナーとして選ぶ必要はあるのでしょうか?
こんなことがあるとつい、自分が変わらなければ、と考えてしまうものですが、ここからはぜひ、私は彼に相応しいのか? ではなく、彼は私に相応しいのか? という視点で問いを立ててみましょう。
そのうえで、はなさんはただ「夫にどうあって欲しいのか?」を明らかにして、彼の前に提示できればOK。
家族や子どもたちとの生活を守りたいなら、彼の方がそれを選択する必要があるのです。
夫婦間の問題はどちらか一方だけに責任があるということはない
夫の不倫を知ることは、とても苦しいことです。心は震え、冷静に考えることもできなくなってしまいます。
まして、はなさんは不倫の発覚と併せて、それまで夫が抱えてきた不満を聞かされることになりましたから、不倫を知ったことによる自分の心の痛みに寄り添う時間さえなかったのではないでしょうか?
大切なのは、傷ついた心のままでは大切な選択をしないこと。
そのためにも、まずは傷ついた気持ちを少し休めて、関係改善の努力もいったん緩めても良いかもしれません。
彼の不満を知ったことで「私にも至らないところがあった」と考えるきっかけになったのは良いことです。けれど、彼が不満を飲み込んできたように、はなさんも決して少なくはない不満やストレスを抱えてきたのではないでしょうか?
夫婦の間で起こる問題に、どちらか一方だけに責任があるということはないものです。こんな時には、「ああ、ふたりとも頑張ってきたんだなぁ」とお互いの努力をねぎらうことが必要なのであって、相手を責める事は問題解決にはつながりません。
今はまだ彼はそのことに気がついていませんが、まずははなさんが、これまで努力をしてきた自分自身のことをどうかねぎらってあげて欲しいのです。
その上で彼には、今、はなさんが望むことをただ伝えておきましょう。
以下に記すのは、はなさんが自分の気持ちと向き合ううえで、ガイドとなるメッセージです。
ぜひ一度、声に出して読み上げてみて欲しいと思います。そして、どんな感じがするのか? を確かめて、心の動きをみつめてみて下さい。
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夫が別の女性と親密なのは悲しいこと。
相手の女性と別れられない気持ちは理解したけれど、それを私は受け入れられない。
私はあなたの妻で、これからもそうでありたいと思ってる。
離婚はしたくないけれど、どうしても別れられないなら、それも仕方がない。
私は私を大切にしたいから、私が望まないことにはきちんとノーと言います。
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読み終えて、どんな気持ちになるでしょう?
悲しい気持ちになるかもしれませんし、しっくりとくる感覚があるかもしれません。または、抵抗感を感じることもあるかもしれません。
どんな感情も感覚も、それを否定する必要はなくて、それが、はなさんの気持ちを探ってみるきっかけになればと願っています。
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