著名な育児論や教育法はたくさんあるけれど、理想通りにいかないのが子育て。だからこそ、机上の空論ではなく、実際に日々悩み、模索しながら子育てに向き合ってきた先輩たちのリアルな声が聞きたい。そんな思いから、独自の育児をしてきた先輩パパママたちの“子育て論”を聞く本連載。今回は当時、小学生の似顔絵師として話題となったモンドくんのご両親、ボギーさん&ベイビーさんご夫妻に話を伺った。後編では、自身の生き方から得た子どもに対して一番伝えたい想いを聞く。
編集・文=石渡寛子 写真=齋藤弦(ACUSYU)
画家として本格デビュー! その経験がもたらした変化とは?
モンドくんの画家として活躍の場が増え出したのは、小学4年生のころ。絵に集中することでモンドくんにはある変化が生まれる。「直接の因果関係はわからないのですが」と前置きをした上で、ボギーさんはこう続ける。
ボギーさん(以下ボギー)「実は門土は小さいころ本当に騒がしくて、良くも悪くも目立つ子だったんです。小学校でも騒がしいからと教室を移動させられたり、先生から電話がかかってくることも日常茶飯事」
ベイビーさん(以下ベイビー)「学校に呼び出されたこともありますが、人をわざと傷つけたりしたわけではなく、本当にかわいいイタズラの延長といった感じだったんですけどね」
ボギー「それが画家として絵に集中するようになって、小学5、6年生になるころにいきなり落ち着いたです。僕もかなり騒がしい子どもだったんですが、小学4年生の時に漫画家を目指して漫画を描き始めてから静かになって。それに近いのかな、と考えています」
その後の画家としての活躍は、前編でも紹介した通り。しかし10代に入るとモンドくんも思春期を迎える。天晴くんや今ちゃん、ベイビーさんへ苛立ちをあらわにすることが増え、部屋に閉じこもることも。
ボギー「中学2年生のときが一番ひどかったかな? ちょうどそのタイミングで、映画出演のお話をもらったんです。で、僕と二人で一か月半ほど東京生活をしながら撮影に挑みました。社会との接点がきっかけだったのか、その撮影後から急に顔つきが変わって、思春期特有の苛立ちが消えたんです」
ベイビー「まぁでも何とかなるかなと思っていたんですけどね(笑)。夜中に家を飛び出して帰ってこないとか、そういうレベルではなかったので、かわいいなと思いながら見ていました」
ボギー家族が大切にする、3つの子育てキーワード
ともに経験し、モンドくんの成長をおおらかに見守り続けたご夫婦。インタビューをしているとボギーさんの横で優しく頷き、ときに爆笑するベイビーさんの姿が印象的だ。そもそも二人は子育てについて意見の食い違いなどはなかったのだろうか。
べイビー「ないですね〜。まぁこういう人と一緒になったからには、ついていかないといけないじゃないですか(笑)」
ボギー「二人とも勉強をしてきたタイプではないので、子どもにそれを強いることはできないじゃないですか。学校の通知表はまったく気にしませんもん(笑)。
で、僕らの中で大切にしていることは、コミュニケーションと、まわりの人たちに感謝すること。今の僕たちがあるのって、20代、30代のころに音楽で全国をまわっていたときにできたパイプがあったからだと思っていて。門土の絵がより多くの人に見てもらえるようになったのも、仲間たちがおもしろがってくれたおかげなんです。
だから僕が子どもたちを叱るポイントはひとつだけで。お世話になった方に失礼な態度を取ったときですね。感謝の気持ちを持っていないのが透けて見えたら、怒ります。それ以外は割と自由です」
自らの経験をもとに子どもたちへ伝えたいことを導き出したボギーさんとベイビーさん。「あともうひとつ」と教えてくれたのは、モンドくんの名前にも込めた想いだった。
ボギー「誰も持ってない個性を磨くこと。“門土”という名前はイタリア語で“世界”という意味です。自分がモンドミュージックにちょうどハマっていたこともあって100個くらい考えた中から選びました。
独自でしっかりとした自分の世界を持って欲しいという願いを込めています。僕も自分なりのやり方で生活できるようになって、個性ってやっぱりめちゃくちゃ強みだと思っていて。
人と違う個性を磨くには、誰もしたことのない経験をたくさんした方がいいとも考えました。だから小さいころから子どもたちは自分の仕事現場へよく連れて行っていました。
そうすると年齢関係なく、誰とでも話せるようにもなってきて、コミュニケーションの練習にもなる。我が家は少し特殊な家庭環境かもしれないけど、子どもに家庭環境を合わせるのではなく、こういう家庭に産まれたということをプラスにしてもらえるように、最大限できる経験をさせてきました。
家族でバンドを組んで全国ツアーに行ったのも、そのひとつです。お父ちゃん、お酒飲んで騒いでいるだけじゃないぞ、っていう姿を見せる裏テーマもありました(笑)」
さらに「子どもたちとずっと一緒に遊んでいたい」と語るボギーさん。ここでいう遊びとは、キャッチボールやゲームといった一般的な遊び方とは少し違う。
ボギー「子どもの遊びに親が付き合ってあげるわけではないんです。それだと自分がつまんないので(笑)。子どもも入ってこられるような遊び方を自分がするっていうのが、僕の考える“遊び”です。
だから家族でバンドをやってツアーに行くのも遊び。本当に楽しいことしか自分はやらないので、それを楽しんいでるお父ちゃんの姿を見て、子どもたちもつられて巻き込まれていくって感じです。そういう意味ではずっと遊び状態の生活が続いているのかもしれないですね」
子どもではなくパートナー。ボギー家族はチーム!
モンドくんはこの春、高校を卒業。それを機に本名の「奥村門土」として活動を開始する。そこには成長した息子を巣立たせる親心があるのでは? と問いかけると、意外な答えが返ってきた。
ボギー「いやいや、このタイミング逃したら、ずっと“モンドくん”になっちゃうんで(笑)。子どもの似顔絵師として愛称の“モンドくん”で呼んでいただいていましたけど、これからは社会人なので。30歳、40歳になっても“モンドくん”なのはアレかなぁと。本人とも話し合って決めました。
ただ、僕らの関わり方は今までと変わりません。我が家は、親と子というよりも、パートナーっていう感覚が強いんです。門土は絵を描いていますが、次男の天晴も今年は俳優として映画に出たり。長女の今はCMのお仕事をいただいていますし、全員でバンド活動もしています。
だから、仲間という意識の方が強くて、5人のチームなんです。子どもたちが“もう出ていくよ”ってなるまでは、チームとしてやれることを、まだまだ遊んでいきたいと思っています」
笑いながら我々の質問に答えてくれたお二人の空気感は、マイナスイオンを感じるほど穏やかだ。子育てに悩む親御さんへのメッセージを尋ねると、「う〜ん」と悩みながら優しい言葉を差し出してくれた。
ベイビー「お母さんだからって意識しすぎずに、お母さんも楽しんだほうがいいと思うんです」
ボギー「子育てももちろん大切なんですけど、まずは自分をしっかり持って、一人の大人として子どもと向き合うことも大事だと思います。
子育てに悩むということは、子どものことしか目に入らなくなってしまっているんじゃないかなと。家族で暮らす時間ってやっぱり濃いから、自分にも子どもにも余白を作って詰まりすぎないように、適当にほったらかすことも必要な気がします(笑)」
「ウチはラッキーが続いているだけなんで」と話すボギーさんとベイビーさん。しかしそのラッキーを引き寄せているのは、他ならないご夫婦の人柄と、しっかりとした信念ではないだろうか。本気で一緒に遊び、子どもたちをパートナーと呼ぶその視点で育った兄妹たちは、親に認められた経験を自信に変え、広い世界に飛び立っていく。
日時:2022年5月13日(金)〜5月22日(日)
場所:JINNAN HOUSE(東京都渋谷区神南1-2-5)
入場無料(ワンドリンク制)
奥村門土さん約8年ぶりとなる東京での個展開催が決定。幼少期の作品から似顔絵少年時代の作品に加え、新たな境地に挑戦した風景画、抽象画、ポップアートなど近年の作品を多数展示予定。会期中は、トークライブや音楽ライブ、似顔絵ワークショップなど、展示以外のイベントも目白押し!
ヨコチンレーベル:http://yokotin.xyz/
モンド今日の絵:http://mondo-art.blog.jp/
ボギー家族MV『TOY TOY』『はじめてのうた』 https://youtu.be/9xlyPOFP7EE