著名な育児論や教育法はたくさんあるけれど、理想通りにいかないのが子育て。だからこそ、机上の空論ではなく、実際に日々悩み、模索しながら子育てに向き合ってきた先輩たちのリアルな声が聞きたい。そんな思いから、独自の育児をしてきた先輩パパママたちの“子育て論”を聞く本連載。今回は、大家族シリーズ『7男2女の大家族 石田さんチ』(日本テレビ系)のお母さん、石田千惠子さんの元へ。一人っ子でも右往左往してしまう子育て。9人の子どもたちを育て上げた、千惠子流を聞く。
編集・文=石渡寛子 写真=村松巨規
気づいたら大家族。するとお父さんがパニックに?!
日本の大家族のお母さんといえば多くの人が顔を浮かべるであろう、石田千惠子さん。密着番組は年に1度ほどのペースで続き、今年で25周年を迎える。もともと大家族には、憧れがあったのだろうか。
「私が一人っ子だったので、きょうだいが多いことは望んでいましたね。主人とも5〜6人は欲しいねって話していたのでそのつもりだったんですけど、どんどん増えていって9人に。
主人も最初の頃は、仕事<家庭という考え方で子どもの面倒もよくみてくれていました。最終的にパニックになったのか“俺の子じゃない”って言い出しましたけど(笑)。“あなたの子じゃなかったら私の子でもないじゃない?”って感じです」
そのころの子育ての方針を質問してみると「あんまりないよね」とさらり。「子どもたちのありのままを受け入れる」という気持ちで接していたという。そこには、千惠子さんの生い立ちが大きく関わっている。
「私は父親の顔も名前も知らないんです。祖父に随分可愛がってもらったおかげで、不自由なく育ててもらいましたから、恵まれていたと思っています。でもそんな生い立ちだから、みんなから“おめでとう”って言われて産まれてくるだけで、私にとってはステータス。産まれてきてくれただけで十分。特別な子育て方針はありませんでした」
きょうだいを子に持つ親なら、幾度となく頭を抱えているであろうきょうだいゲンカ。それは石田さんチも例外ではない。子どもたちのありのままを受け入れようと考えていた千惠子さんは、派手に気持ちをぶつけ合う子どもたちに対し、静観姿勢を貫く。
「まぁそのスタンスだと子どもたちからクレームもありましたね。“私が悪いわけじゃないのに、なんで怒らなかったの!”なんて言われたり。
でも俯瞰でみるとどちらにも原因があったりするんです。きょうだいは他人同士だと思っていますし、“きょうだいだから仲良くしてね”っていう育て方はしていませんでした。
命に関わる怪我になりそうなとき以外はとりあえず様子見で。止めることもできますけど、子どものときに抑え込みすぎちゃうのって良くないと思うんですよ。多少痛い思いをしないと相手の気持ちもわからないですし。世の中に出る前に家庭内で経験できたことはよかったことだと思いますよ」
しかし決して放任主義なのではない。叱る際は叱る、ポイント戦術なのだ。
「唯一叱っていたのは、自分を見失っているようなときですね。そんなときは“違うよね”って伝えました。
でも我を失っているときは人の話が入っていかないじゃないですか。そういうときは、絶対に見捨てないということだけです。
何日も帰ってこない日があってもなにをいわれようと、当然のように“帰って来なさい”ってメールを送り続けました。余計なことは言いません。“私はちゃんとあなたを見ているから”って。だから最後にどうしようもなくなったら、私が手を下そうという覚悟もありました」
押さえどころを見極めて覚悟を持つ。子育て方針はないと語った千惠子さんだが、この信念はつねに持ち合わせていたのではないだろうか。進路についてのエピソードを聞くと、その様子を伺い知ることができた。
「子どもたちにはやりたいことはやらせてあげようと思っていました。自分の判断で身を引いて辞める分にはいいんですけど、親の判断で決めることではない。
主人は大学に行くだけ無駄だとか、大学に行ったからにはこういうことをしなくちゃいけないとかボヤくんですけど、物事まっとうできなかったとしても無駄はないじゃないですか。
今までとは違うタイプの人に会って話をしたり、さまざまな経験をする。そのことは自分が親になったときに生きてきたりもするんです。調子に乗って短期留学や大学院まで行った子もいますけどね(笑)」
子どもたちが望む進路を叶えるべく、経済面での奮闘も続いた。「買い物をする基準は、それがなくても死なないか」だったというほど極力無駄をなくし、子どもたちの将来を見越して貯蓄を続けた。
「つねに通帳とにらめっこしてやりくりしていました。子育てしていく上でかかるお金ってアバウトにわかるわけじゃないですか。見るのも辛いんですが、私は台所の壁に何月にいくら学費の振り込みが必要かメモを貼っておくようにしていました。子どもたちに噛み締めてもらう意味も込めて。
それ以前にお給料が入ったらすぐに決まった金額を貯金して、そこには一切手をつけませんでした。ボーナスや臨時収入もすべてプール。
みんなにも伝えているんですが、引き落としのない通帳をひとつ持ってなさいって。月に5千円でも1万円でもいいから、そこに貯めていくんです。小さいことだけど、まとまると大きくなるんでね。その上で注意力も大切ね。せっかくお金があっても注意力がないとすぐになくなってしまって終わりです」
きょうだいが多いことがもたらす効果とは?
子どもが多いと大変なイメージが先行しがちだが、もちろん利点もある。
「親が子どもひとり一人に対してこん詰めずに済んだので、負担になりすぎずみんな生きやすかったんじゃないかなって思いますよ。人数が少なかったら、気持ちが向きすぎちゃっていたかもしれません。
でも子どもたちから言わせると“そうじゃないよ”っていう言い分もあるみたいです。“もう少し自分を見て欲しかった”とか、逆に“あんまり見ないで”っていう子もいる。みんな同じ遺伝子から生まれたはずなのに、バラバラです(笑)。
あとは、主人の責任感がどんどん増していきました。頑張って出世して、給料袋も分厚くなっていきましたね」
大家族を養うために仕事道を邁進した父・晃さん。仕事のストレスからか、ときには千惠子さんにつらく当たることも。子育てをしていく上で夫婦のバランスはとても重要。その時期を千惠子さんはどう乗り切ったのか。
「主人と一緒に私まで倒れられないじゃないですか。そう思ったらイラ立ちがスーっと消えていきました。それに主人のことは尊敬しているんです。この話をするとよく“本当ですか?”って聞かれるんですけど(笑)。
きちんと働いてお金を稼いてきてくれるだけで十分なんです。だって相手に完璧を求めるのっておかしくないですか? 己が一番自分の期待を裏切るのに、他人になにを期待するの? って」
元々家事は千惠子さんがこなしていたが、この時期を経て、さらに家庭内のことはすべて千惠子さんの手に託されることになる。完全なる“分業スタイル”を、千惠子さんは「楽になりましたよ」と語る。
「だっていちいち相談しなくていいんですもん。テレビも見たい番組が見られるようになったし。でもね、根本的には優しい人だってわかっているんです。だから大丈夫だった。色々小言を言われましたが、心の中で“バカね〜”って思うだけに留めました。態度に出ていたかもしれませんけど(笑)」
怒涛の子育て期を過ごしていた千惠子さん。しかしグッと心に負担がかかることも。後編では、ストレス発散法とそこから見出した現代子育てにおけるテーマを伺う。
https://www.youtube.com/user/godsanji/videos
大家族シリーズ『7男2女の大家族 石田さんチ』(日本テレビ系)を初回から担当するプロデューサー・もっPこと澤本さんが手がけるYouTubeチャンネル。千惠子さんの「大家族レシピ」や、子育てや人生のお悩み相談「お母ちゃんのチエ袋」、番組のウラ話などを公開中。