著名な育児論や教育法はたくさんあるけれど、理想通りにいかないのが子育て。だからこそ、机上の空論ではなく、実際に日々悩み、模索しながら子育てに向き合ってきた先輩たちのリアルな声が聞きたい。そんな思いから、独自の育児をしてきた先輩パパママたちの“子育て論”を聞く本連載。今回は、大家族シリーズ『7男2女の大家族 石田さんチ』(日本テレビ系)のお母さん、石田千惠子さんの元へ。後編では、千惠子さんが子育て中に心の支えとなったことを聞く。さらにそこから考える、現役世代へのメッセージとは?
編集・文=石渡寛子 写真=村松巨規
奴隷だと思えば気が楽?! 千惠子流・子育て時間の考え方
家庭のことを一切任され、さらにPTA役員もこなしていた千惠子さん。そうなると自分の時間はないに等しい。
洗濯だけでも35kg、最低でも1日3回洗濯機を回していた時代もあったという。2011年に発売された著書『子どもの心に風邪を引かせない子育て』(マガジンハウス刊)にはパンチのあるフレーズが登場する。
“子育ては、親が子どもの奴隷でいる期間のこと”
「それはね、最初にそう思っちゃえばいいっていう話なんですよ。腹をくくるってことですね。そう考えておけば、少しでも自分の時間ができたときにラッキーって思えるでしょ?
赤ん坊のころとか本当に自分の時間なんてない時期もありますけどね。私もこう考えられるようになるにはそれなりに苦戦しました。
一番大事なことは、子どもの心に風邪をひかせないために、お母さん自身の心と体も健康でいること。自身の心身が元気なら、子どもの多少のことは“ハハハっ”って終わっちゃうから(笑)!」
「時間のやりくりは意識していなかった」と言いながら、多忙な時間を縫って自身の心身を保つための時間も設けていた。
「週刊文春と週刊新潮は定期購読して、新聞も読んでいました。私は、ドンチャン騒ぐことだけがストレス発散になるとは思わないんです。読書をしてすごいいい言葉に出会ったり、綺麗ななにかを見つけただけで“よしっ”って思ってすっきりする。
それにインターネットで自分が知りたい情報だけを見るよりも、新聞は知らないテーマやコラムも目に入ってくるでしょ? それが知識にもなります。ちょっと見かけただけでも頭の片隅に残る。
そうすると、子どもたちからの話題に対して極力“知らない”と発しなくて済むわけです。“なんかそれ載ってたね”って、それだけでも子どもは受け止めてくれたという気持ちになるから。母親はなるべくいろんなものにアンテナを張って、マルチタレントのようであるべきだなと考えていたことを、いま思い出しました(笑)」
取材時もテーブル上には山積みの書籍が。汚れないようにブックカバーで包まれ、一冊ずつに流れるような文字でタイトルが書き込まれていた。そしてもうひとジャンル、千惠子さんが続けている読書がある。
「子育て真っ最中の時期、漫画雑誌『ビッグコミック』をよく読んでいましたね。お気に入りの連載が3タイトルあって、楽しみにしていました。漫画は今でも好きでいくつか読んでいます。最近のおすすめは『BLUE GIANT』とその続編の『BLUE GIANT SUPREME』、あとは『薬屋のひとりごと』。今度孫にも持っていってあげようと思っているんです」
人に話すことでストレスを溜めない
「ずっと番組を担当してくれているプロデューサーから言わせると、私は家の中であったことを近所中に話しているっていうんですよね、いいことも悪いことも全部。自分の中だけのことにしない。
“近所中ではなくて、話す人は決まってる!”ってツッコんだんですけど。でもそうやって人に話すことで平常心を保っていたんです。身内より他人の方が話しやすい部分もありますし。
自分のことをなに様だとも思ってないので、家庭内のことをご近所に話すことに恥じらいとか一切なかったんです。番組スタッフにも色々と聞いてもらいました。“もうお父さんの愚痴は聞きたくありません”って言われたこともあります(笑)。“そのために来てるんでしょ!”って応戦しましたけど。
そういう意味では、一歩引いて子どもたちを見守ってくれるスタッフがいたこともありがたい環境でした。ちょっとずるいと思われてしまうかもしれませんけど、なにかのご加護ですかね」
恥をかいたっていい。生きることってそういうこと
ご近所も巻き込んで子育てをしてきた千惠子さん。他者との関わりが薄くなっている現在、どうしてもそこに踏み込めない家庭も多い。地域に根付いた子育てをするには、なにが必要なのだろうか。
「失敗を恐れないで一歩踏み出してみるってことですよね。よく思われようなんて考えずに、若いんだから失敗したっていいのよ。逆に若いから失敗できるんだし。
ただね、真正面からぶつかる必要もないと思うんですよ。少し斜めからでもいいし、表面だけでもいい。知ったかぶりをせずに、わからないことがあったら“教えてください”という姿勢で。
子育てって自分たちだけではできないじゃないですか。一歩家を出た瞬間から、子どもはなにをするかわからない。だからまわりを巻き込んだ方がいいですよね。
これもプロデューサーから言わせると、私は恥をかくことを恥だと思ってないって。恥をかくことでまわりの人がちゃんとみてくれるし、気にかけてくれるって分析していました。しかも自覚せずにやっているそうです(笑)。でもそうでしょ? 生きるって恥をかくことですしね」
まわりに「助けて」を言えることの大切さ
気力の支えがご近所やスタッフだとしたら、体力面の支えも気になるところ。末っ子の隼司さん出産時の年齢は41歳。すでに8人の子どもたちを抱え、どう体力をキープしていたのか。
「特別なことはなにもしていません。子どもたちを追いかけまわしていたくらいかな? ただ、お年頃になりだすと、人を使う能力がついてくるんです。それこそ、ご近所さんやスタッフに、助けてってお願いしていました。
だからね、人にちゃんと助けてって言える自分でいて欲しいですね。同時にヘルプサインを出したときに寄り添ってもらえる人間でいるために、人のことを想う心も持ち合わせてないとダメです。
自分ですべて背負って力み過ぎてしまって、背中にトゲが生えていたら、誰もさすってくれません。だからほどほどに。私も頑張り過ぎてないからみんなが入ってきてくれたんだと思います。
“なんでもできます!”って言っていたら、近寄りがたいでしょ? これはもう生きる知恵です。肩肘を張ってもしょうがない。だからといって自分をなくしてしまうのはもっとダメ。芯はしっかり持ってなくちゃね」
現在は子どもたち全員が独立し、子育て世代に。アドバイスを求められることは? と尋ねると、清々しいほどドライな返答が。
「あんまりないよね。私も聞かないし、干渉しない。知らなくていいことは耳に入れなくていいと思っているから。帰ってきたときの様子を見て“頑張ってね、でも頑張りすぎないで。こん詰めたらちょっと俯瞰から見な”って声をかけています。
〈“つ”がつくまでは膝の上〉という昔からの言い回しがあるんです。1つ、2つ、3つ……と9つまでは“つ”をつけて数えられるでしょ。だから9つまでにたっぷり愛情を注いで、基本的なしつけをしておこうという意味だそうです。
10歳になったら、距離の取り方を変えて、親が俯瞰で見始めなくちゃいけない。時代が変わっているので多少のズレは出るかもしれませんが、子育て中の子どもたちにはこの言葉を伝えたことがあると思います。それまでが勝負だよって。
でもこれが記事になったら、子どもたちから“誰がそんな話聞いたって?”って、いわれると思います(笑)」
取材を終わらせようとすると「今度は私が言いたいこと伝えてもいい?」と言って語り出した千惠子さん。それは自身の子育て経験ともリンクしつつ、世の中を俯瞰で見て至った考えのようだった。
「金融や介護のことを中・高校生の段階で授業に取り入れるっていう話があると思うんですけど、子どもたちに“助けて”っていえる場所も義務教育中に学校で教えてあげてほしいんです。すべて救ってあげることができないかもしれないけど、苦しいときに助けてって言いなさいって。
それを受け入れてくれるこんな場所があるよと。今、高校の進学率は高いけれど、途中でドロップアウトしてしまう子もいるわけだし、ヤングケアラーという問題もある。助けの求め方を学んでいれば、そこが回避できるかもしれない。ぜひこの想いが広がってくれるとうれしいですね」
https://www.youtube.com/user/godsanji/videos
大家族シリーズ『7男2女の大家族 石田さんチ』(日本テレビ系)を初回から担当するプロデューサー・モッさんPこと澤本さんが手がけるYouTubeチャンネル。千惠子さんの「大家族レシピ」や、子育てや人生のお悩み相談「お母ちゃんのチエ袋」、番組のウラ話などを公開中。