いまや何かを決め、判断するとき「データ」を欠かすことはできない。政策であろうが、ビジネスの決定であろうが、はたまた調査を分析するにしても、経験や直感だけに頼らず「データ」を取り、活用することが求められている。
それくらい多くの人にとって安心感があるのが「データ」なのだ。
一方で、使い方、捉え方ひとつで全く違った一面を見せてしまうのが「データ」だ。
正しいと思って取った戦略がうまくいかないとき、そのデータのとり方や見方、活用法が間違っているなんてことはいくらでもある。
だから、データをうまく利用していくには、そのデータをしっかりと活用する「データリテラシー」を鍛えなければいけない。
『長野智子 データの裏側』ではそんなデータが現代にどう扱われているのかを取り上げながら、データリテラシーを鍛えていく。
これまで「少子化」や「物価」、そして「世論調査」など社会にある誰もが一度は見聞きした「データ」について、その危うさ、何がミスリードを誘っているのか、どうしてそうなってしまうのか、を徹底解説してきた。
今回はその配信内容のひとつをテキストでご紹介する。
「生のデータ」の「背景」にあるものを見落とさない
多くのメディアや政府関係者が「日本経済はコロナ前の水準を回復した」といっている。確かに以前に比べればコロナによる社会的なリスクは減り、全体的に回復傾向にあるような気はする。
ただ「コロナ前の水準を回復」と言われると、納得いかない人も多いのではないだろうか。実際、このデータの使い方にはトリックがある。
長野 森永さん、これから私たちが、正しく現状や未来を予測するという意味でも、経済データの見方で、特に注意すべきことはありますか?
森永 「生のデータを見ましょう」ということです。
長野 生のデータ。
森永 いくつか事例を出したいと思うんですが……
この表に示したのは、2018年の第1四半期(1月~3月)から2022年の第3四半期(7月~9月)までの「実質GDP(実額)の推移」をグラフにしたものです。
簡単にいえば、GDP=国内総生産というのは、一国の経済の規模、つまり、ホントの国の実力だと、なんとなく思ってください。
このGDPについて、最近、メディアが何をいっているかというと、「日本のGDPは、コロナ前の水準を回復した」という言い方をしているわけです。
そこで、「生のデータを見てみましょう」ということで、グラフにしてみました。いちばん新しいデータである2022年の第3四半期(7月~9月)のところを見ていただくと、543.6兆円となっています。
さて、メディアがいっている「コロナ前」とはいつなのか?
日本におけるコロナ感染は、2020年の1月から始まったとされていますから、2020年の第1四半期(1月~3月)のひとつ前ということで、2019年の第4四半期(10月~12月)がこれに該当します。
2019年の第4四半期(10月~12月)の実質GDPの金額は、540.7兆円ですから、たしかにコロナ前の水準を上回っているというのは、ウソではないわけです。
そして、このデータを基に、わが国の政府は何をいっているか?
「もう日本経済は、コロナ禍で受けた経済減速を、すべて回復しました」というわけです。
そこで、「いや、ちょっと待て!」という話になるんですね。
長野 というのは……?
間違ってはないけどミスリードを誘うデータ
森永 この「コロナ前」といっている2019年第4四半期(10月~12月)の1つ前を見ていただくと、実質GDPは557兆円あります。
ですから、2019年の第3四半期(7月~9月)から見たら、全然、まだ回復していないわけです。
長野 確かに。コロナ前には回復しているけれどコロナ前が低かった……しかも特に落ち込んでいるタイミングですね?
森永 はい。まさに、次に気にしておきたいことはそこで、なぜ2019年の第3四半期(7月~9月)と第4四半期(10月~12月)の間に、こんなに大きな減額があったのか? というところなんです。
この間に、何があったんだっけ? 国が、あることをやってしまったんですね。
長野 消費税の増税だ。
森永 そうです。消費税の税率を、8%から10%に引き上げたんです。
先ほど、GDPって、一国の経済力っていいましたけど、内訳を見てみると、そのうちの6割は、僕らの消費した金額なんですよ。
消費税に関して僕は、「消費することに対する罰金」だと思っています。
だって、1000円のモノを買ったときに、なぜか余分に100円、払わなきゃいけないわけですから。
100円分、何か貰えるわけじゃないのに、払わされているわけです。ということは、消費税を上げるということは、GDPの6割を占めている消費を冷やすことになるから、増税した結果、グッと消費が落ちてしまったわけなんですよね。
だから政府が「コロナ前の水準を回復した」ってエラそうにいうけど、「いや、ちょっと待て!」と。
これは、自分たちで決めた増税のせいで落ちた地点と比べて、プラスになっているだけであって、本来、政治家が目指さなきゃいけないのは、増税する前の水準である557兆円よりも超える――もっと言えば、あの速度で成長してたら、おそらく今、580兆円くらいになっていたはずだろうから――ことのはずです。
これは、メディアを目だけで追っているだけの人からすると「ああ、たしかに、コロナ前より回復しているんだあ」って、なんとなく思ってしまう。
「じゃあ、増税されても仕方ないか」とさえ思わされますよね。話が終わってしまうわけです。
だから「ちゃんと生のデータを見ましょう」。これがまず大事です。
長野 確かに。2019年のときも、これ、ガクッと落ちてる感があるけど、引き続き、ずっと、デフレで本当に不景気。実質賃金も上がらず……そういう状況のなかで、消費税を上げたんですよね。
森永 さらにいうと、2014年も、全く同じ状態だったのに、消費税を5%から8%に引き上げているわけですから、「何してんの!」っていう(笑)。
データを見れば、今、政府がやろうとしてることっていうのが、「明らかに、おかしい!」と言える。これが「生のデータを見る」必要性に対する一つ目の例です。
【全配信は以下から】
前編:「物価上昇を実感していない」人がいます。なぜ?」
中編:「給料が上がっていないのに、“賃金は上がってる”論の怪を解く。」
後編:「日本人はインフレが起きてもモノを買う」を示すグラフにある罠。
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🔰シンクロナスの楽しみ方
データを知っていても、数字が出ていても、課題が解決しない。ビジネス、政治、日常のさまざまなところでそんな場面に出くわします。なぜ?それは、欠かすことのできない「データ&数字」が、本当に示していることの背景を理解していないことに原因があるのかもしれません。
本コンテンツでは、ジャーナリストの長野智子さんを編集長に、重要なニュースやテーマにまつわる「データ」をピックアップ(音声)。その数字が示していることについて会議・取材(動画)をし、最後にまとめ(記事)ていきます。
「データ」の背景を紐解きながら、取材過程を【音声・動画・記事】で配信。その読み方を楽しく、わかりやすく学んでいくコンテンツです。
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