日本サッカー界へのヒント【まとめ】
昨年(2022年)4月、リーガ2部のFCカルタヘナでプレーしていた岡崎慎司は、ヨーロッパでプレーし続けるなかで感じた「日本サッカーへの期待」を具体的に深堀り、言語化したいと考え、コンテンツ「dialoguew/〜世界への挑戦状」をスタートさせた。
海外で指導する多くの指導者を中心に、トップアスリートや各分野のスペシャリストとの対談をLiveで行ない、どうすれば自身が感じていた「期待」を還元できるか、そのヒントを探し続ける。
話を聞いた人数は14、対談数は16回にのぼる。
「だいぶ、自分のなかで(日本サッカーのために)何をしなければいけないのかが見えてきた」(岡崎慎司)
2023年9月以降、その見えてきたものを具体化していくために「対談」に加え「議論」をスタートさせる第2シーズンをスタートさせる。
そこで今回は、この1年でご登場いただいた「海外指導者組」6人の欧州指導者との対談を中心に日本とヨーロッパとのギャップ、そこにあるキーワードのまとめを配信する。
文:シンクロナス編集部
・山下喬さん((FCバサラ・マインツ監督/ドイツ)
・尾崎剛士さん(レバンテUD国際部/スペイン)
・宮沢悠生さん(FCリーフェリングコーチ/オーストリア)
・中野吉之伴さん(フライブルガーFCU12監督兼SVホッホドルフU19監督/ドイツ)
・モラス雅輝さん(SKNザンクト・ペルテンTD/オーストリア)
・松岡裕三郎(京都サンガF.C. アカデミー統括GKコーチ兼U-18GKコーチ)
第2シーズンスタート、対談から「議論」へ
「2026年には結果が出てくるはずだ」(村井満)
「欧州に追いつけ、追い越せ」を合言葉に、日本サッカーは1998年の初出場から飛躍的に進歩を遂げた。
あれから24年――。昨年のW杯カタール大会では、日本は優勝経験国のドイツとスペインを下してベスト16で大会を終えた。
世界との距離感は縮まっているのか、それとも、その差は広がっているのか。目標のベスト8の壁を越えることができなかったのはなぜか。この先に進むには、なにが必要なのか。
世界の国々でもさまざまな議論や改革が行なわれているのが、例えば、Jリーグでは育成改革の一つとして、4年前の2019年にワールドクラスの選手を輩出することを目的にした「PROJECT DNA」を始動させた。
これはイングランドが2012年にEトリプルP(エリート・プレーヤー・パフォーマンス・プラン)という育成プログラムがお手本だ。2017年のU-17W杯、U-20W杯でダブル優勝し、2018年ロシアW杯でベスト4入り。当時のイングランド躍進の背景を分析し、村井満・Jリーグチェアマン(当時)が持ち込み、「2026年には結果が出てくるはずだ」(村井さん)と言う。
世界最高峰のプレミアリーグを持つイングランドですら、自国のエリートを育てるために長期的な目線に立ったシステムや仕組みの改革に着手している。後進国の日本がそれにならって追走するのは当然だろう。
「ドイツと日本サッカー界での悩み、問題点はちょっと似てるところがある」(山下喬)
一方、指導現場ではどのような違いや課題があるのか。もっとも、日本と欧州の先進国では、フットボールの歴史の長さが違うため、直面する課題や悩みが違うはずだ。
プロサッカー選手として欧州の第一線で戦い続ける岡崎慎司さんは、「先進国の欧州に追いつくには、日本が誇れる武器とはなにか、そして欧州にあって日本にはないものを必要がある」と言い続ける。
ドイツ、イングランド、スペイン、そしてベルギーといった強豪国でプロ選手としてまさに現場レベルで体感してきたからこそ、その思いは強い。
サッカー大国・ドイツの現場で長年指導している山下喬さんと中野吉之伴さん。
ドイツ6部に所属する「FCバサラ・マインツ」の会長兼監督を務める山下喬さんは23歳で現役を引退して2010年から指導者になり、2014年に岡崎慎司さんとともに「FCバサラ・マインツ」を設立した。
11部からスタートし、現在はドイツ6部に所属するなどステップアップを遂げているクラブで、山下さんはドイツサッカーと日本サッカーが直面する課題について、次のように語っている。
「ドイツには長くいるものの、日本の育成現場で行なわれていることや悩みなどを目の当たりにしてない。そのため、ドイツと日本の育成の差がどの点にあるのか明確には言えない」と前置きしたうえで、「悩みというか問題点はちょっと似てるところがある」と指摘する。
「日本では勝ちたいと思っている指導者が多いという話もたまに聞く。でも、実はドイツでも同じような悩みを抱えている」(山下さん)
日本は欧州に近づいているものの、欧州にあるスタンダードが無いものはたくさんある」(中野吉之伴さん)
ドイツで20年以上も育成年代の指導現場に立つ中野吉之伴さんは、ドイツが現在直面する育成問題について次のように分析する。
「カイ・ハフェルツ(チェルシー)、フロリアン・ヴィルツ(レヴァークーゼン)などの才能がドイツの育成から巣立っていくなかで、さらなるトップオブトップの選手を育成するという点では、ドイツはまた一つ変化が必要」(中野さん)
一方、「日本は欧州に近づいているものの、欧州にあるスタンダードが無いものはたくさんある」(中野さん)とも言う。
スペインに比べて(日本のサッカーは)10年近く遅れをとっているのは事実(尾崎剛士)
スペインのバレンシアに11年住む尾崎剛士さんは、レバンテUD国際部に在籍しながら、高校の強豪・高川学園サッカー部の戦術コーチなどの肩書きを持つ。
分析官という目線から、「僕からすると、スペインに比べて(日本のサッカーは)10年近く遅れをとっているのは事実。徹底的にその10 年間を取り戻すために、我々(日本)は徹底的に学ぶべきだ」と主張する。
目で見て体感して自分のなかで考えて基準を作る(宮沢悠生)
日本と欧州のサッカーのギャップについて、オーストリアサッカーの現場に身を置く宮沢悠生さん。撮影当時、宮沢さんはレッドブル・ザルツブルクU-15・U-16のコーチとして活動し、現在はザルツブルクのセカンドチーム、FCリーフェリングのコーチとして活動している。
ご存知のとおり、レッドブル・ザルツブルクは、2017-18ヨーロッパリーグ準決勝進出、2021-22チャンピオンズリーグ・ラウンド16進出と近年のヨーロッパコンペティションで好成績を残す。育成からトップチームまで一気通貫して「貫ける」クラブの育成スタイルがあるという。
「レッドブル・ザルツブルクの哲学は、ゴールに向かうこと。世界の強豪と渡り合うための一つの育成方法」(宮沢さん)
それに対して、日本はどのような基準や哲学を持って世界と戦っていくべきか。彼の見解はこうだ。
宮沢さんが考える日本サッカーの基準を上げていく指導法は2つ。
・当たり前・当然というものに疑いを持って指導すること
・目で見て体感して自分のなかで考えて基準を作ること
しかし、その基準を上げていくためには、大きなハードルがあるとも感じている。
今までやってきたトレーニングや練習をまず疑うことで、「本物は何か?」と思い始める。その気づきから始めることが大切だと指摘する。しかし、「ただ、変えるには、今までやってきたことを否定しないといけない。日本人の文化としては難しい部分」(宮沢さん)でもあると言う。
育成や指導方法に正解はない。一つの国だけでも数多く存在する。だからこそ奥深く、興味は尽きない。
「欧州にあって日本にないものは何か」
日本サッカーが今後も成長していくためには、もっと多くの現場の声を知るべきだろう。
後編では、 GK大国ドイツで指導経験を持つ松岡裕三郎さん(京都サンガアカデミー統括GKコーチ)、ドイツ・日本・オーストリアの3カ国で、監督・コーチ・ディレクターとして幅広く活躍しているモラス雅輝さん(SKNザンクト・ペルテン/テクニカルディレクター)のそれぞれの「見解」を紹介する。
「Dialogue w/ 欧州指導者組」の2年目は、欧州と日本とのギャップや課題について、岡崎選手がこれまでご登場いただいた海外指導者組(山下喬さん、尾崎剛士さん、宮沢悠生さん、中野吉之伴さん、モラス雅輝さん)などとさまざまなテーマを議論します。
第1回は「欧州と日本の指導アプローチ」について。厳しい練習とはなにか?日本の指導者は選手をコントロールしすぎなのか?現場目線で指導の違いについて深掘りしていきます。ゲスト:モラス雅輝さんほか(予定)
ご購入いただくと過去記事含むすべてのコンテンツがご覧になれます。
過去のコンテンツも全て閲覧可能な月額サブスクリプションサービスです。
🔰シンクロナスの楽しみ方
日本サッカー、スポーツには世界に誇るべきポテンシャルがある。けれどそれはまだまだ世界に認められていない――岡崎慎司は欧州で13年目のプレーを迎え、その思いを強く持つ。胸を張って「日本サッカー」「日本のスポーツ」を誇るために必要なことは何か。岡崎は言う。
「新しいサッカーやスポーツの価値を探し、作っていくアクションが必要」。
「欧州にあって日本にないもの」「新しい価値を作るためのキーワード」をベースに、海外で活躍する日本人指導者や各界の第一人者たちと語り、学び、交流し、実行に移していく実験的場所!
会員登録がまだの方は会員登録後に商品をご購入ください。