渡部陽一が撮ってきた「戦場の写真」をベースに、争いの背景、現実とその地域の魅力について解説するコンテンツ、渡部陽一【1000枚の「戦場」】。今回は特別編として、戦場カメラマンの仕事についてインタビュー。当然、電波もない砂漠から、撮った写真をスピーディに送る技とは?
この記事は【動画】【渡部陽一】世界中から写真を届ける戦場カメラマンの技の内容を抜粋、再編集したものです。
文=シンクロナス編集部
それは2003年。
サダム・フセイン大統領とアメリカのジョージ・ブッシュ大統領が激突した2003年3月20日、イラク戦争が開戦。世界中のカメラマンがバグダットに到着し、それぞれバグダット南部のバスラ、北部のモスール、さらにはフセイン大統領の故郷のディクリート、さらには日本の自衛隊が派遣されたサマーワ、その横の激戦地ナーシリーア、各都市に殺到しました。
イラク戦争の最前線で見た最新のカメラとは?
現場には続々と錚々たるトップカメラマンが集まってきた。「わぁ、あの有名なカメラマンがあそこで写真撮ってる!「ライフの専属カメラマンだ!」「ニューズウィーク来ている!」「ここではアルジャジーラ(カタールのドーハに本社を置く衛生テレビ局)がいる!」
前線で話をして「カメラ見せて」と僕が言うと、だいたいデジカメ。2003年は各メーカーがいわゆるフラッグシップと呼ばれるトップのカメラがもうデジタル仕様になっていて、もうみんなそれを使っているんですね。
当時僕もデジカメを持ってきてたのですが、僕が使ってるデジカメはファミリー仕様で画素数も小さいもので、トップカメラマンが10秒間に100枚単位で撮るなかで、僕は10枚単位で向き合っていく。
「一撮入魂」のフィルム感覚で撮っていたんですけど、このデシカメは僕にとってカメラというメカの喜びであり、苦しみであった。
パソコン、車、バイク……etc. さまざまなメカがあるんですけど、僕にとってカメラというこのメカに関しては、進化のスピードにいかについていけるか──。世界中のカメラマンのステージではすごく勉強になり、苦しみ、喜び、今でも戦っている状況なんですね。
僕にとってカメラとは、タフであり、瞬発的なものをいかにパパッと撮れるか、このスピードについていけるかなんです。現代の最新鋭のものは、ハイスピードも飽和状態まで来ているので、一般仕様でもプロ仕様でもさすがだなと思いますね。
世界中を回る中で、目標は200カ国すべてを回り切ること。そしてカメラマンとして、最新鋭のカメラでついていくこと。これは僕にとって難しさでもあり、大変さでもあり、喜びでもあるんです。
どうやって電波のない砂漠から写真データを送るのか?
もうひとつ、カメラの技術的な面で、皆様にお伝えできればということがあります。
アラビア語で“ハムシーン”と呼ばれ、砂漠の砂塵が舞ってブラックアウト、もしくはホワイトアウトする砂漠の紛争地の前線。
映画『アラビアのロレンス』の世界ではないですけど、ハムシーンで視界が遮られた時、どうやって写真を戦場の砂漠から送っているのか?
僕が普段使っているカメラを持ってきました。画角や構図が体に染みるほど常に一緒に暮らしているカメラです。カメラとメディアデータのほかに、国際衛星電話の“インマルサット”、そしてパソコンを少し分厚くしたぐらいの大きさの “ビーギャン”と呼ばれる通信衛星データ通信を持っていきます。
撮影すると、すぐに移動している車の天井に置いてアンテナ立てて、宇宙衛生の安定のシグナルをとらえて、すぐにインマルサットを繋げて、できる限り耐える画素数に整えて、一気に20枚から30枚、契約をしている通信社や編集部に送るんです。
各写真には、撮影場所や時間、そして一定のキャプションと呼ばれる文章、写真の背景、それらを全て打ち込んで、データを処理してすぐに出せるか。瞬時に送るこのスピード感は、戦場で世界中のカメラマンから教わったんですね。
地域によって変わる、戦争写真のストーリーや写真の組み立て方
ヨーロッパ方面のメディアがどんなストーリーを求めているのか、アジアのメディアがどんなストーリーの写真の色合いを求めているのか、中東方面であれば、どんな写真の作り方がいいのか。
それぞれの地域が好む修正や組み立て方をたくさんのカメラマンに教わり、そのように組み立てていくと、撮った写真がすぐに朝刊に載ったり、世界中の英字新聞の一面をとらえたり、非常にたくさんの技がありました。
カメラ、パソコン、国際電話のインマルサット、データ通信専用のビーギャン、これを両手が空くくらいで持って、フィルム時代にはなかった荷物の装備で動いていく。
カメラマンとして、これから行きたい国がたくさんあります。ウクライナ情勢が動いていく中でウクライナに入り、その周辺のベラルーシ、バルト三国、東欧諸国、もちろんモルド、黒海周辺の国。こうした世界各国の地域を更に追いかけていきたいと思っています。
今回は僕の分身、カメラでの現場での動き方という切り口でご報告させていただきました。
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