ゲーテWeb で1200万PV超の岸博幸氏の連載が書籍化。がんを宣告されてから一番大変でストレスフルだったと語る入院までの生活とは。「余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。」(幻冬舎)から、「はじめに」の一部を紹介する―(2回/全2回)
入院時期をめぐって主治医とバトル
体調の悪さが病気のせいだとわかったこと、その病気に対する治療法が確立されているということ、治療すればあと10年から15年は生きられるということ。主治医の説明は丁寧でわかりやすかった。
ただ、主治医から「血液数値が異常なレベルなので、今日から入院してもらい、治療を開始したい」と言われた時は困った。
すでに翌月(2月)は、休みがない位に仕事のスケジュールが埋まっていた。特にテレビや講演などは、かなり前から予定が組まれるので、直前キャンセルとなれば、多方面に迷惑がかかる。それは、仕事人間の僕としては本意ではない。
ただし、1ヵ月後の3月以降のスケジュールであれば、調整可能かもしれない。そこで、「入院は1ヵ月待ってほしい」と訴えたのだが、主治医も、「不整脈を起こしたら死んでしまうかもしれないのだから、一刻も早く治療を始めるべき」と言って譲らない。
ちなみに、多発性骨髄腫の状態は、血液中の免疫グロブリンの値で判断するようだが、そのうち免疫グロブリンGを例にとると、その基準値は上限が1747で下限が861であるのに対して、僕は10145というかなり異常な数値だったので、主治医がこう言うのも無理はなかった。
それから、「今日にでも入院を」「1ヵ月後じゃないとムリ」と、押し問答が始まったが、「オレはバカじゃないか」と内心思っていた。だって、その道の第一人者から「今すぐ治療を始めないと命を落とす危険がある」と言われているのに、治療を後回しにし、仕事を優先しようとしているのだから。
仕事を引き受けたからには責任があるとか、自分の仕事に対するプライドだとか、もっともらしい理由はいくらでも言える。でも、そんな〝屁理屈〞を並べて、仕事を優先した結果、命を落としてしまったら、単なる大バカ者だ。
でもまぁ、この時に感じた「自分はとことんバカだ」という反省が、その後の自分なりの悟りにつながるのだが……。
最終的に、「2月中は、通院で容体を監視しながら治療を始める」「水分と栄養と睡眠時間をたっぷり摂る」ことを条件に、主治医には3月入院を認めてもらった。
今思い返しても、一番大変で、ストレスフルだったのは入院までの1ヵ月だった。
週に1回は注射と体調チェックのために病院に行き、毎日多量の薬を服用し、生活習慣も改めた。それまでの僕は不摂生の典型で、食事は1日1回かせいぜい2回で、水分もあまり摂らなかったけれど、朝昼晩と食べるようにし、水分も頻繁に摂るようにした。
睡眠時間も1日4〜5時間だったのが、最低でも6〜7時間は眠るように心がけた。
そうした生活を送りつつ、いつ、どこで不整脈を起こしてもおかしくないのだと内心常に恐れながら、日帰りの地方出張を繰り返す。そんな精神的に余裕がない状況が、約1ヵ月続いた。
病名判明から40日後にようやく入院
病気が判明して約40日が過ぎた2月28日、ようやく病院に入院して、本格的な治療が始まった。
骨の中に溜まった骨髄腫細胞を血管に押し出して尿と共に体外に排出するという、第一弾となる治療を夏まで通院で続けるにあたり、内臓に悪影響が出ないかどうか、経過観察をするためだ。
この治療は、毎日2リットルもの点滴に加え、輸血に注射、服薬と盛りだくさんだったが、幸い体への支障はほとんどなく、2週間で無事に退院。息子の小学校卒業式にもなんとか間に合い、参列できた。
治療第2弾を受けるために、再び入院したのは、7月20日のことだった。そこで行ったのは、造血幹細胞移植。自分の血液中から、血液をつくる造血幹細胞(自家造血幹細胞)を採取して凍結保存した後、抗がん剤を使って、がん化した形質細胞を攻撃。
極限まで減らしてから、凍結しておいた造血幹細胞を解凍して体内に戻し、造血機能を回復させるという治療法だ。
最初の入院の際は、病気のことはごく一部の人にしか伝えていなかった。けれど今回は、あらかじめ主治医から、入院は4〜6週間の期間になると告げられていた。
仕事のスケジュールは調整したとはいえ、身動きがとれなくなる期間が長くなるのだから、仕事の関係先や友人・知り合いに病気と入院のことを知らせた方がいい。そう考えたものの、個々に連絡するのは面倒くさい。そこで、入院中の7月24日、仕事先や知人への同時通報のつもりで、X(旧Twitter)に多発性骨髄腫にかかっていること、その治療のために8月下旬まで入院する旨を書きこんだ。
ところが、それが思いがけずネットニュースに取り上げられ、予想以上に多くの人からお見舞いや励ましの連絡をいただくことになった。この一件で、僕は、人のやさしさに感動すると同時に、ネットの威力を改めて思い知った。
4月10日(水)19:30~岸博幸氏のLive配信決定
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