前侍ジャパン監督であり、北海道日本ハムファイターズCBOの栗山英樹氏の新刊『監督の財産』が話題だ。
総ページ848。その分厚さもさることながら、監督「当時」に書いた生々しい言葉と、振り返った「今」との対比が鮮明で、「こういう本が欲しかった」と指導者・リーダーたちから喜ばれる。
今回は本書の中から栗山英樹にとって何よりも大事な存在「北海道日本ハムファイターズ」というチームについて紹介する。
野球をリスペクトして、先入観を捨てる
(『監督の財産』収録「6 稚心を去る」より。執筆は2018年11月)
ファイターズはどんな球団か?
表現はいくつもありそうだが、あえて客観的に言うと「野球をリスペクトして、先入観を捨てて向き合っている球団」というのが本質に近いような気がする。
先入観にとらわれていると、本当の意味で前に進めなくなる。
もっと良いものがあるんだ、もっと良くしなきゃいけないんだと信じて、つねに進化し続けなければチームは強くならない。
それに対して我々は、誰が何と言おうと、そこに向かって進むんだという強いものはあると自負している。
何と言っても、大谷翔平の二刀流への挑戦が象徴的だ。先入観があったら絶対に決断できない挑戦だったし、野球へのリスペクトがなければ成功しないものだった。
その経験もあるので、周囲から多少雑音が聞こえてきても、いやいや、選手のために我々は進む、という平常心でいられる。
プロスポーツのチームマネジメントは、勝つことから逆算して、そこに選手個々を当てはめていくという考え方が一般的ではないだろうか。
すべてはチームの勝利のためでなければならない。それはプロスポーツである以上、当然のことだ。
ただ、ファイターズの場合、そこへのアプローチがやや独特だ。監督、コーチだけでなくチーム全体が、選手一人ひとりのために100%向かっていくことが、一番チームを勝ちやすくすることだと我々は認識している。「チームの勝利のため」に、「選手一人ひとりのため」を徹底する。そこはいっさいブレることがない。
その年一番良い選手を1位で指名する
ファイターズのチームカラーというと、ドラフトを思い浮かべる方が多いかもしれない。
実際、球団のことで、一番よく尋ねられるのがドラフトに対する考え方だ。
これは皆さんが思われている通り、とにかくその年一番良い選手を1で指名する、これが大方針。だから、ドラフト会議直前の議論は、いつも「誰を指名するか」ではなく「誰が一番か」ということになる。
昨年(2018年/編集部注:執筆当時)のように、大阪桐蔭の根尾昂か、金足農業の吉田輝星か、本当に甲乙付けがたい場合のみ、どちらを指名するかという話し合いになるが、その決定に「競合を避ける」といったいわゆる戦略的な観点が持ち込まれることはない。何球団競合しようが、良いものは良い。我々は、その選手を指名する。
ただ、2位以降は少し状況が変わってくる。
なんせ、ドラフトは思った通りにはいってくれない。明確なビジョンをもって指名を進めていかないと、ただ良い選手を順番に獲っているだけだと、チームをどうしたいのかが見えてこない。他球団の指名を見ていても、ドラフトは本当に難しいと感じることが多い。
そんな中、「ファイターズに行きたい」と言ってくれている選手がいると聞くと、本当に嬉しい気持ちになる。うちには、ある程度、早い段階から試合で使ってもらえるというイメージがあるからなのかもしれない。こっちも、選手は試合でしかうまくならないと思っているから、使わなければ意味がないと考えている。
そういった点も含め、ファイターズを好意的に受け止めてくれる選手が多くなっているのだとすれば、それは「野球をリスペクトする」チームカラーが浸透し始めている表れなのだと思う。
ファイターズには心から野球をリスペクトするスタッフが揃っていてくれることが、その一員である我々の誇りだ。選手が「行きたい」と言ってくれるのは、野球の神様がそれに対するご褒美をくれているんだと思っている。
(『監督の財産』収録「6 稚心を去る」より。執筆は2018年10月)