#5 Dialogue with 夫馬賢治(金融・戦略コンサルタント)

(再生時間:46分39秒/聞き手:シンクロナス編集部)

岡崎慎司、聞く。

 ESG投資の日本の第一人者・夫馬賢治さんの対談後編です!

 前編でもお話いただいたとおり、夫馬さんは1年前からJリーグの特任理事を務められていて、スポーツにはもっとESG(環境・社会・企業統治)への積極的な関与が必要だと強調されています。

 例えば、僕が選手でありながら「地元への恩返し」という意味で、地元に自分たちのグラウンドをつくって子どもたちのアカデミーをつくりたいと思ったこと。

 チームメンバーが奮闘してくれたわけですが、グラウンドができるまでにはたくさんのハードルがありました。

 でもいざグラウンドをつくると「できて終わり」ではなく、社会貢献活動がもっとやりやすい環境ができれば、もっと日本のスポーツ・サッカーが発展するのに……と感じ始めていた。

 その思いはビジネスの世界で活躍される夫馬さんも同じように持っていることを今回の対談を通して知ることができました。

 日本のスポーツやサッカーが発展するためには、なぜESGが必要なのか。後編では、ESG投資の成功事例やWEリーグの価値など、夫馬さんにさらにESGとスポーツの可能性を深掘りしていただいています。

 ぜひみ聞いてみてください!

ESG投資から見えてくる日本と欧州とのギャップ

ESG投資の日本の第一人者である夫馬賢治さんとの対談・後編。日本のスポーツやサッカーが発展するためには、なぜESGが必要なのか。ESG投資の成功事例やWEリーグの価値など(以下は本編の一部)。

――「スポーツは(社会から)ありがたいものと思われている」という点でいうと「感動」などのキーワードがまず存在しています。加えて、そこにESG視点の投資(その形態がもともと持っていた帳簿に載っているような価値だけではなく)的な発想が、本当に社会や身近にあって「ありがたい存在」であるのでしょうか。

夫馬賢治(以下、夫馬) (非財務価値の開示は)ヨーロッパが世界で一番初めに政策として導入しました(※)。今まで企業は会計を報告するのは特に上場企業は当たり前なんですけど、その情報だけじゃなくて、非財務――例えばCO2の排出量とか、そもそも(企業は)従業員に対してどういう風に向き合っているのか。まわりの地域社会とどういう関係があるのか。これの報告義務を大企業に課したんですね。

※2014年、欧州理事会はEU域内の大企業に対して非財務情報および取締役会構成員の多様性に関する情報開示指令を採択・承認した。これにより、EUの大企業は非財務情報(環境面、社会面、従業員に関連する事項、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄など)を年次で報告することが義務づけられている。

 なので、(ヨーロッパの)大企業たちはいち早くそこについての情報開示を進めていきました。情報開示によってはじめて、いろんな会社で「ちょっとこれ出せない」「出せなくないか」「後ろめたくて出せないよね、でも出さなきゃいけないなど会社のなかで改善しよう」という動きにつながっていたんですね。

 さらに地域との関係性も変えていこうと。自分たちがちょっと無視してきた環境問題についても向き合っていこうと、社内でどんどん形が大きくなっていきました。

岡崎慎司(以下、岡崎) なるほど。

夫馬 この10年間、ヨーロッパの会社はずっとそれをやってきたので、今、(メルセデス・)ベンツも含めて堂々と“今”を語れる状態になっています。

 これがようやく今、日本にこの1年ぐらいに政策としても始まってきているので、これから10年間は期待したいなと。

 でもこの足を速めなければいけない。どうしたらもっと加速できるかと。まさに、ここは選手のみなさんも一緒になって言っていただければと思いますね。

――岡崎さんから見て、これまで(選手として)クラブの中にいて、そういうお金のことだったり、それ以外の「(ピッチだけじゃない)周辺の価値」みたいなことを自分の頭の中に入れた選手として立ち位置を取れるようになったというのはいつからですか。

岡崎 自分がそのことに対してそんなに考えてきたわけじゃないんですけど、日本代表が入ってからですね。社会貢献というか、恩返しというか。

 僕は大きなことをあんまり考えないタイプなんで、まずは自分が育った町にアカデミーをつくって、その子どもたちに自分の経験を伝えることでも社会貢献になると思って。それで10年前ぐらい、僕が海外にちょうど行ったぐらいの時からそのアカデミーを作ろうという目標ができたんです。

 そこから(相方と)イチからサッカースクールを勉強して、地域の人たちとコミュニケーションを取りながらやってきましたが、最初は感覚的にそんなにうまくいきませんでした。

 でも、ヨーロッパだったらすぐ作れる。例えば国がもう(フィールドなどを)作ってくれていたりするわけです。

 なんで、日本はこんなに作るのにもいろんな許可が必要だったり、いろんな人に嫌だと言われたり……。僕からしたら普通グラウンドとかあったら、みんなからありがたいんじゃないの? って思ってたんです。
 
(グラウンドができるまで)2年ぐらいかかったんですが、例えば、お金を出してもらうのも、基本的には“未来への投資”といっても、貸す側は「結局どうやってお金を返していくのか」から始まる

 すると、この話ができなくなってしまう。そこで、自分たちの力でその場所は作って、そこからどういう風に価値を生み出していくかというのを見せていこうと。

 だから最初は自分がもう負担するしかないと。そういった部分も含めて、相方と一緒に理想と現実を歩んでいきましたね。
 
(略)
 
――グラウンドの話などをうかがって、岡崎さんの場合は土地代はポケットマネーから、そして頑張って銀行に何度も書類を出して、ようやく融資を受けたという形をとられました。

 例えば、そのときにESG投資や投資家という選択肢があれば、これはスポーツの目指す方向性がかなう投資家・企業なりを探してくることができる可能性があると考えてもいいのでしょうか?

夫馬 これは投資家もそうですけど、まだまだ半ばですが、銀行もこれから変わろうとしているんですね。

 今のお話もすごくいい事例というか、こういう風に変わっていってほしいなと、世の中が変わっていってほしいなと思うんですけど……今、銀行もお金を貸すとなると、このフィールドでいくら出るんだっていうことにずっと狭く狭く物事を捉えようとするんですね。

 フィールドがあることで、どれだけ街自体が元気になるか、人が寄ってくるのか、子どもたちが活躍できるのかということは全部除外しちゃうんですよ。

 さっきの例でいうと、純粋な財務価値のことだけずっと見て、非財務価値についてはあえてかわからないですが、考えないようにしているんですね。

 これが、今まさに銀行ですら変わろうとしてきている。
 
 街でなにか新しいことを始めていくときに、周辺への影響というものがどういうふうにあるのかとか。

 僕も自分の会社を2013年につくってから、普及をいろんな形でやってきていますが、そもそも放っておくと、地元も課題の山だし、例えばスポーツでも学校でもそう。

 僕が学生のときと学校も大きく変わってしまって、学校の先生が大変すぎるので部活は学校の顧問ができないから、別の人がいなきゃいけない。グラウンドも使えなくなっちゃうかもしれないから、別のグラウンドなどを使わないと部活すらできないみたいな状態がどんどんできているときに、大丈夫ですかと。

 今、ここでフィールドを建てないと、地元のサッカーの部活もできなくなっちゃうかもしれないんですよ、と。

 こういうことまで実は話していかないと、銀行も知らなかったりするんですね。

「こういう状況だから周りにどんな課題があって、そのためにこれがどれくらいありがたいのか」っていうことを、銀行にもお金を出すスポンサーに対して、一緒に説明していくと、理解される時代が着々と来ていますね。……続きはフルバージョンで

【動画内容】ヘッドライン

◇ESGはなぜありがたい存在なのか?☜ピックアップ
◇選手が考える社会貢献☜ピックアップ
◇環境をつくって変えることが一つのチャレンジ
◇ESG投資の成功事例と取り組み
◇ダイバーシティとスポーツ
◇女子サッカー・スポーツの持つ価値
◇企業がスポーツ界に期待していること
◇WEリーグの市場価値と可能性
◇みんなで盛り上げればWEリーグの価値が上がる
◇大事なのは中長期ビジョンを持つこと
◇ESG投資で日本サッカーは救われる?
◇Jリーグ発足時の企業価値はプレミアリーグと一緒
◇Jリーグとプレミアリーグの差にヒントがある
◇早く動けば早く価値が広がる
◇長期戦略で注目されている企業とは

◆時間:46分39秒

 

次回、dialoguew/#6  鈴木隆行さん(元サッカー日本代表)
8月17日(水)配信予定です。

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